時候の挨拶とは?
頭語の次に季節感を表す言葉として記すのが、「時候の挨拶」。手紙やハガキの基本的なマナーです(頭語に「前略」を使う場合、お見舞いなどの場合は省略します)。
しかしながら、難しく考える必要はありません。普段から、「最近、日が短くなったよね」「寒いから風邪をひかないようにしてくださいね」など、季節に応じた会話をしていますよね。それを、ビジネスシーン、友人やお世話になった方宛てに、手紙にふさわしい言葉に編み直すにはどうしたら? 幸いにも定型的に使われている言葉も多く、それもぜひ参考にしてみましょう。秋が深まりゆく10月には、どのような挨拶が適しているのでしょうか?
ビジネスシーンで使える10月の時候の挨拶を例文で紹介
ビジネスシーンでも正式な手紙やメールには「時候の挨拶」を入れます。ここではビジネスのどんな場面にも使える言葉と、少し柔らかな印象になる言い回しを紹介しましょう。
「秋晴の候、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます」
〇〇の候は、ビジネスシーンでは最もスタンダードで格式のある時候の挨拶です。〇〇に入るのは字音で読む漢語といわれるもので、この場合の正しい読み方は「しゅうせいのこう」です(「あきばれ」のこうでも間違いではありません)。
○○の候の使える時期(目安)
10月いっぱい 秋晴の候、秋雨の候、清秋の候、秋涼の候、夜長の候
10月上旬 仲秋の候
10月中旬~下旬 寒露の候、紅葉の候、錦繍の候、霜降の候
〇〇の候を、〇〇の折や○○のみぎり、と書き換えることもできますよ。
「菊花薫る季節となりました。この度の◯◯様のご昇進を心よりお祝い申し上げます」
ビジネスでの関係性ではあっても、お祝いには華やぎのある時候の挨拶がおすすめです。ほかに「金木犀の香る季節となりました」「澄み渡る空の心地よい季節です」など、固くなりすぎず、冒頭から祝う気持ちを込めてみましょう。
「日増しに寒さを感じるこの頃、貴下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」
ビジネスシーンでの個人宛の例文です。「〇〇の候」とするより肩肘張ない印象になりますね。「ご健勝」は、相手が元気であることを願ったり祝ったりする言葉。「貴下」は「貴殿」とともに男性への呼びかけです。対象により「皆様におかれましてはますます」、また女性の場合には「〇〇様におかれましてはますます」と続けるといいでしょう。
カジュアルに使える10月の時候の挨拶を例文で紹介
ビジネスでお役立ちの「〇〇の候」をやさしく言い換えると、カジュアルに使える挨拶になります。たとえば「秋晴の候」なら、「晴れ渡る空の気持ちいい季節」という具合です。またスポーツの秋、読書の秋、芸術の秋、食欲の秋など、秋を表すおなじみのさまざまな言葉を、相手の趣味や好みに合わせて使用するのもいいですね。
さらには、虫の声、赤とんぼ、いわし雲、秋の夜長、運動会、ハロウィンなど、秋をイメージする単語を入れて、ポエムを創作するように自分なりの時候の挨拶を綴るのも楽しいものです。
「木々もようやく色づきはじめました。みなさま、お変わりありませんか」
季節の変わり目には、健康を気遣う言葉を入れるのもいいでしょう。特にしばらく会っていない相手に、「あなたのことを気にしています」というメッセージにもなります。
「スポーツの秋、ゴルフの調子はいかがですか? 私は最近テニスを始めました」
友人・知人の趣味や特技を挨拶に盛り込むのもおすすめ。同じ趣味があるのなら自分自身の近況も知らせてみては。ほかに、旅好きの友人には「行楽の秋、どこかへ旅行に行きましたか」など、ケースバイケースで使えますね。
「天高く馬肥ゆる秋、何を食べてもおいしくて困っています」
「ダイエットは来年からと決めました」など、親しい友人には茶目っ気を交えた挨拶も楽しいもの。「何かおいしいものでも食べに行きましょう」とお誘いするのにもぴったりな時候の挨拶です。
「今年もハロウィンが近づいてきましたね。一緒にパーティをしたことを思い出します」
時候の挨拶に年中行事や共通の思い出を書き加えるのも、親しい間柄ならではです。
秋にぴったりな結びの言葉を紹介
結びの言葉は手紙の余韻として残ります。秋を感じるちょっと気の利いた一言で締めくくりたいものですね。
「実りの秋、貴社のますますのご発展をお祈りいたします」
ビジネスでは「貴社のますますのご発展を心より祈念しております」というような結びの言葉が多いですが、このように季節をしのばせると好印象です。「実りの秋」は縁起のいい言葉で、「ますますのご活躍を」など個人宛にも使えます。
「霜降の折、体に気をつけてお過ごしください」
10月は秋が深まり徐々に肌寒くなる時期です。後半になれば、寒くなることへの心遣いと健康を願う気持ちを込めるといいでしょう。
後に続く言葉は、目上の方には「ご自愛ください(ませ)」を使うようにしましょう。
「爽やかな秋空の下、ますますお元気で! また会いましょう」
秋は活動的になれる季節。いつも元気な友人には前向きに手紙を締めくくりましょう。お誘いの一言を添えるのもいいのでは。
最後に
季節感を記す「時候の挨拶」は、四季に恵まれ、季節の折々に風物詩のある日本ならではの美しい風習です。秋まっただ中の10月には風、空、雨、虫の声、紅葉、菊や金木犀など使いたくなるフレーズがたくさんありますが、ビジネスなどかしこまった場面では、まずは定型句を使えば失敗はないでしょう。仕事のできる印象も与えます。
一方、カジュアルな場面では自分なりの感性で季節感を表すのもいいですね。大切なのは季節を共有し、相手を敬う気持ち。お見舞いや火急の場合など例外を除いて、省くことなくしたためましょう。
TOP画像/(c) Adobe Stock