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WORK

2023.05.18

「変革がもたらす摩擦を怖れずに、困っている人を幸せにしたい」ワコール 取締役・篠塚厚子さんインタビュー

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。ワコールでDX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引し、この春からは同社最年少で取締役に就任した、篠塚厚子さんの【ターニングポイント】を伺いました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

衣料品メーカー 取締役・篠塚厚子さん インタビュー

ひとつひとつの仕事を丁寧に積み上げていくことで、自分が何をするべきかが見えてきた

念願の国際本部に異動したのが、28歳。新卒でワコールに入社して以来、ずっと目指してきた部署でした。米国の直営EC立ち上げ支援に1年携わった後、英国の企業買収に伴う欧州再編を3年担当。

やる気満々で臨んだのに、与えられた仕事をさばくのは得意でも、自ら仕事を創るとなると何をしたらいいかわからない。取り組むべき課題や実現したいゴールを考えても、空っぽで何も出てこないんです。今まで自信を持っていた仕事が急に難しく見えたんですね。

しかも当時は、結婚したばかり。夫と暮らしていた名古屋から京都の本社に通う新幹線で車窓を眺めながら、毎日途方に暮れていました。

篠塚厚子さん

手応えをつかめるようになってきたのは、現地スタッフから、ポジションとしてではなく私という人間への相談をしてもらえるようになってきたころ。

海外の方は合理的ではっきりしている人が多く、相談しても仕方ない相手には連絡してきません。ひとつひとつの仕事を丁寧に積み上げていくことで、少しずつ自分が何をするべきかが見えてきました。

先を見すえて決めていく、当時の上司であり現ワコール社長の仕事の進め方を間近で見られたことも、すごく勉強になりましたね。

34歳で出産。幸せな日常をかみしめつつ、産後1年で職場復帰へ

大きな転機は、やはり34歳での出産でしょうか。最優先=娘になり、時間も情熱も、仕事に全力は注げない。正直なところ、「人に認められたい」とか「今の仕事でキャリアを積まなきゃ」という欲まで消え失せまして。

子育ては社会から切り離されて孤独になる… と言われているけれど、娘と散歩をしながら青い空を眺めていたらそれだけで幸せ。そういう日常を味わえたのは、大きかったですね。

ただ、私のエネルギーを家庭に集中しすぎると、それはそれでご迷惑(笑)。仕事を辞めるという選択肢はなく、産後1年で復帰しました。

「デジタルは優しい」変革がもたらす摩擦を怖れずに、困っている人を幸せにしたい

出産・子育てをデジタルに救われた実体験から、未経験だった分野へ飛び込むことに

育休明けの復帰先として選んだのは、デジタルを活用できるオムニチャネル戦略推進部での新規事業。

陣痛もミルクも夜泣きも、スマホやアプリに救われた実体験から、デジタルを使いこなせたら世の中に価値を生み出せるのではないかと感じていました。

未経験の分野に飛び込んだのは、言い訳がない道ほど苦しいものはないから。自分の中に優しい逃げ道をつくっておきたかったんですね。

「慣れたことができない」ときは無能感に襲われますが、初めてなら「しょうがない」と自分も周りも納得できるんじゃないかと。育休後の希望を尊重してくれる会社の体制もありがたかったですね。

「デジタルは味方」が出発点となって開発できた『3D smart & try』

私自身は、DXの“デジタル”の知識はゼロに等しい状態。勉強しながら取り組んでみると、“トランスフォーメーション”で世の中の変化にどう適応していくかという課題に重きがあり、性に合っていると感じました。

常々思っているのは「使い方を間違えなければ、デジタルは優しい」ということ。

たとえば、赤ちゃんの夜泣きで困ったとき、AIチャットなら24時間いつでも答えてくれますよね。病院でも、検査データを基に診断するから信用できるという人は多いはず。

本能的にデジタルは味方だと捉えているところが出発点となって開発できたのが、3Dボディスキャナーによる計測とAI接客を組み合わせて、お客様本来の体型や特徴に合う下着を提案する『3D smart & try』でした。

視線を気にせず全身を計測! セルフでできる3D計測サービス『3D smart & try』が進化

3D smart & try

篠塚さんが開発に携わるワコールの3D計測サービス『3D smart & try』。わずか3秒でインナーウエアサイズや全身18か所の数値が計測でき、データ確認までセルフで完了。この春からはアプリでも計測データのチェックが可能になる予定。体験店舗など詳細はワコール公式HPへ!

