この記事のサマリー
・「立身出世(りっしんしゅっせ)」とは、社会的に高い地位を得て名をあげることを意味。
・明治以降は、出世主義の象徴として広まりました。
・現在は、「地位や肩書き」よりも「自分らしい生き方やキャリア形成」を重視する考え方へと変化しているといえます。
社会人になると耳にする機会も多い「立身出世」という言葉。少し古風に感じるかもしれませんが、その背景には「自らの努力で道を切り拓く」という日本人の価値観が息づいています。
この記事では、「立身出世」という言葉の正しい意味や由来、時代ごとの変化、そして日常での使い方までをわかりやすく解説します。
「立身出世」とは?|意味と背景、現代の使い方
まずは「立身出世」の意味と歴史的背景、そして現代における意識の変化までを整理していきましょう。
「立身出世」とは?|言葉の意味と語源
「立身出世(りっしんしゅっせ)」とは、社会的に高い地位を得て名をあげることを意味します。辞書では次のように説明されていますよ。
りっしん‐しゅっせ【立身出世】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名](スル)社会的に高い地位を得て、世に認められること。「―して故郷に錦を飾る」
歴史的背景|明治時代と「学問のすゝめ」との関係
江戸時代、身分制度の中でも「立身」や「出世」という言葉は庶民に説かれていました。これは、身分を越えることではなく「質素倹約を旨とし、自らの職分を誠実に果たす」生活倫理を指していたといわれます。
しかし明治維新を境に、社会は大きく変化しました。身分の壁が取り払われ、学問と努力によって上昇できる時代が訪れます。
当時ベストセラーとなった福沢諭吉の『学問のすゝめ』(1872年)や、S・スマイルズの『西国立志編』(1870〜71年)は、「自らの才覚で立身出世を目指そう」と人々を励ましました。立身出世は個人の夢であると同時に、近代国家の発展を支える理念でもあったのです。
現代における「立身出世」観の変化
明治後期から昭和にかけて、立身出世は学校制度や官僚制によって形作られ、「いい学歴を得ること」が上昇の手段とされるようになります。
しかし戦後の平等主義や多様な価値観の広がりにより、「出世=幸福」という単純な図式は徐々に崩れていきました。
今では、「地位や肩書き」よりも「自分らしい生き方やキャリア形成」を重視する考え方へと変化しているといえます。それでも「努力して認められたい」「自分の力で道を切り拓きたい」という気持ちは、現代の私たちにも共通しています。「立身出世」という言葉には、そうした普遍的な向上心が今も息づいているのです。
参考:『日本大百科全書』(小学館)、『世界大百科事典』(平凡社)

「立身出世」と故事成語や信仰との関係
ここでは、「鯉の滝登り」などの故事成語との関係や、神社などに見られる信仰的な側面について紹介します。言葉の背景にある文化的な文脈を知ることで、表現の深みがより感じられるはずです。
「鯉の滝登り」との関係
「立身出世」の象徴としてよく知られているのが「鯉の滝登り」です。これは中国の故事に由来し、黄河の急流にある「龍門」という滝を登りきった鯉は龍になる、という伝説がもとになっています。
この話は、困難を乗り越えて成功を手にする象徴として広まり、日本でも立身出世のたとえとして用いられるようになりました。「子どもの成長を願って鯉のぼりを立てる」風習も、この精神に通じています。
努力や忍耐の末に得られる成功をたたえる比喩として、文化的にも深く根付いた表現です。
神社やお守りに見る「立身出世」信仰
「立身出世」は現代でも願掛けの対象として広く親しまれています。特に受験や就職、昇進など「人生の節目」において、神社で「立身出世」をご利益としたお守りを受ける人も少なくありません。
言葉としてだけでなく、信仰文化としても「立身出世」は日本人の価値観に深く根ざしているといえます。

「立身出世」に関するFAQ
ここでは、「立身出世」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1.「立身出世」と「出世」は同じ意味ですか?
A. 基本的には近い意味ですが、ややニュアンスが異なります。「出世」は「社会的に高い身分や地位を得ること」に重きが置かれていますが、「立身出世」は成功して名をあげることも含みます。
Q2. 「立身出世」という言葉は古いですか? 今でも使えますか?
A. 確かに古風な印象がありますが、今でもビジネスや自己紹介、文章表現などで使われています。
特に「努力で道を切り拓く」という価値観を表したいときに適した言葉です。ただし、使う場面や相手によってはやや堅苦しく感じられることもあるため注意が必要です。
Q3.「立身出世」を目指すことは悪いことですか?
A. まったく悪いことではありません。
むしろ、努力や自己成長への意欲として肯定的に捉えられる側面があります。ただし、現代では多様な価値観が尊重される時代。「立身出世=人生の成功」という一元的な考えにとらわれすぎないことも大切です。

最後に
「立身出世」という言葉には、自らの努力で道を切り拓くという普遍的な価値観が込められています。時代によって捉え方は変化してきましたが、現代でもキャリアや自己実現を考えるうえでヒントになる表現だといえるでしょう。
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