「引導を渡す」とは?
「引導を渡す」という言葉を知っていますか? あまり馴染みがないかもしれませんが、小説や新聞などでは、しばしば用いられる表現です。ですから、「何となく意味は知っている」という方も多いことでしょう。しかし、文字面から意味を推測するのは難しいかもしれません。
そこで、本記事では、「引導を渡す」の正しい意味や使い方、使う際の注意点などを紹介します。似た意味を持つ言葉も、合わせて紹介していきますよ。
「引導を渡す」の意味
「引導を渡す」には、一般的に用いられる意味と仏教語として用いられる意味とがあります。まずは、一般的に用いられる意味から解説していきます。
「引導を渡す」は、一般的に「見込みがないと諦めさせるために、最終的な宣告をする」という意味で使われることが多いでしょう。「諦めるように促す」というところがポイントです。
この他にも、「(相手の)命がなくなることをわからせる」、「縁を切る」といった意味もあります。
続いて、仏教語としての意味を解説します。仏教語としての意味は、葬式の際、導師の僧が死者に悟りを開くよう説ききかせること。じつは、こちらが語源です。この意味が転じて、現在使われている意味となりました。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
「引導を渡す」の正しい使い方を例文で紹介
続いては、「引導を渡す」の正しい使い方について紹介します。正しい意味でさらっと使うことができたら、格好いいですね!
1:「臨時の取締役会が開かれ、業績を低迷させた現CEOに引導を渡した」
「引導を渡す」には、「最終的な宣告をする」という意味があると先述しました。この例文の場合は、会社のトップに対し、業績低迷の責任をとり、CEO(最高経営責任者)を辞めることを促しています。
2:「とても心苦しいが、コーチとして選手に引導を渡さなければならない」
引導を渡す側の気持ちは、決して良いものではありません。とくに、自分が育てた相手や可愛がっている相手に対して、引導を渡すのはつらいもの…。
たとえば、スポーツの世界ではケガや体調不良などで、選手に大会の出場を諦めることを促したり、場合によっては引退の道を示さなければならないこともあります。
3:「恋人の浮気が発覚し、引導を渡した」
こちらは、「縁を切る」ことを示す例文です。浮気をした恋人には、この言葉の語源を心の底から理解してもらい、ぜひ悟りを開いてもらいたいものですね。
4:「お世話になっている寺の住職にお願いして、叔父の葬儀で引導を渡してもらった」
仏教用語としての使い方も押さえておきましょう。死者に引導を渡して、悟りを開けるように導くのが僧侶の役割です。
「引導を渡す」を使う際の注意点
「引導を渡す」の具体的な使い方は、イメージできましたか? 続いては、「引導を渡す」を使う際の注意点を紹介します。
「引導を渡す」=「クビにする・解雇する」ではない
繰り返しになりますが、「引導を渡す」はあくまでも「見込みがないと諦めさせるために、最終的な宣告をする」という意味です。従って、この言葉には「解雇する」という意味合いは含まれていません。会社を辞めるかどうかは、最終的に引導を渡された当人に委ねられています。
「引導を渡す」=「主導権を渡す」ではない
「引導」には、「教え導く」という意味があります。そのため文字で示された表面だけの意味を受け取り、「導く立場を渡す」と解釈しているケースが多々見受けられます。しかし、これは誤りですので注意してください。
「引導を渡す」の言い換え表現には、どのようなものがある?
ここまで「引導を渡す」という言葉について解説してきましたが、仰々しく感じられた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、日常生活の中ではやや使いにくい表現ですね。そこで、似た意味を持つ言葉を紹介しますので、場面に合わせて使い分けてみてください。
1:諦めさせる
シンプルでわかりやすい類語表現として、「諦めさせる」があります。「希望や見込みがないため、断念させる」という意味です。
「A大学が第一志望だと言っていたが、今回の模試の結果を見ると諦めさせるしかない」などというように使います。
2:観念させる
「引導を渡す」と同じく、「観念」もまた仏教語が語源です。「観念」とは、諦めて状況を受け入れることや、覚悟するという意味を持ちます。したがって、「観念させる」とした場合、「諦めさせる」、「覚悟させる」という意味になりますよ。
「これ以上、陸上を続けていても、先はないと観念させた」などというように使います。
3:最終宣告をする
「引導を渡す」の説明の中でも出てきましたが、「最終宣告をする」も類語に当たりますね。「宣告」とは、言い渡すことを意味します。それが最後なわけですから、後がないということ。「半年以内に期待する結果が出なければ、チームは解散するよう最終宣告された」などというように使います。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
最後に
「引導を渡す」について見てきましたが、なかなかに難しい言葉でしたね。一見遠回りにも思えますが、こうした難解な言葉こそ、語源を把握しておくと頭に残りやすいものですよ。僧が使者に悟りを開くよう説ききかせる姿を思い浮かべながら、意味をもう一度おさらいしてみてはいかがでしょうか?
TOP画像/(c) Adobe Stock