「一寸先は闇」とは?
仕事や日常生活が順調なとき、周りの人から「今は良くても一寸先は闇だよ」とか「一寸先は闇だというから、準備しておくに越したことはない」などと言われた経験はありませんか? 移り変わりの激しい政治の世界では「政界の一寸先は闇」などと言われることもあります。
日常的によく使われる言葉なので、なんとなくわかったつもりになっている言葉の一つであるかもしれません。そもそも「一寸」って何なのでしょうね…?
そこで、本記事では「一寸先は闇」の意味や由来、使い方から類語・対義語を紹介します。
「一寸先は闇」の意味
まずは、意味から確認していきましょう。
ほんの少し先のことも全く予知できないことのたとえ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
辞書で調べると、「一寸先は闇」とは「ほんの少し先の未来であっても、誰にも予測することはできない」ことを表していることがわかりました。
「闇」という言葉から連想されるように、「この先の未来に、何か良くないことが起こるかもしれない」というマイナスのニュアンスを持ちながら使用されるケースが多いでしょう。
ところで、「一寸先は闇」の言葉に出てくる「寸」とは何でしょう? 「寸」とは尺貫法の長さの単位で、一寸は約3.03cmのことです。言葉の中で長さ自体はあまり重要視されておらず、「一寸」は「ほんの少し先」という意味で使われています。
「一寸先は闇」はいつ頃生まれたのか?
戦国時代は明日の命さえどうなっているかわからない、不安定な世の中。そんな時代が終わり、平和が訪れても、人々は「再び戦乱の世がやってくるかもしれない」と不安を抱えていたそうです。そうした背景から、酒食の席では「飲めや歌えや一寸先は闇の夜」と歌われていたとか。
その後、「一寸先は闇」は「いろはカルタ」に記載されたことで、多くの人々に親しまれる言葉となりました。こうした世俗的なことわざで作られた「いろはカルタ」は幕末近くに普及したと言われていますよ。
参考:『ことわざを知る辞典』(小学館)、『国史大辞典』(吉川弘文館)
「一寸先は闇」の使い方
続いては、「一寸先は闇」の具体的な使い方を確認していきましょう。
1:「今は営業成績がよくても、一寸先は闇。気を引き締めて、日々努力する気持ちを忘れずにね」
仕事がうまくいっていると、知らず知らずのうちに天狗になってしまう人もいるのではないでしょうか? そんな時、注意喚起してくれる人は一見疎ましく感じるかもしれませんが、ありがたい存在でもあったりします。この例文では、「今はよくても、この状態がずっと続くとは限らないから気を付けなさい」という戒めの意味が込められています。
2:「一寸先は闇だから、どんな世の中でも経済的に自立できるよう、手に職を付けておきたい」
今は安定した生活を送っていたとしても、ほんの少し先の未来に何が起こるかは誰にも分かりません。現に、世界では戦争や自然災害、大きな会社の倒産など予測できなかった不幸な出来事がたくさん起こっています。先行き不透明な時代だからこそ、危機感を持つことは大切なのかもしれませんね。
3:「ギャンブルの一寸先は闇…。調子に乗らず、いい所でやめておくのが賢明」
ギャンブルは、偶然や運に頼るところのある試みですよね。そこが面白いところでもあるのかもしれませんが、常に「一寸先は闇」とも言えるのではないでしょうか。
「一寸先は闇」の類語・対義語
「一寸先は闇」の類語と対義語を紹介します。それぞれの持つニュアンスは微妙に異なるので、使用するシーンによって使い分けてみてください。
類語
・塞翁が馬(さいおうがうま)
まずは意味から確認します。
《「淮南子(えなんじ)」人間訓から》人生の禍福は転々として予測できないことのたとえ。「人間万事―」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
このことわざの由来は、ある中国のお話から。中国の北辺に住んでいた老人の飼い馬が、ある日逃げてしまいます。しかし、後日、逃げた馬は立派な馬を連れて帰ってきたのです。老人の息子は喜び乗ってみたところ、落馬し、骨折してしまいました。しかし、その怪我のおかげで息子は戦争に行かずに済んだのです。
この話は、人生の吉凶はその時点のことだけでは決め難いことを表しています。先のことは、誰にもわからないということですね。
・明日は我が身(あすはわがみ)
こちらも意味から確認しましょう。
よくないことが、いつ自分自身にふりかかってくるかわからないということ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
他人の身にふりかかった不幸が、いつ自分にも起こるかわからないことを表しています。
対義語
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
意味から確認します。
前もって用心していれば、失敗することがないというたとえ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
未来は予測できないという「一寸先は闇」に対して、「転ばぬ先の杖」は準備を怠らなければ将来起こることにも対応できるというニュアンスを持ちます。
・順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
意味から確認します。
追い風を受け、帆がいっぱいにふくらむこと。転じて、物事が順調に思いどおりに運ぶことのたとえ。「―の人生」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「一寸先は闇」は先行きに対する不安感が含まれていますが、「順風満帆」は前向きで明るい表現です。
最後に
「一寸先は闇」という言葉が戦国時代直後に生まれたと知り、言葉の重みが増したように感じました。当時の人々は、明るくこの言葉を発することで、不安を払拭していたのかもしれませんね。
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