「会う」と「逢う」の違いとは?
「逢引」「逢瀬」など、「逢う」には恋や恋人を連想させる、甘美な響きがありますね。恋愛映画や曲などでも古くから「めぐり逢い」「めぐり逢えたら」「夢で逢えたら」などこぞって逢の字が使われています。一方、「会う」は現実的というか、ロマンチックなイメージはありません。
そういえば、NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場する和泉式部も、「あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな」という有名な恋の歌を残しています。同じ「あう」なのにどうして? そのわけを探っていきましょう。
「会う」の意味
「会う」には、お互いに顔を合わせる、場所や時間を決めて対面する、「会合」「飲み会」というように集合する、などの意味があります。私たちが日常的に使っている通りです。
ちなみに「合う」との違いは?
「合う」は、2つ以上のものが近づいて1つになったり、調和、合併、一致、適合などの意味合いがあり、人と人が会うときには使われません。たとえば「合わせる顔がない」という表現がありますが、これも実際に会う、会わないというのではなく、「面目なくて会いたくない心情」を表しているのです。
会の漢字の成り立ち
「会う」の意味に直接結びつくかどうかはわかりませんが、「会」の成り立ちに注目してみましょう。
会の旧字は會に作り、蓋のある食器の形。器の下部は(こしき)。その上に蓋のある器をおき、下から蒸す。
≪字通≫ Shogakukan Inc.より引用
つまり、器とふたがあう、というのが語源なんですね。やはり日常生活から生まれた漢字といえそうです。
「逢う」の意味
それでは「逢う」はどうでしょう。この字には、向こうから来る人に出会う、迎える、思いがけず出会う、大切な人にあう、などの意味が込められています。偶発的、運命的、といえそうですね。
ただし、常用漢字ではありませんので、公的文書や新聞などでは使われません。ビジネスシーンでも使うのは避けたほうがいいでしょう。
逢の漢字の成り立ち
成り立ちについては、十字路の象形文字、立ち止まる足の象形文字、草木の生い茂る様子の象形文字が組み合わさっており、しんにょうは「進む」の意味。「道を進んだ先で出会う」というイメージの漢字です。進んだ先で思いがけない出あいがあるかもしれない。そんな風にも捉えられますね。
漢字の成り立ちを見ると、なぜ「会う」と「逢う」のイメージが違うのか、少しわかったような気がします。
【まとめ】「会う」と「逢う」の違い
友人や同僚に「あう」ときはシンプルな意味の「会う」、恋人や大切な人に「あう」ときは運命を感じさせる「逢う」を使うのがしっくりときます。恋の達人・和泉式部でさえも「逢」を使っているのですから、これは自分の思いを伝えるときにお墨付きの言葉といえるでしょう。
ただし「逢う」は常用漢字ではありませんので、公用文書や新聞では使われません。ビジネスシーンでも使用を避けましょう。
「会う」と「逢う」の使い方を例文で紹介
これまで確認してきたように、「会う」は日常的なシーンで、「逢う」は対象が恋人など特別な思いがあるときに使うのが適しています。ここでは具体例を紹介しましょう。
1:「今日の夕方5時、カフェで学生時代の友人と会います」
会うは、場所や時間を決めて対面するときでも、たまたま会うパターンでも問題なく使うことができます。
2:「地獄で仏に会ったよう」
大変困っているときや危機的状況のときに、思いがけない助けにあったときの喜びを表すことわざ。仏様に「会う」ような救いがあったときに使います。
3:「大好きな彼とはこの場所で出逢いました」
彼は恋人であり大切な人、親しい人。ゆえに「出会い」ではなく「出逢い」のほうがしっくりときます。同僚、友人などの場合はシンプルに「出会う」を使うほうがいいですね。
4:「ここで偶然に逢うなんて、びっくり!」
運命的、あるいは運命の人と感じたときには「逢う」を使うほうが気持ちが伝わります。ここぞというときに使ってみてはどうでしょう。
「会う」と「逢う」は英語でどう表現するの?
「会う」と「逢う」という微妙なニュアンスの違いを英語でも表現できるのでしょうか? いくつの例で探ってみましょう。
1:「see」
「see」はたまたま会ったり、時間や場所などが特に重要でない場合に使います。「See you again」という表現は有名ですね。
2:「come cross」
英語では「come cross」だからといって恋愛を思わせる意味合いはありませんが、「偶然に」を強調したいなら「meet」より「come cross」がよさそうです。「I came across my teacher(たまたま先生に出会った)」などと表現可能。
さらに運命的なものを感じる場合は、「destined meeting(運命的な出会い)」という表現があります。
最後に
意味、漢字の成り立ち、英語までさまざまな角度から「会う」と「逢う」について紹介してきました。「会う」はごく一般的に使われる言葉でオールラウンダ―です。一方、常用漢字ではない「逢う」はビジネスシーンなどで見ることや使うことはありませんが、愛を持って「あう」、「偶然の遭遇」への高揚感など、会うこと以外に気持ちが上乗せされます。大切な人にはさりげなく「逢う」を使って思いを届けたいですね。
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