「肝いりの案件だ」というように使われる「肝いり」という言葉。聞いたことはあるけれど、正しい意味を説明できないという方も多いのでは? ビジネスの場面でも使われることがある表現なので、この機会に意味や使い方を覚えておきましょう。
「肝いり」ってどんな意味?
「肝いり」の読み方は、「きもいり」です。辞書によると「肝いり」には、大きく分けて4つの意味があるとされています。
【肝煎り/肝入り(きもいり)】
(1)双方の間を取りもって心を砕き世話を焼くこと。また、その人。「新聞社の―で30年ぶりの対面がかなう」
(2)江戸幕府の職名。同職中の支配役・世話役。高家肝煎・寄合肝煎など。
(3)江戸時代、村役人をいう。庄屋(しょうや)・名主(なぬし)など。
(4)奉公人・遊女などを周旋すること。また、それを業とする人。「―は道々うそを言ひ含め」〈川柳評万句合〉
<「小学館 デジタル大辞泉」より>
現在では、(1)の「双方の間に立って、物事を取り持ったり、配慮しながら世話を焼いたりすること」という意味として使われています。「社長の肝いり」というように、力のある人をサポートする人として使われることも多いです。
(2)と(3)は、江戸時代や江戸幕府の役職名。「寄合肝煎(よりあいきもいり)」「庄屋(しょうや)」「名主(なぬし)」など、人をまとめる役割を持つ人のことを指します。(4)は、江戸時代に奉公人や遊女の仲立ちをしていた人のことを指しますが、今では馴染みがありません。
使い方を例文でチェック!
肝いりという言葉は、主にビジネスの場面でしばしば使われます。会社の上司や目上の人との会話の中で登場することもあり得るので、しっかりと押さえておきましょう。
そのビッグプロジェクトは部長肝いりの案件なので、誰も反対できない。
社長や部長など、地位や肩書きがある人が考えた案件や企画のことを表します。「社長肝いりの」「肝いりの企画」などは、代表的な使い方です。
叔父さんの肝いりで父と母は冷静に話し合いができた。
両者の間に立ち、心を砕く行為を指す言葉として「肝いり」を使用した例です。不仲である2人の間を取り持つことで、お互いが納得する話し合いができたことを表しています。
新聞社の肝いりで、長年不仲だった芸能人同士の対談が実現した。
両者の間を仲介した人や組織に対して、「肝いり」を使っています。難しい企画を実現させるために、両者の間をうまく取り持ち、心を砕いた様子が伝わってきます。
「肝入り」と「肝煎り」という表記も
「肝いり」を辞書で調べると「肝入り」と「肝煎り」という、二つの漢字表記が出てきます。
「肝いり」は、本来「肝煎り」と表記します。まずは「肝」と「煎る」の漢字についてみていきましょう。「肝」は、人の肝臓のことを指します。びっくりしたことを「肝を冷やす」というように、「心」を表す言葉でもあります。「煎る」は、「水気がなくなるまで煮詰める。あぶりこがす」という意味から、心をこがす、思い悩むという意味も含みます。
以上のことから、「肝煎り」という表現は、肝(心)をこがすほど大変な思いで、一生懸命人の世話をするという意味となるのです。このことから、「肝煎り」の表記が本来正しいとされています。
しかし、現代の辞書には、「肝入り」と「肝煎り」両方の表記が記載されています。これは、「肝煎り」のことを間違えて「肝入り」と表記して使う人が多いことにより、「肝入り」も掲載されるようになったようです。
類語や言い換え表現は?
「肝入り」のように双方の間に立って働くことを表す言葉はいくつかあります。ここでは「仲立ち」と「口添え」「まとめ役」「世話人」の意味をみていきましょう。
仲立ち
「仲立ち」とは、「双方の間に立って、事をとりもつこと」。両者の関係を結ばせたり、良好な関係になるように行動することを表します。特に男女の仲を取り持ち、世話をする時に使われることが多いようです。
・知人の仲立ちでお見合いをした。
・両者の和解のために仲立ちをすることになった。
口添え
「口添え(くちぞえ)」とは、「傍らから言葉を添えて、とりなすこと」。お互いの交渉がうまくいくように、わきから言葉をかけて働きかけることを言います。大抵は、相手をよく知る仲の人や、知識が豊富な人が選ばれることが多いです。
・私たちが事業に成功したのはあなたの口添えがあったからです。
・知人のために口添えした。
まとめ役
「まとめ役」は、「物事をまとめる役目をおう人」のこと。チームや組織を一つにまとめて、団結力を強める役割をする人やリーダー的な存在である人が当てはまります。複数の人が同じ目標に向かって行動するためには、まとめ役の存在が欠かせません。
・リーダーシップのある彼女は、楽団のまとめ役に選ばれた。
・彼がまとめ役を買って出てくれたおかげで、チームの団結力が強まった。
世話人
「世話人」とは、「団体や会合などの中心となって組織・運営にたずさわり、事務上の処理をする人」。特に商取引や縁談などの仲介をする人のことを言います。「世話役」や「世話焼き」と表現することもあります。中でも「世話焼き」は、他人のために進んで世話を焼く人や必要以上に面倒を見たがる人に対して使われます。
・長年この業界に携わってきた課長ほど、世話人にふさわしい人物はいない。
・叔母さんは若い人をみると放って置けない世話焼きで有名だ。
意味や類語を知って場面に合わせて使ってみて
今回は、「肝いり」の意味や使い方、類語などをみていきました。改めて意味を確認してみると、今までイメージしていた意味と違っていた、という方もいらっしゃるかもしれません。両者の間に立って、一生懸命働きかけている人に対して、良い意味を込めて使いたいものです。正しい日本語の使い方を理解して、自信を持って使いましょう。
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