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2023.08.18

「やり遂げたいことがあるときは、必ず大きなものを捨てる」『SHIRO』ブランドプロデューサー・今井浩恵さんインタビュー

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。今回は、一社員として入社後6年目にして社長に就任し、コスメティックブランドSHIROを築き上げた今井浩恵さんに【ターニングポイント】を伺いました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

化粧品会社会長兼ファウンダー/ブランドプロデューサー・今井浩恵さん インタビュー

あなたが辞めて会社が倒産するか、社長を継ぐか、どっちにする? ――そんな決断を迫られたのが26歳のときです。短大を卒業後、いずれは専業主婦になるつもりで、北海道の土産物などを製造・販売するローレルに就職。

今井浩恵さん

20歳から5年間働き、社長秘書、店舗運営、製品開発、製造、営業… とひと通り経験できたし、もうこの会社で学ぶことはないかな、と退職を切り出した矢先でした。

実際は若さゆえの驕りで世の中が見えておらず、できるようになったと思い込んでいただけ。未来のために経営を学ぶといった準備もノウハウもなくて。

でも、だれも何もしなければなくなる会社なら、私が何をやってもいいだろうと思えたんですね。3時間考えて、その日のうちに「継ぎます」と創業者に返事をしました。

大手ブランドからの受注が増加するも、葛藤を感じる場面も…

ただ、負債があるとは知らず、金融機関と契約する段階でどうやら借金は2億円なんだなと(笑)。それよりも「26歳の女が社長になるなんてやってられない」と、10人以上の従業員が一気に辞めてしまった事実がショックでしたね。

残ってくれたメンバーと一緒に、その瞬間やりたいことを、とにかくスピード感をもって形にしていく… ということを繰り返していきました。

結果、大手ブランドからの化粧品OEM受注が増加。もちろんありがたくうれしいことなのですが、葛藤を感じる場面も増えていきました。

コスト重視でスポイト1滴入れるだけで「○○成分配合」とうたい、何千円という値段がつくビジネスがあること。よい製品だと思えなくても、相手に頭を下げなければいけない関係性。

さらに、30代を前に子供が生まれたことも大きな転機に。「本当にこの製品を使ってもらいたいか」という自問に、自分のことは誤魔化せても、我が子が触れるかもしれないと考えると許せなくなって。

2009年自社ブランド立ち上げ。売り上げや自己表現のために、不要なゴミをつくってはいけない

心から買いたいものが買えるお店があったらいいなと、OEMから撤退を決意。2009年に自社ブランドを立ち上げました。

自社ブランドといっても、売り上げや自己表現のために、不要なゴミをつくってはいけないと思っているんです。「世の中にない」から、「0 → 1(ゼロイチ)」でつくりたいと思うし、エネルギーが湧く。

化粧品を開発する

私の場合は、“電車に乗っていてもだれも怪訝な顔をしない香り”がほしかった。納得いくまで試作を重ねて開発した一例が、フレグランスのサボンであり、ホワイトリリー。ブランド名がシロに変わっても、不動の人気を誇る製品になっています。

『shiro』から『SHIRO』へ、「ブランドは皆さんのもの」と考えるように

厳しい言葉も多かった2019年のリブランディング

自分の意志でやっている仕事ですから、苦労とは感じませんが、唯一落ち込んだ時期は2019年のリブランディング。海外展開を進める過程で『shiro』から『SHIRO』へ、パッケージも含めて変更しました。

大文字になっただけと受け止める方もいると思うのですが、「儚くて控えめなのがよかったのに」と強い思いを託してくださるお客様も。炎上と言えるくらい厳しいお言葉もいただきました。

「世の中をしあわせにする」という企業理念を掲げてきたはずが、こんなにも人を悲しませてしまうなら、なくなるべきじゃないかと。

思い返せば10年間、私だけのブランドだと思って走ってきたんです。農家さんや漁師さんと一緒に素材を追求しながらビーカーを振り、純粋にものづくりに没頭している間に、多くの人に愛されるブランドに育っていたんだなと気づけた。ブランドは皆さんのものなんだ、と考えが変わりました。

「本来の自分」と「社長としての自分」とのギャップ

一方で、自分の手を離れていくさみしさや社長としての顔つきを求められる重責も。

今井浩恵さん

オフィスを表参道に構えた40歳のころから、流行を追いかけて時代を築いていかねば、と鼻息荒く世界を駆け回る毎日。本来の私は全然違うタイプで、このままだと息切れしそうだなと違和感に苛まれていたところで、コロナ禍がやってきました。

