「していただく」とは?
ビジネスシーンでよく耳にする「していただく」という敬語表現ですが、正しく使えていますか? 最初に「していただく」の意味や、よく使われがちな誤用表現を紹介しましょう。
意味
「していただく」とは、「してもらう」の謙譲語です。そもそも謙譲語とは、自分をへりくだることで相手への敬意をあらわすもの。例えば、「調整していただく」という表現は、調整してもらう側である自分を下に置くことで、調整する側のことを立てています。
「していただく」は、相手に何かをして欲しいときに使われることが多い言葉です。角が立たないよう、やんわりと何かをお願いしたいときに「〜していただけますか」という表現がよく使われます。
「して頂く」は間違い
「していただく」を漢字で表記した「して頂く」という表現も見られますが、これは誤用です。そもそも「頂く」とは、「食べる」「飲む」「もらう」を意味する謙譲表現。例えば、「お菓子を頂く」「飲み物を頂く」などと使います。
一方、ひらがなの「いただく」は、別の動詞を補う役割を持つ補助動詞です。補助動詞は、ふつうひらがなで表記します。そのため、何かをしてもらうときに、「して頂く」とするのは誤り。このように、漢字とひらがなではまったく意味が異なるので、間違って使わないように注意しましょう。
「していただく」と「してくださる」「させていただく」の違いとは?
敬語には似たような表現がいくつかあるため、「どのような違いがあるのかわからない」という方も多いでしょう。ここでは、「していただく」と「してくださる」「させていただく」の違いについてそれぞれ解説します。
してくださる
「してくださる」とは、「してくれる」の尊敬語です。「していただく」は、自分をへりくだった表現の謙譲語ですが、「してくださる」は、相手を高めて表現する尊敬語なので、この点が違いといえるでしょう。また、「してくださる」「していただく」も、両方とも相手が何かしらの行動をする場合に使われますが、相手が主体的に行動しているのかどうかといった点が使い分けのポイント。
例えば、「指導してくださる」といった場合には、こちらからお願いをしなくても、相手が自主的に指導をしてくれるというニュアンスになります。「指導していただく」といった場合には、こちらからお願いして指導をしてもらうというニュアンスに。とはいえ、ほとんど同じ意味合いの言葉ですので、使い分けに迷ったら、どちらを使っても構いません。
させていただく
「させていただく」とは、「させてもらう」の謙譲語です。「していただく」は、相手に何かをしてもらうことで、「させていただく」は、自分が何かをすることなので、意味が逆ですね。なお、すでに説明したように、こちらも「させて頂く」と漢字で書くのは間違いなので注意しましょう。
ちなみに、「させていただく」は、ビジネスシーンでよく使われている表現ですが、使い方がやや難しい敬語。その理由として、「させていただく」は、「相手や第三者の許可を得るとき」「それにより自分が恩恵を受けるとき」に使う表現だからです。
例えば、「トラブルの対応をしなければいけなくなったため、会議の時間を変更させていただきます」という表現。これは、相手の許可が必要、かつ自分が恩恵を受けるのでOKな表現です。しかし「大学を卒業させていただきます」という表現は、卒業の許可を得る必要がないため、NG表現といえます。
使い方を例文でチェック!
「していただく」を使った定番のフレーズをピックアップして、それぞれの意味を解説します。
1:入社当日は、研修に参加していただくことになります。
「していただくことになります」は、「してもらうことになります」という意味。すでに相手の行動を決めてしまっている状態なので、命令のニュアンスを含んだ表現といえるでしょう。そのため、すこし強引な印象を与えるかもしれません。しかし間違った使い方ではないので、相手のするべき行動がすでに決まっている状態で、相手への敬意をあらわしたいときに使ってみましょう。
2:打ち合わせの時間を調整していただくことは可能でしょうか。
「していただくことは可能でしょうか」はビジネスシーンでよく使われる表現です。その行動をすることができるかを相手に聞いていますが、実際には依頼の意味合いを含みます。「していただくことは可能でしょうか」は、「〜をお願いできますでしょうか」「〜していただけないでしょうか」などと言い換えることも可能です。
3:お忙しいところとは存じますが、サポートしていただきますようお願いいたします。
「していただきますようお願いいたします」も、依頼の意味合いを含む表現です。「していただく」に、婉曲表現の「よう」や、謙譲語の「いたす」、丁寧語「ます」を組み合わせています。より丁寧な依頼表現といえるでしょう。
類語や言い換え表現とは?
「していただく」の言い換え表現には、「賜(たまわ)る」があります。「賜る」は謙譲語としても尊敬語としても使え、謙譲語の場合は「もらう」、尊敬語の場合は「与える」という意味に。そのため、謙譲語「もらう」が、「していただく」の言い換え表現として使えます。
「賜る」は主に、目上の人から品物や厚意などをもらったときに使う言葉です。例えば、「社長よりご指導を賜りました」「日頃よりご愛顧を賜り、誠にありがとうございます」などと使います。
英語表現とは?
ここでは、「していただくことは可能でしょうか」や「していただけますか」など、「していただく」を使った依頼文の英語表現を紹介します。
1:Would it be possible to〜?
「Would it be possible to〜?」は「〜していただくことは可能でしょうか」という意味の英語表現です。「will」の過去形である「would」を使うことで、丁寧さを表すことができます。
例文:Would it be possible for you to bring that?(それを持ってきていただくことは可能でしょうか?)
2:Would you mind~ing?
「mind〜ing」は、「〜するのを嫌だと思う」という意味です。「Would you mind~ing?」を直訳すると、「〜するのを嫌だと思われますか」という意味に。これが転じて、「していただけますか」という依頼の意味で使われるフレーズです。
例文:Would you mind helping me to make this proposal?(提案書の作成を助けていただけますか?)
3:I was wondering if〜
「I was wondering if〜」は、直訳すると「〜してくれたらと思っているのですが」という意味。遠回し、かつ控えめに、「〜していただけませんか」と相手に依頼をするときに使える表現です。
例文:I was wondering if you could replace the old computer with a new one.(古いパソコンを新しいものと取り換えていただけませんか?)
最後に
よく使われる敬語表現「していただく」ですが、「して頂く」と漢字で表記をしてしまっていたという方も多かったのではないでしょうか。これを機会に、「していただく」の正しい使い方を覚えて、ビジネスシーンでも自信を持って使えるようになりましょう。
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