「お渡しさせていただきます」は正しい敬語
「お渡しさせていただきます」とは、相手に何かを渡すときに用いる敬語表現です。「させていただく」という表現は、まわりくどい印象を与えることもありますが、正しい状況で使用すれば、間違った表現ではありません。
「お渡しさせていただきます」という表現が適した状況や、ほかの言葉で置き換える方法について解説します。
「お渡しさせていただきます」が適した状況
まわりくどい表現として指摘されることもある「させていただく」ですが、実は、正しい状況を選べば正しい敬語表現として使えます。
なお、「させていただく」とは「相手に許しを請うことによって、ある動作を遠慮しながらおこなう」様子を指す表現です。そのため、渡すときに相手から許可を得る必要があるときや、遠慮するときにふさわしいといえます。
たとえば、住宅展示場でいきなり来場者に住宅商品のパンフレットを渡すのは、失礼に当たるかもしれません。来場者に「渡してもよいか」と許可を取り、来場者が許可をしたときのみ、渡すのが適切と考えられます。
このような状況下では、パンフレットを渡す際に「お渡しさせていただきます」という言葉を沿えるほうがよいでしょう。許可をする来場者は「はい」と受け取り、許可をしない来場者は「結構です」と断れば問題ありません。
「お渡しさせていただきます」以外の表現
相手から許可を得る必要がないときは、「お渡しさせていただきます」以外の表現を用います。シンプルな表現としては「渡します」が挙げられますが、丁寧な印象がないため、初対面の人や公的な場ではふさわしくないかもしれません。次の3つの表現を用いて、丁寧に伝えましょう。
・お渡しします
・お渡しいたします
・お渡し申し上げます
謙譲語の「お」と丁寧語の「します」を使うと、目上の人にも使える丁寧な表現になります。たとえば、会議室で資料を渡すときに「本日の資料をお渡しします」と一言添えられるかもしれません。
また、「する」を丁重な形にした「いたす」を用いる表現も、目上の人に使える丁寧な表現です。資料を渡すときには「本日の資料をお渡しいたします」と伝えても、過剰な敬語表現にはならないでしょう。
補助動詞の「申し上げる」を使って、「お渡し申し上げます」と表現することもあります。ただし、「申し上げる」は「言う」の謙譲語でもあるため、混乱を招くかもしれません。目上の人などに丁寧さと敬意を伝えるためにも、「お渡しします」か「お渡しいたします」を選ぶほうがよいでしょう。
「お渡しさせていただきます」の言い換え表現
「お渡しさせていただきます」は、「渡す」ことを丁寧に伝える表現です。状況によっては、「渡す」ではなく別の単語を選ぶほうが適切なこともあります。いくつか「渡す」と言い換え可能な単語を覚えておき、バリエーション豊かに表現できるようにしておきましょう。
・提出する
・送る
・譲る
・届ける
・手渡す、受け渡す
それぞれの単語を使った言い換え表現をご紹介します。
提出する
相手に資料や書類を差し出すときは、「渡す」だけではなく「提出する」も使えます。次の表現なら、丁寧な印象を与えられるでしょう。
・昨日のアンケートですが、こちらに提出いたします。
・提出いたしました資料ですが、間違いが見つかりました。こちらの資料にお差し替えください。
自分から相手に差し出すときだけでなく、相手から資料や書類を受け取りたいときも、「提出する」を使って表現できます。
・先週お渡しいたしましたアンケートは、本日が期限です。ご提出をお願いします。
・お名前とメールアドレスをご記入いただきましたら、ご提出をお願いしてもよろしいでしょうか。
送る
メールや郵便で資料などを渡すときは、「送る」の単語も使用できます。次のように使ってみましょう。
・お手間をおかけしますが、銀行の届出印を押印したうえでお送りください。
・お問い合わせありがとうございました。マンションのパンフレットをお送りいたします。
メールや郵便で渡すときは、「送付する」を使って表現できることもあります。
・送付いたしました資料をご覧いただけましたでしょうか。
・先ほどメールで送付しました。届いているか確認してください。
譲る
相手に譲り渡すときは、「渡す」ではなく「譲る」が適当です。自分が所有するものを有償・無償で相手に渡すときは、「譲る」で表現しましょう。
・某有名メーカーのベビーカーをお譲りいたします。電話でお問い合わせください。
・その車を廃車にするのですか?問題なければ、お譲りください。
少々固い表現ですが、「譲渡する」という言葉を使うこともあります。たとえば、株式や権利などを譲るときは、「譲渡する」のほうが適切なケースも多いです。
・不動産の所有権を譲渡します。次は法務局で所有権移転登記をおこないましょう。
・会社を新しい社長に譲渡した。
届ける
「届ける」という言葉には、「ものを持っていき、先方に渡す」という意味があるため、相手の場所まで行くというニュアンスがあります。たとえば、次のように使ってみましょう。
・お歳暮をお届けします。ぜひお受け取りください。
・感謝の気持ちをお届けいたします。
手渡す、受け渡す
「渡す」という言葉をベースに、言い換えることもできます。たとえば、手で渡すときなら「手渡す」、渡すだけでなく受け取る動作も含まれるなら「受け渡す」などの言葉を使えます。
・彼は大きな箱を彼女に手渡した。
・明日、受け渡しの場所を指定します。
自然な印象を与える言葉を選ぼう
「お渡しさせていただきます」は、状況によっては間違った表現ではありません。しかし、くどい言い回しだと受け取られる可能性があるため、使うときには注意が必要です。
相手に対して丁寧な言葉を使うことも大切ですが、自然な印象を与えることも大切です。状況を見て、言い換えの表現も用いるようにしましょう。
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