「学び直し」とは?
「学ぶ」という行為は、知識を増やし、視野を広くします。自身の成長・成熟のためにも大切な行為ですね。そして、それ自体には終わりがありません。
さて、最近は社会人になっても、大学や専門学校などに入り直し、知識や技能を学び直すという人が増えているとか。一般的に「学び直し」と呼ばれるものですね。「リカレント教育」と称されることも。この記事では、学び直しについて解説します。
学び直しは、リカレント教育とも呼ばれます。リカレント教育とは、学校教育を終えて社会に出た後も、各人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと。
英語の「リカレント(recurrent)」には、「再発する、循環する」という意味があります。学んでは働き、働いては学ぶ… と学習と仕事が循環する様子から「リカレント教育」と呼ばれるわけですね。
日本では、休職せずに学び直すことも、リカレント教育に該当します。社会人になってから仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶことを指しますので、「社会人の学び直し」とも表現されることも。
リカレント教育が世間から注目されるようになった理由には、日本人の平均寿命の延びと技術革新の急速な進展が大きく関係していると言われています。
以前は、学校で勉強した後は就職し、定年で退職、そして定年後の生活をのんびりと送るというスタイルが一般的でした。
しかし、平均寿命が延びたことで、リタイヤ後の人生が長くなり「まだまだ元気だし、働こうか」と考える人が増加。また、IT技術を筆頭に急速な技術の進歩により、時代の流れに取り残され、仕事に支障が出るようになってきたのです。
以上のような背景が、学び直しが盛んになった要因と言われています。
私自身も学び直しを経験しています。もともと、大阪の小さなIT企業で働いていたものの、スキルアップのためにいったん会社を辞めて、IT系の専門学校でコンピュータ科学を学び直しました。その後、東京のIT企業に転職するという経歴を持っています。
厳密な意味においてはリカレント教育ではありませんが、専門分野からまったく違う分野で働くために、学び直す人たちには何回も出会いました。
大学で水産について学んでいたが、整体師になるために整体の専門学校に入り直した人。大学院で国文学を専攻していたが、薬剤師になるために薬学部に入学した人。鉄板焼き店の店長だったが、漁師に転身するために素潜り漁を学んだ人。
このように、まったく新しい分野で働くために学び直すという行為は、盛んにおこなわれています。
余談ですが、リカレント教育は生涯教育とは異なることを認識しておきましょう。リカレント教育では、仕事のための知識や技術を学ぶことを目的とします。
学習内容としては、「語学」「プログラミング」「簿記」などが多いです。一方、生涯教育では「一生を通じて行う学習」ということで、学校教育や社会教育、ボランティア活動などが挙げられます。必ずしも仕事と関係があるわけでないのが特徴です。
学び直しには、どのような支援制度がある?
学び直し自体は自分自身だけでもできますが、「効率的に学びたい」「体系的に学びたい」と希望する人もいることでしょう。そうなると、学校に入り直したりするわけですが、「お金に余裕がない…」と途方に暮れる人も少なくありません。
そんな時は、支援制度の支援金・補助金を利用するのもおすすめです。国による支援制度があるので、いくつか見ていきましょう。
1:教育訓練給付金
主体的な能力開発の学習や中長期的なキャリアアップを支援し、雇用の安定と再就職を促進するための給付金です。対象講座を修了すれば、自ら負担した受講費用の20%から70%の支給が受けられます。
2:高等職業訓練促進給付金
この給付金は、母子家庭・父子家庭の親の経済的な自立を支援するため、地方自治体と連携して就業を支援。看護師等の国家資格やデジタル分野等の民間資格の取得のために修学する場合に、月10万円程度の支給を受けることが可能です。居住地の都道府県や市区町村で、相談してもらえます。
3:キャリアコンサルティング
在職中の人を対象に、今後のキャリアなどについて、キャリア形成サポートセンターでキャリアコンサルタントに無料相談を受け付けています。また、オンライン面談にも対応している点もポイントです。
4:公的職業訓練
希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを、無料で習得することができます。雇用保険の対象でなくても、一定の条件下で月額10万円の支給を受けながら訓練を受けることが可能です。新型コロナウイルスの影響で、休業やシフト減となった人も、働きながら訓練を受けることができます。
5:就職・転職支援の大学リカレント教育推進事業
非正規雇用や失業中の人を主な対象に、「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」という事業が実施されています。40大学63プログラムが採択されていて、分野はデジタル、医療・介護、地方創生など多様。受講料は、一部テキスト代などを除いて、基本的に無料とのことです。
学び直しが普及することについて
学び直しを経て、これまではまったく違う業種・職種で働くことになった際、前職ではいくらベテランであっても、そこでは「新人」と見なされます。新人ですので、基本的にすぐに仕事で活躍できるとは限りません。
例えばプログラミングの場合、学習時はせいぜい数百行程度のコードですが、実際のプロジェクトではコードは何万行という規模にまで膨れ上がります。学習と実際の業務とのレベルの差に、面食らう人もいることでしょう。
学び直しを促進するにあたって、意外に重要と思われるのが「人を対等に扱う」ということではないかと思われます。
ある仕事ではベテランでも、新しい分野で学び直せば新人です。若ければまだしも、ある程度の年齢を重ねると、新人として扱われることに戸惑いを感じる人もいるかもしれません。それが不安で、学び直しを躊躇する人がいないとも言い切れないでしょう。
そこで、そのような懸念を払しょくするためにも、社会全体で「新人であっても、人として対等に扱う」ということが大事になるのではないでしょうか。転職先でも不当に扱われるようなことがなければ、安心して新しいことに挑戦できますよね。
時代の変化はとても早いものです。自分の仕事も10年、20年の単位で見ればなくなっているかもしれません。ベテランとして働いている今の仕事がなくなれば、新しい仕事で新人として働くことになります。そうなった時、新人だからと不当に扱われるような社会では不安に感じるのではないでしょうか? 新人だからと「見下す」ことをしてきたのが、「ブーメラン」として自分に返ってこないとは言い切れないのです。
最後に
以上、学び直しについて見てきました。リカレント教育に関わらず、これまでの専門分野から全く新しい分野に挑戦する人は少なくありません。自分がいつ学び直しを経験し、新しい仕事で新人となるかはわからないもの。仕事などで「新人だから」と「見下す」などのことは、普段からしないように気を付けましょう。「ブーメラン」として自分に返ってくるかもしれません。
そもそも仕事とは関係なく、「学ぶ」という行為は大切です。学習を続けることで、知識が増え、視野が広がり、人間として成長するもの。「学ぶ」ということを続けていきたいものですね。
TOP画像/(c)Shutterstock.com