好感度や社内の摩擦を気にするより、困っている人たちが喜んでくれるサービスを提供するほうが大事

ワコールでは、ブラジャーは店頭で販売員が直に測って合わせるという長年の成功体験があり、「機械で測ろう」という意見は出にくかったように思います。

ただ、日常的にママ友と接する私は、「産後は人に見せられるような体じゃない」「そもそも、下着屋に着て行く下着がないよね」という声を聞いている。そういう人たちの課題を解決せずしてワコールにいるのは、おこがましいと思ってしまって。

ワコールの下着

たとえ変革をよく思わない人がいたとて、自分の好感度や社内の摩擦を気にするより、今まさに困っている人たちが喜んでくれるサービスを提供するほうがよっぽど大事だなと。

まずはお客様の視点で入店からお帰りになるまで一連の流れをイメージして書き出すところから始め、デジタル技術については外部の専門企業の方にも相談。

化粧品の肌診断など、他業種の3Dサービスも体験しに行って感覚をつかみ、要素を分解しながらプロジェクトを組んでいきました。

新規事業は迷いと決断の連続。社内外のメンバーに支えられた

新規事業は、何度もやってくる「やめようか」という迷いと決断の連続です。技術的な問題には指標があるけれど、心地いいのか、親切なのか、お客様がどう感じるのかという感性の部分は意見が割れます。

正解がなく自問自答の日々でしたが、社内外のメンバーのポジティブな熱量に助けられましたね。

プロジェクトの途中、娘が熱を出して度々帰宅し、さすがに「もうやってられないよね」みたいな雰囲気になっているかと思いきや、「みんなで話し合ってこうなりました!」と名案を出してくれたことも。

私に限らず、だれかが不調なときはカバーする。一緒になんとかしていこうというスタンスに、ひとりじゃないと思えて最後までやりきることができました。

リアル店舗から遠ざかっていた20代、30代が売り場に足を運んでくれるように

2019年のサービス開始後は、リアル店舗から遠ざかっていた20代、30代の方が売り場に足を運んでくださり、今では70%を占めています。

「バストサイズのコンプレックスが一瞬で吹き飛んだ」「理想や平均じゃなく、自分に合うものをつけたら日々快適」といった声がSNSにあふれ、私にとっても原動力に。

人の目が苦手な方々にとっては、機械での計測だからこそ、やってみようというきっかけになったのかな、と思っています。

自分の地位や役割に、執着はしない。上も下もなく、全体の利益を考える

出世がゴールではないから、自分の地位よりも全体の利益を考えて判断する

2023年4月からは、取締役執行役員として、約200人の組織のマーケティング本部長を務めています。

以前は「仕事は好きだけど、出世はしたくない」と考えていたのですが、自信がないから、みんなの意見を聞いてしっかり考える。出世がゴールではないから、自分の地位よりも全体の利益を考えて判断する。それは、自分の強みかもしれないなと思うようになりました。

篠塚厚子さん

今、取り組んでいるWeb3.0の世界では、社会はよりフラットにダイレクトにつながり、既存の権威や上下関係も薄れると考えています。

この過渡期に、自分軸で新しい価値観やリーダー像を創っていくことはとても面白いですし、次の世代の方々の、お役にも立てるのではないかなと。

大きなイノベーションでなくとも、ひとりの暮らしが豊かになることも大切

折々に思い出すのは、助産師であり、私が36歳のときに亡くなった母の「元気で生きていればいいよ」の言葉です。自分も関わる相手も、とにかく健康第一。食べて、笑って、寝る。無理せず背伸びせず、がマイルールになっています。

今春から就任した学童のお弁当注文係も、私には執行役員に負けない大役でして(笑)。大きなイノベーションでなくとも、ひとりの暮らしが豊かになることもすごく大切。優しい世界にするために私たちに何ができるか、またみんなと一緒に考えていきたいです。

2023年Oggi6月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

篠塚厚子さん

篠塚厚子(しのづか・あつこ)

1982年、京都府生まれ。ワコール ホールディングス 執行役員 グループDXマーケティング担当。株式会社ワコール 取締役 執行役員 マーケティング本部長。京都大学法学部卒業後、2005年にワコール入社。百貨店で営業を経験後、海外のEC事業支援や事業再編、M&A、また子会社でのブランドマネージャーやMDも担当。2017年、総合企画室オムニチャネル戦略推進部に異動。2019年4月に「3D smart & try」サービスを立ち上げ、翌年、IBM「Women Leaders in AI」のひとりに選ばれる。イノベーション戦略室 室長を経て、2023年4月から現職。

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