「私は、〇〇先生を私淑しています」というように使われる、「私淑」という言葉。ビジネスシーンでも尊敬する人物に対して使われていますが、間違った使い方をしている可能性も! そこで本記事では、「私淑」の意味や使い方、類語、よく似ている「師事」との違いについて解説します。
「私淑」の意味
「私淑」は、「ししゅく」と読みます。意味を辞書で確認していきましょう。
[名](スル)《「孟子」離婁下の「子は私(ひそ)かにこれを人よりうけて淑(よし)とするなり」から》直接に教えは受けないが、ひそかにその人を師と考えて尊敬し、模範として学ぶこと。「―する小説家」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
尊敬する人をひそかに師と仰ぐことを、「私淑」ということがわかりましたね。注意したいのは、「私淑」は直接教えを受けたわけではないこと。「私淑」の「私」には「ひそか」、「淑」は「よしとする」という意味があることからも、心の中で自分の師だと思っていることを指す言葉だということが理解できますね。
使い方を例文でチェック!
どのような場合に「私淑」を使うのが適切なのか、具体例を挙げて説明します。
1:小説家を目指している兄は、ずいぶん前から夏目漱石を私淑している。
「私淑」は、尊敬している文学者や芸術家などに使われる傾向があります。偉大な功績を残した人物はすでに故人となっていることもあるので、書物や作品を通して思想や表現方法を学ぶことが多いでしょう。
2:ビジネスで壁にぶつかった時、私はいつも私淑する経営者の哲学を思い出しています。
ビジネスで、ロールモデルにしている人物に対して「私淑」を使うこともあります。アップルの創業者スティーブ・ジョブズや、パナソニックを築いた松下幸之助などをビジネスの師と仰ぐ方も多いのではないでしょうか? 偉人が残した経営哲学や数々の名言は、迷った時の背中を押してくれますね。
3:かねてより私淑していた先生のセミナーに、参加することができた。
尊敬している人が遠くに住んでおり、なかなか直接教えを受けることができないというケースもあるでしょう。以前だったら、諦めるしかなかった事でも、近年ではリモートでセミナーに参加することもできるようになったため、より憧れの人と対面する可能性が増えたとも言えます。念願を叶えて尊敬していた人物と会えることは、人生のいい経験になりますね。
類語や言い換え表現は?
「私淑」の類語には、「師事」「模範」「リスペクト」などがあります。特に、「師事」は「私淑」と意味を混同して使ってしまいやすい言葉なので、この機会に違いをしっかり覚えてみてくださいね。
1:師事
「師事(しじ)」の意味は、以下の通りです。
[名](スル)師として尊敬し、教えを受けること。「著名な陶芸家に―する」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「師事」とは、先生として尊敬し、その教えを受けることだとわかりました。先生の門下に入り、師匠と弟子の関係になっている場合に、「私は〇〇先生を師事している」と言います。こちらは直接教えを受けているため、本を読んだりして間接的に師と仰いでいる「私淑」とは異なります。
(例文)
・私は料理家の佐藤先生を師事しています。
・私は師事していた山田門下から独立しました。
2:模範
「模範(もはん)」の意味は、以下の通りです。
《「模」は木型、「範」は竹で作った型》
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1 見習うべき手本。のり。「―を示す」
2 器物などを作るときに用いるもととなる型。
「黏土の乾かざる内に、―を著(つ)くるものにして」〈中村訳・西国立志編〉
1番の意味が「私淑」の類語となりますね。「私は先生を模範にし、武道に取り組んでいる」というように使います。「模範」には、直接教えを受けているか否かという意味合いは含まれません。シンプルに相手の人柄や技術をお手本としている行為に対して用いられます。
(例文)
・私のクラスの学級委員長は成績優秀で、まさに模範的な人物だ。
・兄の礼儀正しい振る舞いは弟たちの模範となっている。
3:リスペクト
会話の中で時折登場する「リスペクト」は、どのような意味でしょうか?
[名](スル)尊敬すること。敬意を表すこと。価値を認めて心服すること。「彼の音楽を愛し、―する後輩たちが作り上げたカバーアルバム」→ディスリスペクト
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「リスペクト」は、英語の尊敬を意味する「respect」が由来の外来語です。「私は、アーティストの〇〇さんをリスペクトしてやみません」というように、芸術的な才能や作品に敬意を示す時などにも使われます。
「私淑」や「師事」は、自分の仕事や芸道の師に対して用いられることが一般的であるのに対し、「リスペクト」は必ずしもそうではありません。ただ、相手の生き方や作風に憧れている場合に使われる傾向があります。
英語表現は?
海外のビジネスパーソンと話している時に、影響を受けた人物や指針としている著作についての話題が出ることがあるかもしれません。その場合は、「respect(尊敬する)」や「learn(学ぶ)」「influence of(影響を受ける)」などを使って、気持ちを伝えてみましょう。
(例文)
・As a fellow educator, I respect Helen Keller.(同じ教育者としてヘレンケラーを尊敬します)
・I learned about management philosophy from reading Dragger’s books.(ドラッガーの本を読んで経営哲学を学びました)
・I became interested in management under the influence of Konosuke Matsushita.(松下幸之助の影響で経営に興味を持ちました)
最後に
「私淑」は、「ひそかにその人を師と考えて尊敬し、模範として学ぶこと」。主に、その人の書籍や作品を読んだりして間接的に学ぶことを指します。直接会って教えを受けたり、弟子と師匠の関係になっている場合は、「私淑」ではなく「師事」が適切ですので、正しく使い分けてみてくださいね。
TOP画像/(c) Adobe Stock