「レジリエンス」という言葉を聞いたことがありますか? 初めて聞くという方もいれば、職場の研修などで聞いたことがあるという方も、いらっしゃることでしょう。この記事では、働く上で重要な、心理的なレジリエンスについて、解説します。
レジリエンスとは
レジリエンスは、どのような意味の言葉なのでしょうか? レジリエンスとは、簡単に言うと、「心の回復力」です。例えば、仕事でミスをしてしまった時や、大きなトラブルに巻き込まれた時などは、精神的にストレスを感じてしまう方も多いでしょう。
こういったいわゆる逆境や困難と呼ばれるような出来事に遭遇した時、苦しみを感じる、落ち込むという反応は、ごく自然なこと。このような状態から、しなやかに回復する「ばねのような力」が、レジリエンスです。
レジリエンスは「鋼の精神」ではない
レジリエンスは、「何ものにも動じない鋼の精神」ではありません。レジリエンスは、逆境や困難によって凹んだ状態から、立ち直るというニュアンスの強い言葉です。ですので、鋼というより、竹やばねのように、「しなる」イメージでとらえると、分かりやすいかもしれませんね。
なお、レジリエンスという言葉は、「復元力」や「回復力」、「弾力性」というような意味で、もともとは物理学などで使われていた概念です。これが、しだいに心理学でも使われるようになりました。また、看護の分野などで聞いたことがある方も、いらっしゃるかもしれませんね。ビジネスシーンに限らず、様々な学術分野や文脈で使われる言葉であるという点も、おさえておきたいポイントです。
レジリエンスに重要な6つの要素
「レジリエンスは、どう高めたら良いの?」というのも気になるところですよね。そこで、レジリエンスについての研究が盛んな、ペンシルバニア大学の解説を見ていきましょう。まず、レジリエンスには、以下の6つの要素が重要とされています。
1:自分の考えや感情、姿勢などへ注意を払う能力(Self-Awareness)
2:自分の考えや感情、姿勢などを変える能力(Self-Regulation)
3:多角的、柔軟な考え方をする能力(Mental Agility)
4:自分の強みを活かす能力(Strengths of Character)
5:信頼できる人との繋がりを持つ能力(Connection)
6:物事の良い面に気付き、目的を持って行動する能力(Optimism)
参考:POSITIVE PSYCHOLOGY CENTER 「RESILIENCE SKILL SET」
一言でレジリエンスと言っても、様々な構成要素があるということが、おわかりいただけるでしょう。こんなにたくさん要素があると、どうしたらいいのかと迷いますよね。ここからは、特に重要なポイントをピックアップして解説します。
レジリエンスを高める鍵は「解釈」
まず、レジリエンスを高めるために重要なのは、自分の考えていることを「見える化」すること。次のような方法で、自分の頭の中を整理する練習をしてみましょう。なお、この時、頭で考えるより、書くことをおすすめします。書くことで、自分の中にあるもやもやを、客観的に捉えやすくなりますよ。
例えば、職場の先輩に、仕事について質問したところ、「自分で考えてよ」と返されて、もやもやしたまま、家に帰宅したというケースで考えてみましょう。
ステップ1:出来事を書く
上手い文章で書こうとしなくて良いので、自分なりに完結にまとめてみてくださいね。
例:「〇〇先輩に〇〇について、質問をしたら、『自分で考えてよ』という返事がきた」
ステップ2:自分の感情を書く
出来事に対して、抱いている感情を表現してみましょう。もちろん、感情は一つではないことも。ちなみに、同じ出来事でも、出てくる感情は人それぞれです。「こんな感情を持ってはだめ」と、おさえつけると、さらにストレスになる可能性大。正直に感情を受け入れるようにしてみてくださいね。
例:「戸惑い、不安、怒り」
ステップ3:自分がした行動を書く
ストレスに感じた出来事に対して、自分がした行動を書いてみましょう。
例:「とっさに謝って、それから何も聞けず、家に帰ってきた」
こうすることで、「次はこうした方が良いかも」と、気付きが生まれやすくなります。また、「私はとっさに謝ってしまう癖がある」など、自分の癖にも気付きやすくなりますよ。
ステップ4:思考や解釈を書く
ステップ1で書いた出来事に対して、どんなことを考えているかを書いてみましょう。このステップが一番難しいと感じる方も、多いかもしれません。「なんで私はこの感情を持ったの?」と、自分に問いかけながら書くのがおすすめです。
例:「仕事に必要な質問をしただけなのに、なんでそんなにそっけないの? (戸惑い)教えてくれてもいいのに、意地悪な人だな。(怒り)もしかして、私嫌われている? どうしよう、仕事もミスしそうで怖いし、もうこの職場無理かも… (不安)」
このように感情に寄り添って書くことで、気持ちのデトックスになる効果も。また、ストレスは、出来事そのものというより、それに対しての自分の解釈が原因となっていることが、分かりやすくなります。
レジリエンスを高める自分への質問
ここまでは、レジリエンスを高める上で、自分の考えや解釈、感情へ目を向けることが重要と解説しました。ここからは、もう一つ重要な、「思い込み」との向き合い方を見ていきましょう。前述のように、自分の中の「もやもや」を分解して整理した後、次のように、自分に質問をしてみてください。
・早とちりしていない?
・見落としていることはない?
・悪いことばかり見ていない?
・自分のせいにばかりしていない?
・人のせいにばかりしていない?
・「いつも」や、「全部」などという決めつけ表現をしていない?
・「あの人はこう思っているに違いない」と、勝手に想像していない?
・自分のその時の気分や、体調に影響を受けていない?
このような問いかけをすることで、「自分の考えや解釈が絶対正しいわけではない」ということに気付く方もいらっしゃることでしょう。例えば、「先輩は、仕事を教えてくれない意地悪な人」から、「自分でもう少し調べてから聞く方が良かったかも」と考えが柔軟になることも。
「どうして私がこんな目に」と嘆く代わりに、自分なりにできる行動をしていくことで、状況は改善することも多いでしょう。もちろん、最初は難しいかもしれません。少しずつ自分と対話する気持ちで、トライしてみてくださいね。
このほかにも、レジリエンスを高める方法は、運動や、信頼できる人とつながりを持つ、自分の考え方の癖を変える、自分の強みを活かすなど、様々ありますよ。まずは、自分の心の声に、耳を傾ける習慣をつけてみるのがおすすめです。
最後に
この記事では、レジリエンスの意味や、高め方、仕事でのストレスで心が折れにくくなる方法を解説しました。働く上で、人間関係や仕事のプレッシャーなど、何かしらストレスがあるという方は多いでしょう。そんな方はぜひ、参考にしてみてくださいね。
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塚原美彩(つかはらみさ) 塚原社会保険労務士事務所代表
社会保険労務士・マーティン=セリグマン公認ポジティブ心理学ファシリテーター
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。HP:塚原社会保険労務士事務所 ライター所属:京都メディアライン