空即是色とは?
空即是色は「くうそくぜしき」と読み、仏教用語です。
ここでは、空即是色の言葉の由来や、色即是空(しきそくぜくう)との違いを見ていきます。
言葉の由来は般若心経
くう‐そく‐ぜ‐しき【空即是色】
出典:小学館 デジタル大辞泉
仏語。一切の存在は現象であって空であるが、その空であることが体得されると、その現象としての存在がそのまま実在であるとわかるということ。「般若心経はんにゃしんぎょう」には「色即是空、空即是色」とある。
空即是色は、般若心経というお経の中にある言葉です。般若心経は、三蔵法師として名高い玄奘(げんじょう)がインドから中国に持ち帰った「大般若波羅蜜多経(大般若経)」を原書とするとされています。全16部600巻に及ぶ膨大な経典の内容を、簡潔に表したのが般若心経です。
「空」とは「からっぽ」という意味ではなく、実体がない(定まった形がない)ことを指し、空であることではじめて現象界の万物(色)が成立するということを表しています。
色即是空との違い
般若心経には、色即是空という言葉も出てきます。色即是空とは、この世に存在するあらゆる事物や現象はすべて実体がなく仮のもので、本質は空であるという意味です。
しき‐そく‐ぜ‐くう【色即是空】
出典:小学館 デジタル大辞泉
仏語。この世にある一切の物質的なものは、そのまま空であるということ。「般若心経」にある語。→空即是色
空即是色と色即是空は一方のみでは成り立たず、セットで唱えることに意味があるとされます。
色即是空と空即是色は、この世の根本である「空」がすべての存在を成り立たせていることを別々の視点から説明しているもので、異なるものではないと考えられています。
空即是色の「空」と「色」の意味
般若心経には「色」や「空」という文字が繰り返され、 経文の重要なキーワードとなっています。「色」は目に見えるもの、「空」は目に見えないものを指します。
「空が色である」とする空即是色について理解するには、「空」と「色」の意味を押さえておきたいところ。ここでは、「空」と「色」それぞれの意味をチェックします。
「空」とは
般若心経では、「空の思想」が中心となって説かれています。先述のように「空」は「実体がない」という意味で、「すべてのものは刻々と変化していき、不変のものは存在しない」という色即是空が「空」について明確に説明しています。
般若心経は、この「空の思想」により「すべてのものには実体がなく変化するから、苦しみも悲しみも恐れる必要はない」と唱えているのです。
「色」とは
「空」が実体のないものであるのに対し、「色」とは実体であり目に見えるものです。この世に現れ、認識できるものはすべて「色」といえるでしょう。
「色」と「空」の関係は、時計と時間にたとえることができます。時間は目に見えないもので、時計のない時代は日の出や日の入りなど、太陽の動きが時間の経過を知らせていました。そのような目に見えない時間を見えるものにしたのが時計です。
また、人の心の中にある考えや感情は外からは見えず、そのままでは実体がありません。文字や声にすることで認識できるようになり、実体となります。
このように、「色」と「空」は本来同じものである。見えるもののありがたさや、見えないものも大切にしなければならないことを感じなさい、というのが般若心経の教えといえるでしょう。
空即是色の関連語
空即是色とあわせて知りたい「一切皆空(いっさいかいくう)」「五蘊皆空(ごうんかいくう)」という言葉を紹介します。どちらも「あらゆるものは空であり、実体がない」という意味です。
一切皆空
一切皆空は仏教用語であり、あらゆる現象や存在には実体がなく、空であるという意味です。色即是空とほぼ同じ意味と考えてよいでしょう。
いっさい‐かいくう【一切皆空】
出典:小学館 デジタル大辞泉
仏語。あらゆる現象や存在には実体がなく、空であるということ。
一切皆空と表記が似ている言葉に「一切皆苦(いっさいかいく)」があります。漢字をそのまま読めば、「すべての存在は苦である」という意味です。しかし、仏教における「苦」とは単に苦しいという意味ではなく、「思い通りにならない」ことを表すとされます。
一切皆苦も、「世の中や人生は自分でコントロールできることは少なく、自分の思い通りにならない」ということを意味する言葉です。
五蘊皆空
五蘊皆空とは「人間界の物事には実体がなく、空である」という意味です。般若心経にも「照見五蘊皆空(人間の身も心も空であることを見通された) 」という一節があります。
「五蘊」とは仏教用語で、「色・受・想・行・識」という人間の心身と環境を構成する物質的・精神的な5つの要素のことです。
ご-うん【五蘊】
《「蘊」は、梵skandhaの訳。五つの積集の意》仏語。存在を構成する五つの要素。すなわち、物質的、身体的なものとしての色蘊(しきうん)、感覚作用としての受蘊、表象作用としての想蘊、意志・欲求などの心作用としての行蘊(ぎょううん)、対象を識別する作用としての識蘊。五陰(ごおん)。
出典:小学館 デジタル大辞泉
それぞれ、次のような意味があるとされています。
・色(しき):物体
・受 (じゅ): 感覚
・想(そう): 表象
・行 (ぎょう): 意志
・識 (しき): 認識
色だけが物体(肉体)を表し、残りの4つはすべて精神的な作用です。五蘊皆空は、人間を構成する5つの要素は目の前に存在するものの、いつかは必ずなくなるため「空」であるということを表します。
色即是空や一切皆空とは異なる視点ですが、意味は同じといえるでしょう。
空即是色は般若心経の教え
空即是色は般若心経にある一節で、仏教用語です。万物の真の姿は実体のない空だが、すべてを否定する虚無ではなく、そのままこの世に存在するものの姿でもあるという意味です。「空」がすべての存在を成り立たせているという意味で、色即是空と共通しているといえるでしょう。
対照表現には、一才皆空や五蘊皆空があげられます。一緒に覚えておくと、般若心経や仏教の教えをより深く理解できるかもしれません。
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