心や身体に不調が現れる前に… ストレスマネジメントを身につける!
前回記事:日々のストレスをセルフマネジメント!首尾一貫感覚で気持ちが軽くなる!
職場の人間関係がしんどい、上司がパワハラ気質、同僚がマウントばかりとってくる、家庭が不和、義理実家との付き合いがわずらわしい――日々の生活で「人間関係」の悩みは尽きないもの。
多くの人は、ギリギリまで自分の気持ちをすりへらし、耐えたりごまかしたりしながら、つらい環境になんとか自分を合わせようとがんばりますが、〝我慢の限界〟という言葉があるように、心には容量があり、心のコップが我慢でいっぱいになったとき、心や身体に不調が現れます。
「もうだめだ!」となる前にストレスマネジメントをして、なんとかやり過ごす方法はないのでしょうか。
働く人のメンタルケアの現場でカウンセリングを行う公認心理師の舟木彩乃さんが提唱するストレスマネジメントが、「首尾一貫感覚」。
首尾一貫感覚とは、「大変な仕事、しんどい人間関係、ストレスフルな出来事があっても、明るく健康に生きる力」。別名「ストレス対処力」とよばれていて、主に下記の3つの感覚で構成されています。
■把握可能感(「だいたいわかった」と思える感覚)
自分の置かれている状況や今後の展開をある程度、把握できると思うこと
■処理可能感(「なんとかなる」と思える感覚)
自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると思うこと
■有意味感(「どんなことにも意味がある」と思える感覚)
自分の人生や自分自身に起こることにはすべて意味があると思うこと
首尾一貫感覚は、生まれつきの能力(先天的能力)ではなく、育って行く過程で後天的に獲得していく能力です。自分の努力で後天的に高めることができるのです。
首尾一貫感覚を高める方法「なんとかなる」と思える力をつけよう
先にご紹介した首尾一貫感覚の中でも大切なのが「有意味感」です。
例えば人は交通事故や重い病気、東日本大震災のような想定外の大きな災害にあったりすると、予想のつかない未来に大きな不安を覚えます。これは、高い「把握可能感」をもちにくい状況だからです。
また、見通しの立たない状況のなかで、自分の存在がちっぽけなものに感じて「なんとかなる」と思えなくなる人も少なくありません。「処理可能感」が低い状態です。
しかし、そのような状態でも、目の前の想定外の困難を「意味があるもの」ととらえ有意味感をもつことができれば、前向きに考えることができるのです。
そこからモチベーションが高まり、「なんとかしよう」「なんとかなる」と考えることができると、処理可能感につながります。さらに「何ができるか考えてみよう」という把握可能感につながる考え方や行動ができるようになるのです。
このように有意味感をベースにして、把握可能感や処理可能感を高めることができる場合があるのです。
相談にくるのは「処理可能感」が低い人が多い
これまで私は1万人以上のカウンセリングをしてきましたが、なんらかの悩みを抱えて私たちのような心理職に相談にくる人は、「処理可能感」が低くなっている場合が多いと感じます。
そのため、少しストレスに弱いタイプであったり、メンタルが少し弱っている状態の人たちは、処理可能感を高めることがいいのではないかと思っています。
処理可能感、つまり、つらいことが起きても「自分なら大丈夫。 なんとかなる」「私なら乗り越えられる」と思える感覚です。シンプルにいうと、「なんとかなる」と思える力です。
「私なんか無理……」「私にはできない」と否定することなく、「なんとかなる」「私ならなんとかできるでしょう」と自分を信じる力です。
この「なんとかなる」と思える力、処理可能感を高めることが、ストレスに弱いタイプの人、ストレスフルな状況でメンタルが弱っている人には大切なのです。「なんとかなる」と思えるようになるにはいろいろな方法がありますし、自分ひとりだけでがんばらなくても大丈夫です。
「資源(人脈や知力、お金、権力、地位)」を活用しながら「なんとかなる」と思えればいいのです。処理可能感は、「自分やまわりを巻き込みながら乗り切れる」といったような感覚なのです。
また、把握可能感を高めることも処理可能感を高めるのに、とても有効とされています。なぜなら、人は、未知のものや得体のしれないものに、漠然とした不安を抱きがちだからです。
