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この記事のサマリー
・「引導を渡す」は仏教の葬儀で僧侶が死者に悟りを開くよう説く儀式が語源。
・現代では「相手に諦めを促す」「最終的な通告をする」という意味で使われる。
・「クビにする」「主導権を渡す」といった使い方は、誤りなので注意。
日常会話の中で耳にすることは少ないけれど、小説やニュースでふと目にして「どういう意味だろう?」と気になった言葉はありませんか?
「引導を渡す」という言葉も、そのひとつです。響きからはどこか厳しさや決断を感じますが、その背景には仏教の儀式に由来する深い意味が隠れていたりします。
本記事では、意味、「引導を渡す」という言葉の成り立ち、語源、使い方、注意点までをわかりやすく解説します。ビジネスや人間関係など、現代のさまざまな場面で誤解なく使えるよう、丁寧に整理していきましょう。
「引導を渡す」とは? 意味を正しく理解しよう
まずは「引導を渡す」の意味から確認していきます。
「引導を渡す」の語源と意味
「引導を渡す」の語源は、仏教の葬儀にあります。導師の僧が、棺の前で死者に経文を唱え、「悟りを開いて迷いから解き放たれるように」と説ききかせます。
ここから転じて、「縁を切ること」や「命が間もなく亡くなることを宣告すること」などを指すようになりました。辞書には次のように記されています。
引導(いんどう)を渡(わた)・す
1 僧が死者に引導2を授ける。
2 相手の命がなくなることをわからせる。あきらめるように最終的な宣告をする場合などにいう。「見込みのない歌手志望者に―・す」
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

「引導を渡す」の使い方と例文
ここでは、仕事・人間関係・宗教的な場面の3つの視点から、具体的な使い方を例文とともに見ていきましょう。
ビジネスでの「引導を渡す」
ビジネスの場面では、「見込みがないと判断し、最終的な決断を下す」という意味で使われます。ただし、「クビにする」「解雇する」という直接的な意味はありません。
「結果を受け入れさせる」「自ら退くよう促す」といったニュアンスを意識するといいでしょう。
例文:
・業績改善の兆しが見えず、取締役会で現プロジェクトに引導を渡した。
・社長は長年赤字続きの部署に引導を渡し、新しい体制に切り替えた。
人間関係での「引導を渡す」
人間関係では、「縁を切る」「関係を終わらせる」という意味で用いられます。相手への思いやりを含みつつも、もう後戻りできない「決別」の場面に適しています。
例文:
・何度も裏切られてきた彼女は、ついに恋人に引導を渡した。
・長年の友人だったが、信頼が失われた瞬間に私は引導を渡した。
宗教儀式での「引導を渡す」
本来の意味としての「引導を渡す」は、僧が棺の前で死者が悟りを開くように説き聞かせることを指します。
例文:
・祖父の葬儀では、住職が厳かに引導を渡してくださった。
「引導を渡す」を使う際の注意点
ここでは、誤用されやすいケースについて押さえておきましょう。
「解雇する」「主導権を渡す」との誤用に注意
もっとも多い誤用が、「引導を渡す=クビにする」という理解です。しかし、辞書ではそのような意味は一切示されていません。
『デジタル大辞泉』(小学館)では「あきらめるように最終的な宣告をする場合などにいう」とされており、最終判断を「促す」だけで、直接的に「解雇する」ことではありません。
また、「導く」という字面から「主導権を渡す」という意味に誤解されることもありますが、「引導」とは「死者を悟りに導く儀式」であり、「立場を譲る」や「指導権を移す」といった意味ではない点にも注意が必要です。

「引導を渡す」の類語・言い換え表現
ここでは、意味が近い3つの表現を紹介します。
「諦めさせる」
「引導を渡す」を最もシンプルに言い換えるなら、「諦めさせる」が適しています。「希望や見込みがないため、断念させる」という意味です。
例文:「A大学が第一志望だと言っていたが、今回の模試の結果を見ると諦めさせるしかない」
「観念させる」
「観念させる」は、「諦める」「覚悟を決める」といった意味を持つ言葉です。
例文:「もうこれ以上は難しいと観念させた」
「最終宣告をする」
「引導を渡す」と同じく、「終わりを告げる」意味を持つ言葉です。ただし、宗教的な背景はなく、事務的・公式な場面で使うのに適しています。
例文:「今回、結果を出せなければ、最終宣告をするつもりだ」

「引導を渡す」に関するFAQ
ここでは、「引導を渡す」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「引導を渡す」はどういう場面で使うのが正しいですか?
A. 相手に「もう諦めてほしい」「終わりにしよう」という最終的な決断を伝える場面で使います。
例えば、ビジネスではプロジェクトの終了を示す時、プライベートでは関係を断ち切るときなどです。ただし、直接的な解雇や命令ではなく、「最終通告をする」という意味で用います。
Q2. 「引導を渡す」には「死」を連想させる意味があるのですか?
A. もともとは仏教の葬儀で、僧侶が死者に悟りを開くよう説ききかせる儀式を表す言葉でした。
この宗教的な意味がもとになって、現代では比喩的に「終わりを告げる」「縁を切る」といった意味へと転じました。
したがって、「死」を直接指す言葉ではなく、あくまで「決別」や「区切り」を象徴する表現です。
Q3. NGな使い方は?(使い方の地雷)
A. 「引導を渡す=クビにする」「引導を渡す=主導権を渡す」といった使い方は誤りです。
「見込みがないと諦めさせる」「最終的な宣告をする」という意味になります。
最後に
「引導を渡す」という言葉は、本来は仏教の葬儀で僧侶が死者を悟りに導く儀式を指し、そこから転じて「相手に諦めを促す」「最終的な宣告をする」という意味で使われるようになりました。
響きは厳しいものの、背景には「相手を導く」という深い慈しみの心が流れているのかもしれませんね。
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