「人間関係」の悩みに追われる私たちに必要なストレスマネジメント
職場の人間関係がしんどい、上司がパワハラ気質、同僚がマウントばかりとってくる、家庭が不和、義理実家との付き合いがわずらわしい――日々の生活で「人間関係」の悩みは尽きないもの。
多くの人は、ギリギリまで自分の気持ちをすりへらし、耐えたりごまかしたりしながら、つらい環境になんとか自分を合わせようとがんばりますが、〝我慢の限界〟という言葉があるように、心には容量があり、心のコップが我慢でいっぱいになったとき、心や身体に不調が現れます。
「もうだめだ!」となる前にストレスマネジメントをして、なんとかやり過ごす方法はないのでしょうか。
働く人のメンタルケアの現場でカウンセリングを行う公認心理師の舟木彩乃さんが提唱するストレスマネジメントが、「首尾一貫感覚」。
首尾一貫感覚とは、「大変な仕事、しんどい人間関係、ストレスフルな出来事があっても、明るく健康に生きる力」。別名「ストレス対処力」とよばれていて、主に下記の3つの感覚で構成されています。
■把握可能感(「だいたいわかった」と思える感覚)
自分の置かれている状況や今後の展開をある程度、把握できると思うこと
■処理可能感(「なんとかなる」と思える感覚)
自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると思うこと
■有意味感(「どんなことにも意味がある」と思える感覚)
自分の人生や自分自身に起こることにはすべて意味があると思うこと
首尾一貫感覚は、生まれつきの能力(先天的能力)ではなく、育って行く過程で後天的に獲得していく能力です。自分の努力で後天的に高めることができるのです。
仕事内容が変わり部署の人間関係などで悩んでいるケースなら?
◎井上さん(仮名/通販会社勤務/30代女性)の事例
通販会社で入社以来、カタログ制作進行管理の部署にいましたが、会社がネット通販に注力し、紙のカタログからデジタルに移行。
扱う商品は変わらないのですが、これまでやってきた紙媒体の校正や印刷チェックなどの工程とは異なる上に、デジタルに詳しい同僚や新しい上司との人間関係が合わず、悩んでいました。
具体的には、上司の指示がわかりにくく、聞き直したりすると機嫌悪く対応される、ネット通販画面の構成、制作手順などに慣れないことがストレスだったそう。中途入社の社員や外部のWebデザイン会社からの出向社員などが入り混じった部署で、仕事以外の話ができる同僚もいません。
井上さんは、この部署で働き続けることは難しいと思い、今後どうしたらいいかわからなくなったため相談にいらっしゃいました。
そのときの井上さんの考え方やとらえ方を首尾一貫感覚の3つの感覚で掘り下げていくと、次のように整理できました。
〈井上さんの3つの感覚の状況〉
・把握可能感:今のつらい状態で働き続けるのは難しいと思うけれど、今後、どうしたらいいかわからない
・処理可能感:上司も同僚も頼りにできず、なんとかなるとは思えない
・有意味感 :この問題を乗り越えることに意義を見出せない
どんな人でも、職場環境が変われば相応のストレスを感じるものです。井上さんのように考えてしまうのは、しかたがないのかもしれません。
◎対策
井上さんの状況を、首尾一貫感覚を発揮すると以下のようにとらえられます。
・把握可能感:今は仕事の内容が変わったばかりだから大変なだけで、少しずつ慣れてくれば変わるだろう。デジタルカタログの技術を習得すれば、部署の中での役割や評価も少しは状況が変わるかも
・処理可能感:今までもピンチを乗り越えてきたし、今回もなんとかなるだろう。とりあえず上司のことは、前の部署の先輩に相談してみよう。あるいは友人を誘って飲みに行って息抜きをしつつ、どうにかなると思って仕事をしていれば、そのうち話せる人もできて、ちょっとずつ職場にもなじめるだろう
・有意味感:今の状況を乗り越えることで自分は成長することができる
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両者には大きな違いがあると思いませんか。
まず、首尾一貫感覚の高い人は、「今は慣れていないだけ」と自分の状況を俯瞰的に見ることができています。また、どのようなルールや評価で動いているのかを探ることで今後の展開を見通そうとしています(把握可能感)。
そしてこれまでの経験から、「今回も時間はかかるけどなんとかなるだろう」と思えています。「前の部署の先輩に聞く」と人脈を活用することもできています。加えて、息抜きをしたり、アドバイスをもらえたりする友人もいます。こうした人脈や経験があることで「なんとかなる」と思えています(処理可能感)。
また、この経験はつらいし、嫌なことも多いけれど、乗り越えれば「自分は成長することができる」と、意味のある経験としてとらえられています(有意味感)。
このように、首尾一貫感覚の高い人とそうでない人とでは、同じ状況にありながら、まったく違う精神状態です。
「つらい。どうしたらいいかわからない」と落ち込む人もいれば、「今はちょっとつらいけど、なんとかなる」と前向きにとらえられる人もいるのです。
TOP画像/(c)Adobe Stock
お話を伺ったのは… 舟木彩乃さん
ストレスマネジメント専門家。公認心理師。
筑波大学大学院博士課程修了、ストレスマネジメント専門家。株式会社メンタルシンクタンク副社長。国家資格として公認心理師や精神保健福祉士などを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や県庁のメンタルヘルス対策にも携わる。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)、『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー)。