早期退職という言葉を、どこかで聞いたことはありますか? 「20年務めた会社を早期退職し、起業した」というようなお話を、メディアなどで耳にしたことがあるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
では、早期退職とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか? この記事では、早期退職優遇制度の概要をはじめ、早期退職した場合の退職金と、その税金上の扱いを解説します。ご自身のキャリアプランの参考にしてみてくださいね。
早期退職とは?
早期退職とは、どのようなことを指す言葉なのでしょうか?
早期退職は、簡単に言うと会社を定年前に退職することです。一般的に会社で言われる早期退職の場合、「早期退職優遇制度」や、「選択定年制」を指していることが多いと言えるでしょう。
では、この早期退職優遇制度や選択定年制とは、どのようなものなのでしょうか?ここからは、早期退職優遇制度と選択定年制の概要を解説します。退職や定年は、その後の人生全体にも大きく関わりますので、おさえておきたいテーマですね。
1:早期退職優遇制度
早期退職優遇制度とは、定年前に退職する社員に対し、退職金上乗せなどの優遇をする制度のこと。一定の年齢や勤続年数、職位などの要件に該当した社員が、自ら応募して退職するというのが、よくあるケースのようです。
例えば、「勤続20年以上で、50歳以上の係長以上の社員が対象」などのイメージですね。通常は、勤続年数が一定以上ある社員が対象となりますので、入社間もない社員が、自己都合で退職する場合とは、別に考えた方がいいでしょう。
もちろん会社によって要件は異なりますので、これは、あくまで一例として捉えてくださいね。
早期退職優遇制度は、組織の活性化や、人員構成、人件費の調整という目的で行われることが多いようです。ちなみに、よく似た制度に「希望退職制度」がありますが、違いは何なのでしょうか?
希望退職制度は、経営上の理由などから、人員を整理する必要がある時に、期間限定で退職者を募る制度のこと。退職金の上乗せなどの優遇がなされる点では、早期退職優遇制度と似ています。
しかし、早期退職優遇制度が常設の制度であるのに対し、希望退職制度は、期間限定の措置となることが一般的です。この点に違いがあると言えるでしょう。
2:選択定年制度
選択定年制度は、定年退職する年齢を、労働者が自分で選択できる制度です。定年と言えば、全員一律の年齢で退職するイメージがあるのではないでしょうか? しかし、法律上定年の年齢は、60歳以上であれば全員一律である必要はありません。
この選択定年制度を活用することで、個人のキャリアプランや、人生設計に合わせた柔軟な定年制度にすることができます。例えば、定年の年齢を60歳、65歳の2パターンから選べるなどのケースも。企業によってどのような選択肢があるかは異なります。
ただし、高年齢者雇用安定法では、65歳未満の定年を定める場合、会社は以下のいずれかをしなければなりません。
・65歳まで定年年齢を引き上げる
・定年制を廃止する
・65歳までの継続雇用ができるようにする
つまり、選択定年制で60歳定年をした後に、定年再雇用で働ける道を用意する、というイメージです。もちろん、再雇用の道を選ぶかは本人の選択ですが、会社側は少なくとも、65歳まで働ける環境を整備する必要があると言えるでしょう。
なお、前述の早期退職優遇制度は、会社が定める一定の要件に該当した人が、退職を申し出るという制度でした。ですので、50歳で退職するということもあり得るでしょう。
これを企業によっては、「選択定年」という言い方をしているケースもあるようです。しかし、あくまで法律上の定年とは異なるものですので、留意しておきたいですね。
早期退職の退職金相場は?
早期退職優遇制度で退職をした場合、退職金が上乗せになることが一般的です。どの程度上乗せになるかも気になるところですよね。平成30年の就労条件総合調査のデータによれば、早期退職優遇制度の退職金相場は、以下のような額になっています。
1:大卒・大学院卒の場合
勤続20~24年:平均1,402万円
勤続25~29年:平均1,995万円
勤続30~34年:平均2,522万円
勤続35年以上:平均2,530万円
全体平均:2,326万円
2:高校卒の場合
勤続20~24年:平均947万円
勤続25~29年:平均1,522万円
勤続30~34年:平均1,897万円
勤続35年以上:平均2,521万円
全体平均:2,094万円
なお、同じ平成30年の就労条件総合調査での、定年退職者の退職金の相場は、以下の通りです。比較のためにこちらも見ていきましょう。
・大学・大学院卒:1,983万円
・高校卒:1,618万円
※このデータは、管理・事務・技術職の場合です。あくまで平均額ですので、企業規模や職種によって前後することが予想されます。また、退職金には、一時金型と年金型がありますので、制度によって支給状況は異なることがあることもご留意ください。。
退職金相場は、勤続年数によりますが特に勤続30年以上の場合は、定年退職の場合より退職金が多くなる傾向があると言えるでしょう。
また、会社によっては退職後の再就職の支援や、起業の援助まで行うケースも。こういったメリットを活用して、今までやってみたかったことにチャレンジする人もいるようです。
退職金の税金はどうなる?
退職金に対する税金はどうなるのでしょうか? 国税庁による解説も見ていきましょう。
国税庁の「暮らしの税情報 令和4年度版」によれば、退職金にかかる税金は給与所得にかかる税金より、負担が軽くなるような制度になっています。
特に、退職金そのものに税率がかかるわけではなく、一定の控除を受けられることもポイント。もちろん、勤続年数や退職金の金額によって細かく異なるためご注意ください。
なお、勤務先に所定の手続きをすることで、確定申告が不要になるというケースもあるようです。ただし、医療費控除等がある場合は、必要になることもあるので、気を付けたいポイントですね。
色々なケースが想定されますので、近いうちに退職金を受け取るという方は、一度会社や税務署などに問い合わせてみるのが安心でしょう。
最後に
この記事では、早期退職優遇制度と選択定年制の概要、早期退職した場合の退職金の相場や、退職金の税金上の扱いなどを解説しました。キャリアの選択肢や働き方が、どんどん多様になっていくと言われる現代。今後のキャリアプランのためにも、おさえておくと安心の制度ですね。
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開業社会保険労務士 塚原美彩(つかはら・みさ)さん
2016年社会保険労務士資格を取得。趣味は日本酒酒蔵巡り。現在は独立開業し、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。
ライター所属:京都メディアライン