世帯分離とは?
「高すぎる保育料に悩んでいる」、「共働きだけど税金や社会保険料が高くて困っている…」という場合、世帯分離を検討する人もいるかもしれません。保育料や国民健康保険料などは、世帯収入で支払額を算出するため、パートナーと同一世帯でいることにメリットを感じないという人もいるでしょう。
夫婦の場合、世帯分離を申請したとしても、実際は認めてもらえないことがほとんどです。また、夫婦間で世帯分離するのであれば、注意しなければならないことがたくさんあります。
「世帯」や「世帯主」の意味をおさらい
まずは、「世帯」「世帯主」がどのような意味なのか、確認しておきましょう。
「世帯」とは、「住居と生計を共にする人たちの集まり」を指す言葉です。同じ家に住み、家計(生計)が同一であるなら、「同一世帯」とみなされます。ただし、同じ家に住んでいても、それぞれの家計が独立している場合は「別世帯」です。
例えば、親子で同居しているけれど、お互いに独立していて実際の家計は別という場合は、「別世帯」になるということ。
世帯とともによく目にするのが「世帯主」という言葉でしょう。世帯主は、簡単に言うと、その世帯の代表者です。例えば、2人で家計(生計)を共有しながら生活する場合は、どちらかが世帯主になります。1人暮らしの場合は、その人自身が世帯主になるということです。
世帯主と戸籍の筆頭者は、意味が異なる
世帯主は「戸籍の筆頭者」と同じだと思われがちですが、この2つは意味が異なります。そもそも、戸籍は、「個人の家族的身分関係を公的に証明するもの」です。戸籍には、出生や婚姻などの記録や、親子や夫婦、兄弟姉妹といった身分関係が記載されていて、その戸籍の代表者が、「戸籍の筆頭者」になります。戸籍は全員が同じ姓ですが、住所は関係ありません。
世帯分離とは、世帯を分けること
名称の通り、同じ世帯のパートナー、親や子と別の世帯にするのが「世帯分離」です。それぞれの世帯主が、各々で家計を支えるだけの収入があることが、世帯分離の条件。
夫婦の世帯分離ができない理由は民法?
繰り返しになりますが、夫婦の世帯分離はほぼできません。その理由となるのが、夫婦に関する民法の存在です。
夫婦について民法の定めがある
夫婦は、民法において「協力・扶助の原則」が定められています。これは、夫婦になるのであれば、協力して共同生活を送ること、お互いの経済的なことも協力して援助し合うということが、法律で義務付けられているからです。
そのため、減税や保育料軽減を目的に世帯の分離を申請しても、自治体に認めてもらうのが難しく、世帯分離はできないことが多いのです。
ただし、「どちらかが施設に入所し、もう一人の生活が安定しない」「パートナーからのDVや虐待があり、危険度が高く緊急性がある」というような特別な理由がある場合は、世帯分離が認められることもあります。
夫婦の間の世帯分離、メリットはある?
夫婦間で世帯分離をするメリットとして考えられるのは、健康保険料や介護保険料の負担を軽減できるかもしれないということです。特に、介護保険料や介護サービス利用料金は世帯所得で決まるため、ケースによってはメリットがあるかもしれません。
また、世帯分離で夫婦の間が対等な関係になり、その方がパートナーシップを維持しやすいという見方もあります。
世帯分離の手続きって?
夫婦間で世帯分離するなら、どのような手続きが必要になるのかを見ていきましょう。
必要書類には何がある?
夫婦間で世帯分離の申請をする時に必要になるのは、下記の書類です。
・本人確認書類
・国民健康保険証
・世帯変更届
本人確認書類は、2点以上必要になる場合があります。どのような本人確認書類が必要かは、事前にお住まいの市区町村に必ず確認してくださいね。また、国民健康保険証は、すでに持っている人のみ持参してください。世帯変更届は、窓口でもらうことができます。
上記がそろったら、お住まいの市区町村窓口に出向き、手続きをしてください。なお、不備なくスムーズに手続きが終了したら、その日から世帯は分かれます。
夫婦の間で世帯分離をする際、注意したいこと
夫婦間で世帯分離をする際は、次のことに注意してください。
健康保険の扶養から外れ、手当の支給が無くなるケースも
世帯分離が認められれば、所得税や健康保険の扶養からは外れます。そうなると、健康保険料が上がったり、扶養手当や家族手当が支給されなくなったりすることがあります。被扶養者だった人は、新しく健康保険に加入する必要が出てくるので、忘れずに手続きをしてください。
なお、世帯分離の申請日以降、もっとも近い4月1日から、国民健康保険料が変更になります。
医療費の合算ができなくなる
「高額医療・高額介護合算療養費制度」を利用している場合、医療費や介護費の合算ができなくなるため、その点も注意が必要です。
高額医療・高額介護合算療養費制度は、医療費と介護費の合算が、自己負担限度額を超過した場合に、超えた額が戻ってくる制度です。医療費や介護費は、世帯で合算することができますが、世帯分離をしたら限度額を超えなくなったということがあります。そうなると、介護サービスの自己負担額は上がってしまうことに。
同一世帯に戻したくなったら?
世帯分離後、もう一度同じ世帯にしたいと思った場合は、「世帯合併」の手続きをすれば、再び同一世帯になることができます。
しかし、夫婦の場合は世帯合併を認めないという決まりを設けているところもあるため、注意しなければなりません。
経済的な負担軽減を目的に、夫婦間の世帯分離を考えるという場合、世帯分離で得られるメリットはないケースがほとんどです。メリットはないけれど、世帯分離をしたい人は、まずお住まいの市区町村窓口に相談し、それから手続きすることをおすすめします。
最後に
世帯分離は、夫婦もしくは親子間ですることができます。しかし、減税や保育料軽減などが目的だと、自治体が夫婦間の世帯分離を認める可能性は限りなく低いと考えていいでしょう。世帯分離をどうしても検討したいという人は、市区町村窓口に相談し、世帯分離に関する内容や注意点をよく理解してから手続きすることをおすすめします。
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益田瑛己子
ライター・キャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー。金融機関の営業職として長年勤務し、現在はライター(ブック・Web)と就職支援をメインに活動中。3人の子供が自立し、仕事と趣味を謳歌している。
ライター所属:京都メディアライン