目次Contents
この記事のサマリー
・「悲しい」と「哀しい」、どちらの表記をしても同じ意味を持ちます。
・公的な文章やビジネス文書では常用漢字の「悲しい」を用いるのが安心。
・古語では「愛しい」を「かなしい」と読み、「心惹かれる」「すばらしい」といった肯定的な意味も含みます。
私たちは、心が沈むような出来事に出会ったとき、「かなしい」という言葉を使います。しかし、この感情を漢字で書く際、「悲しい」と「哀しい」のどちらを選ぶべきか迷うことがありますよね。
この記事では、この二つの「かなしい」が持つ感情を辞書の定義から紹介します。あなたの伝えたい気持ちに合った適切な使い分けを、具体的な実例とともに整理していきます。
「悲しい」と「哀しい」の意味と違いは?
まずは「悲しい」と「哀しい」の意味や特徴について、確認していきましょう。
「悲しい」と「哀しい」の基本的な意味と特徴
最初に「かなしい」について辞書の記載を確認します。
かなし・い【悲しい/▽哀しい/▽愛しい】
[形][文]かな・し[シク]
1 心が痛んで泣けてくるような気持ちである。嘆いても嘆ききれぬ気持ちだ。「友が死んで―・い」⇔うれしい。
2 人に1のような気持ちを起こさせる物事のさま。「―・い知らせ」「―・いメロディー」
[補説]古くは、いとしい、かわいい、すばらしい、嘆かわしい、心が痛むなど、物事に感じて切に心の動くさまに広く使われたが、近代では、主に心の痛む意に用いられるようになった。
引用(一部抜粋):『デジタル大辞泉』(小学館)
「かなしい」は、心がひどく痛み、泣くような強い感情を表します。また、「かなしい知らせ」のように、その感情を引き起こす原因となる出来事や事柄を指す場合にも用いますよ。
「悲しい」と「哀しい」、どちらの表記をしても同じ意味を持つことがわかりました。違いとしては、「悲しい」は常用漢字であることです。ですから、公的な文章やビジネス文書では、「悲しい」に統一するのが無難でしょう。
「哀しい」の持つ意味と使いどころ
先述したように「哀しい」の基本的な意味は、「悲しい」と変わりません。
標準的には「悲しい」を使い、「哀しい」は、かわいそうで哀れに思う気持ちを文章ににじませたいときに選ぶといいでしょう。しみじみとした情感を添えることができますよ。
参考:『類語例解辞典』(小学館)

「悲しい」・「哀しい」と「愛しい」の関係
日本語の古語では、「愛しい」を「かなしい」と読むことがありました。ここでは、その古語「かなしい」の意味と、現代の「いとしい」との違いに注目してみましょう。
古語の「愛しい(かなしい)」の意味
『万葉集』の用例では、「愛しい」を「かなしい」と読む場合があり、現代とは大きく異なる意味で使いました。
「いとかなしい」と詠む歌がありますが、この「かなしい」は、「心に染みていとしい」「心に染みておもしろい」「すばらしい」といった肯定的な感情を表します。
かつては「強く惹かれる」という気持ちを、「愛しい(かなしい)」という言葉で表現していたことがわかりますね。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
現代語「愛しい(いとしい)」との違いを整理
現代の「愛しい」は、一般的に「いとしい」と読みます。「かわいく思う」「恋しく慕わしい」「かわいそう」「ふびんだ」といった感情を表す言葉です。
「愛しい」を「かなしい」と読むのは古語の用法ですが、現代の文章の「悲しい」「哀しい」との混同を避けるためにも、明確に区別して使うことが大切ですね。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
「悲しい」「哀しい」と似た言葉との違い
「悲しい」・「哀しい」と似た感情を表す言葉に、「寂しい」と「辛い(つらい)」があります。ここでは、それぞれの意味の違いを確認しておきましょう。
「悲しい」と「寂しい」の違い
「寂しい」は「心が満たされず物足りない」「人がいなくて心細い」といった意味を持つ言葉です。また、場所が「ひっそりとしている」様子を表現することもあります。
誰かの不在や、何かが欠けていることから、心に空白感や孤独感があるときに「寂しい」を使います。一方で「悲しい」は、出来事や喪失によって胸が痛む感情を表しますよ。
例文
「出張続きで家が寂しい」
「訃報に触れて悲しい」
「悲しい」と「辛い」の違い
「辛い」は「からい」と読めば味覚の辛さを示しますが、「つらい」と読むと「精神的・肉体的に耐えがたい苦しさ」や「対処の難しさ」を意味します。
「悲しい」は出来事による心の痛みを指し、失望や喪失感に用いる言葉です。一方で「辛い(つらい)」は、病気やけがによる身体的な痛み、長時間の労働や困難な状況など、苦痛や困難そのものを強調するときに用います。
精神的にも肉体的にも「耐えがたい」と感じる状態を指すのが特徴です。
例文
「検査結果は悲しく、療養は辛い」

「悲しい」「哀しい」|実際の使い方を例文で確認
次は「悲しい」「哀しい」を会話や文章に当てはめてみましょう。
「楽しみにしていたライブが中止になって、本当に悲しい」
「悲しい」は、出来事による強い落ち込みをストレートに表すときに用います。
「雨の匂いで祖父を思い出し、哀しい気持ちになった」
「哀しい」は、郷愁やしみじみとした情感をにじませたいときに適しています。同じ「かなしい」でも、感傷や哀愁を帯びた印象を演出できます。
「悲しいお知らせです。残念ながら、不採択の結果となりました」
ビジネス文書や公的な通知では「悲しい」を用いるのがいいでしょう。

「悲しい」と「哀しい」に関するFAQ
ここでは、「悲しい」と「哀しい」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「寂しい」と「悲しい」の違いはありますか?
A. はい。
「寂しい」は孤独感や物足りなさを表し、「悲しい」は喪失や出来事による心の痛みを表します。使い分けに注意しましょう。
Q2. 「愛しい」と「悲しい」は関係がありますか?
A. はい。
古語では「愛しい」を「かなしい」と読みました。当時は「かわいらしい」「心惹かれる」といった意味も含まれていましたが、現代では「いとしい」と読み分けます。
Q3. 「哀しい」を使うのにNGな場面はありますか?
A. 公的な通知や仕事上の文書では、常用漢字である「悲しい」を使うことをおすすめします。
最後に
「悲しい」と「哀しい」は、どちらも「かなしい」と読みますが、使い方によって文章の印象は大きく変わります。
公的な文書やビジネスのやり取りでは、常用漢字である「悲しい」を選ぶのが安心です。一方で、詩や小説、エッセイなど、個人の心情や情緒を深く表現したいときには、「哀しい」も選択肢の1つになるでしょう。
「心の痛み」と「しみじみとした情感」の違いを意識し、場面に応じてふさわしい言葉を選ぶことで、あなたの表現力はさらに洗練されるのではないでしょうか。
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