「何度も経験のある仕事」と、「やったことのない仕事」だったら、どちらが「なんとかなる」と思えるでしょうか。もちろん、「何度も経験のある仕事」でしょう。経験があって「だいたいわかった」と感じられる仕事のほうが、余裕をもって仕事ができますし、「この仕事はなんとかなる」と思いやすいのです。
「なんとかなる」と思える方法はたくさんある
「なんとかなる」と思える力の弱い人、「処理可能感」が低い人とは、どのような人のことでしょうか。
例えば、定時に仕事が一段落して、今日は早めに帰りたいと思ったAさんが帰宅しようと準備していたところ、突然、上司から「これ急ぎで!」と同僚数名とともに仕事をふられたとします。
同僚たちは断りましたが、Aさんだけ断れずに一人で対応しました。しかもAさんは、上司から言われた時間内に終わらせることができなかったため、帰り際、上司に平謝りしたそうです。
上司に急ぎの無理な仕事を頼まれたうえに、一人で対応したのですから、何も終わらないのはAさんのせいではないのに、です。
このように、無理な仕事や無茶な要求をされた場合でも、「それに応えられない自分が悪い」といった態度をとるAさんのような人は、「処理可能感」が低い人といえます。Aさんのなかに、「相手の要求に完璧に応えなければいけない」という思考があるからです。
この完璧主義的な思考がクセになっている人は、相手の要求に〝完璧に応えられなかった〟部分に大きくフォーカスしがちです。そのため、「うまくいった」という成功体験を感じにくいのです。
この「うまくいった体験」は、「前回うまくいったんだから、今回もなんとかなるだろう」という処理可能感の「なんとかなる」感じにつながります。そのため、「うまくいったこと」より「うまくいかなかったこと」に目が行きやすい人は、「なんとなかる」感覚を育みにくいのです。結果、ますます「なんとかなる」と思える力が不安定になっていきます。
考え方や人とのかかわり方を変えていく!
一方で、「なんとかなる」と思える力が比較的強い人はどうでしょうか。
同じような場面に遭遇したとき、「今日は予定が入っていて難しいです」「その仕事量をその時間内に終えることはできないと思います」などと言って、上司に交渉することができます。完璧主義ではないため、「上司の要求には応えられないこともある」と思っているからです。
あるいは、引き受けて時間オーバーした場合でも、「突然の急ぎの仕事でも、ある程度は終えることができた」と、「できた部分」にフォーカスします。
つまり「処理可能感」の高い人は、完璧主義ではないため、「うまくいった経験」や「できた部分」「なんとかなった出来事」のほうに注目するのです。
処理可能感の高い人、「なんとかなる」と思える力の強い人は、いろいろな出来事を「なんとかなった」という成功体験としてとらえていくため、経験を重ねるごとに「なんとかなる」と思える力が強くなっていくのです。
首尾一貫感覚のひとつである処理可能感は、適度な負荷のなかで「成功体験」を積むことで育まれるとされています。
その「成功体験」を生み出すもとになるのが、「うまくいった経験」や「できた部分」「なんとかなった出来事」のほうに注目するポジティブな考え方、もののとらえ方といえます。
さらには、「なんとかなる」と思えるためには、人の力を借りることや、知力やお金、地位などを活用できることも非常に大切です。「なんとかなる」「自分はなんとかできる」と思えるようになるには、自分ひとりの力でなくてもいいのです。同僚に助けてもらったり、上司の力を借りてもいいのです。あるいはお金を使って解決したり、地位の力を活用して課題を解決してもかまいません。
自分がもっているいろいろな「資源」を活用することで「なんとかなる」と思うことができればいいのです!
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お話を伺ったのは… 舟木彩乃さん
ストレスマネジメント専門家。公認心理師。
筑波大学大学院博士課程修了、ストレスマネジメント専門家。株式会社メンタルシンクタンク副社長。国家資格として公認心理師や精神保健福祉士などを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や県庁のメンタルヘルス対策にも携わる。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)、『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー)。