仕事の断り方にはコツがある? 上手に断ることで得られることは?
「仕事を断る」というと、マイナスイメージがつきものですよね。多くの人は「断ることは失礼なことではないか」「わがままだと思われて、その後の仕事に悪影響があるのでは?」などと考えてしまうものです。
実は、上手に断ることで、かえって信頼を得られたり、業務が円滑に進むことも。これまで、5万人のキャリアサポートをしてきた、キャリアコーチの菊池啓子(きくち・ひろこ)さんに、仕事の上手な断り方についてのお話を伺いました。
「大きなプロジェクトの抜擢もあれば、日常の雑務と思われるようなものまで、日々の仕事は社内外ふくめて他人からの依頼で成り立っています。特にOggi世代のみなさんは、キャリアもあり、組織の要として活躍をされていますよね。すべての仕事を引き受けていては、自分がパンクをしてしまいます。
とはいえ、業務内容や関わる人の好き嫌い、『楽しくなさそう』『やりたくない』などの感情的な判断で断るというのは、NG。本音はそうだったとしても、ちょっとした伝え方のコツで、自分の専門性を高め、周囲からの信頼も得られるようになれます。
自分の望むキャリアを築くためには、『断る勇気』と『正しいタイミング』と『適切な情報提供』が必要。無理な依頼を受け入れ続けることは、ストレスや過労がたまり、自己成長の機会や、自分の時間とエネルギーを失うことにつながります」(キャリアコーチ・菊池さん)
適切に状況を見極めて、仕事の依頼を断ることは、わがままではありません。「断る勇気」を持つために、依頼する側・される側どちらにもメリットがあることを理解しましょう。
1:仕事の質や効率が上がる
「断ると、仕事がなくなるのではないか」「評価が下がるのではないか」などの不安な気持ちで仕事が断れず、スケジュールや自分のキャパシティに余裕がないにも関わらず、仕事を引き受けてしまっていませんか?
無理に仕事を受けても、よい結果に結びつかないことがあります。業務量が多くて辛いと感じたり、自分の価値観と違う行動をとることでストレスを感じたり、スケジュールに余裕がないため作業の質が下がったりと、納得のいく成果が出ないことにつながる可能性も。
断るということは、優先順位をつけて、自分の時間やエネルギーを守り、自分の能力や価値観を認めてもらうことにつながります。予算やスケジュール、依頼側の理念やビジョンなど、違和感を覚えることがあれば、引き受けないという判断もときには必要です。
2:信頼関係が高まる
自分の状態が万全の体制ではないときに仕事を引き受けてしまうことで、後工程のトラブルが発生しやすくなります。また、依頼側が、過度な要求をしているということに気付いていないことも。
「断る=縁がなくなる」というわけではありません。「スケジュールが厳しい」「限度を超えた配慮を求められている」など明確な理由を伝えて断ることは、無理なくビジネスを続けていくために重要なこと。断ることで、双方のリスクヘッジになり、結果として「言いづらいことも適切に伝えてくれる人」「トラブルが少なく任せられる人」という評価にもつながります。
3:優先順位の明確化
断るということは、他に大切なものがあるということ。自分の仕事においての優先順位が明らかになるので、持っているリソース(スキルや時間など)を自分のキャリア形成のために適切に使っていくことができます。
また、断られた側も、段取りや依頼内容などを再度調整することで、優先順位がはっきりしてきます。そして、要件や期待値などがより明確化されるので、当初の想定を超えるよいものにつながる可能性も出てくるのです。
仕事を断るかどうかの見極めポイント
仕事の断り方として、まずはその案件を引き受けるかどうかの見極めが必要です。次の4つを確認しましょう。
1:現在の仕事の優先順位や締め切りを把握しているか?
自分が現在取り組んでいる仕事の重要度や期限を、明確に把握できていると、新しく依頼された仕事が自分の仕事に影響を与えるかどうかを判断できます。
2:依頼された仕事に対して自分に能力や時間があるか?
依頼された仕事が自分のスキルや経験に合っているか、自分のスケジュールに余裕があるかを考えます。無理な仕事を引き受けると、自分の負担が増えるだけではなく依頼者に迷惑をかけることになるかもしれません。
3:依頼された仕事が自分のキャリアや目標にとって有益か?
依頼された仕事が、自分の将来の展望や成長に役立つかどうかを考慮します。また、依頼された仕事が自分の好きなことや得意なことに関係しているか、新しいことに挑戦したいかどうかということもポイント。やりたくない仕事はモチベーションが下がり、パフォーマンスも低くなり、自分の目指す方向と関係ない仕事は断ってもよい場合があります。
しかし、この項目は注意も必要です。新たな知識やスキルを身につけるきっかけは、自分が思ってもみなかった依頼から始まることも。感情的な判断だけでなく、広い視野で総合的に吟味をしてみましょう。
4:依頼者との関係や信頼度は?
依頼者が自分の上司や同僚、取引先など、どのような立場の人かを考えます。また、依頼者が自分のことを信頼しているか、また自分が依頼者を信頼できるかどうかも重要です。
仕事を上手に断るときの3つのポイント
引き受けたくない仕事の場合、「当たり障りのない断り方はないか… 」と思ってしまいがち。とはいえ、曖昧な伝え方ではかえってトラブルになります。特にメールでのやり取りは、情報が残るので配慮が必要。伝えるべきことは率直に伝えつつ、相手に不快感や不信感を与えずにすむ断り方のポイントを解説します。
1:断るときには早めに
言いづらいことは先送りにしがち。しかし、依頼者の都合もあり、その後の調整なども必要となるので、断ると決めたら一刻も早くお伝えしましょう。
2:相手に感謝の気持ちを伝える
断るときは、まず依頼をしてくれたことへの感謝を伝えましょう。ただ謝るだけでは、言い訳に聞こえて印象が悪くなります。
3:断る理由を具体的に説明し、代替案や提案を出す
前向きな言葉で理由を具体的に説明することで、相手も納得しやすくなります。また、「できません」と伝えるだけでなく、代替案や譲歩の提案などができると、依頼者も次の手を打ちやすくなり、スムーズな展開が期待できますよ。
おわりに
仕事を断ることは、わがままではなく、長く活躍するためにも大事なスキルです。上手に断るコツをつかんで、自分の環境を整えていきましょう。
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キャリアコーチ 菊池啓子(きくち・ひろこ)さん
2003年から企業研修トレーナー・人材育成コンサルタントとして活動。国家資格キャリアコンサルタント。研修登壇回数は年間100回を超え、これまでに5つの大学でキャリアデザインを教える。現在「社外上司」として多くのビジネスパーソンの悩みに寄りそい成長をサポート。趣味は出張先での御朱印集め。家族は夫と猫2匹。
Twitter:@lotus_kikuhime
ライター所属:京都メディアライン