国内での素材調達や生産を構築していたので、会社の事業は滞ることなくむしろ伸びていたのですが、私自身は一歩も外に出ない生活に。立ち止まって考える時間を得たことで、「社長を辞めよう」と思い至りました。

そもそも私はクリエイティブには強いけれど、数字には疎くて。国内外に30店舗以上と拡大し、より多くの人に伝えていくなら、現社長である福永のほうが経営能力がある。なんで気づかなかったんだろうと。

命を削ってものづくりをしてきたのに社会がよくなっていなかった

社会をよくするために、まちづくりに専念することに

ずっと尖った山の頂を目標に登ってきたけど、ふもとに降りていくほど視界も出会いも広がって。いざ足元から顔を上げてみたら、命を削って製品をつくり税金も納めてきたはずなのに、社会がよくなっていないんですよ。

整備されていない公園、教育格差、夢を持てない子供たち。「だったら自分でやるしかない。社会をよくするために会社の利益を使わせてください」と現社長に頼み、まちづくりに専念することにしました。

SHIROが生まれた砂川市で、『みんなのすながわプロジェクト』を始動

その一手として新工場の建設を考えたときに、砂川を選んだのは、支えてくださった街の人たちの笑顔が浮かんだから。SHIROが生まれた砂川市が素敵な聖地になるならやり切れると燃えて、始動したのが『みんなのすながわプロジェクト』です。

人口が約1万6000人しかいない町ですから、もちろん地域課題は山ほどあります。まだ形のない構想に「いったい、何を始めるの?」と不安を抱いた方もいたと思います。

でも、2年かけて対話やワークショップを重ね、2023年春には『みんなの工場』のオープンを迎えました。

だれも何も排除しない、人々が集う場所に

私たちのものづくりをすべて見ていただけるよう、壁ではなくガラスで仕切り、「工場を開く」ことを実現。目指したのは、子供もペットもだれも何も排除しない、人々が集う場所です。

雇用が生まれたほか、近隣の飲食店さんが「うちにもお客さんが増えたよ!」と声をかけてくださったり、地元の木こりの方から調達したカラマツの耳付き外壁材が好評で他企業から何十件も注文が来ていたり、うれしい連鎖が起きていますね。

北海道の雄大な自然の中でつながりが生まれる SHIRO『みんなの工場』

SHIRO『みんなの工場』
©KeitaSawa

今井さんがまちづくりの一環としてプロジェクトを牽引した体験型ファクトリーが、創業の地・北海道砂川市に誕生! 敷地内には、工場だけでなく店舗や地産グルメが味わえるカフェに加え、キッズスペースやライブラリー、自分だけのオリジナルフレグランスづくり体験ができる「ブレンダーラボ」も。旅の思い出にぜひ立ち寄りたい。

「放てば手に満てり」。やり遂げたいことがあるときは、必ず大きなものを捨てる

何かやりたいことがあるとき、根底にあるのは「放てば手に満てり」という格言。OEM事業や社長の座という大きなものを捨ててきたからこそ、今があると実感しています。

人生の第2フェーズ、次は林業を通して環境を守るべく、森に通っています。日本の国土は7割が山、適切な管理は未来に欠かせません。

数百年先を見すえて森を育てる木こりの皆さんに学びつつ、建築物都合の伐採ではなく、資源に合わせた建設をスタンダードにできないかと実践中。

社会の課題を解決できる会社であり続けたい

間伐材を活用して、2024年には宿泊施設『MAISON SHIRO』が完成予定です。今後も、行政の手が届きにくい社会の課題を解決できる会社であり続けたいと思います。

2023年Oggi9月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/小泉まどか(STUDIO ma_do_k_) 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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今井浩恵さん

今井浩恵(いまい・ひろえ)

1974年、北海道旭川市生まれ。コスメティックブランド『SHIRO』を展開する、シロ代表取締役会長兼ファウンダー・ブランドプロデューサー。1995年、北海道で土産物などの製造販売を行うローレルに入社、2000年に社長に就任し化粧品事業を拡大。「自分たちが毎日使いたいものをつくる」という想いのもと、2009年にブランド『LAUREL』を設立。2015年に『shiro』に名称変更。2019年には社名を株式会社シロに、ブランド名を『SHIRO』に変更。2021年7月より現職。クリエイティブ統括に専念し、まちづくり『みんなのすながわプロジェクト』を始動。インスタグラム:@imaihiroe


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