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「いたします」と「致します」の違いとは?

「いたします」と「致します」。口語では音が同じなので、書き表す時もどちらでもいいのかと思われがちな言葉です。しかし、実はそれぞれ使われ方が異なります。ビジネスにおいても頻繁に用いられる言葉ですので、正しい使い方を一緒に確認しましょう!
「いたします」
まず、「いたします」から見ていきます。「いたします」は日本語の文法的に「補助動詞」に分類される言葉です。
「いたします」を、それぞれ「いたす」と「ます」に分解して考えてみましょう。「いたす」は「する」の謙譲語、「ます」は丁寧語に分類されます。謙譲語とは、自分がへりくだることで相手の敬意を高めることのできる言葉です。
したがって、ビジネスシーンにおいては、目上の人や取引先の相手に使います。
「致します」
続いて「致します」について確認していきましょう。「いたします」は、謙譲語の「いたす」と「ます」を複合させた補助動詞ですが、「致します」は「致す」という通常の動詞です。「致す」は、動詞「する」の丁寧表現という意味と、「あるところまで到達させる・至らせる」という意味があります。
「いたします」と「致します」の使い分け
公的な文章は、「いたします」などの補助動詞を基本的にひらがなで表記するように定められています。具体的な使い方に関しては、以下で一緒に確認していきましょう。
「致します」の間違った使い方

ビジネスシーンなどで丁寧な書き方を意識しようとすると、できるだけ漢字に変換したくなりますよね。そのため、本来であれば補助動詞の「いたします」がふさわしい場面で「致します」としてしまう人が多いです。間違いやすい例を紹介します。
1:「社会人として、まだまだ至らないところがありますがどうぞよろしくお願い致します」
相手に何かを頼む際や決まり文句として「よろしくお願いいたします」という表現はよく使われます。だからこそ、正しい使い方を意識しなければなりません。
ずばり、「よろしくお願い致します」という表記の仕方は間違っています。なぜなら、先ほど確認したように「致します」という言葉は「致す」の動詞であり、この文脈では先ほど確認した「致す」の意味に合っていないからです。正しくは、「よろしくお願いいたします」です。
2:「こちらの新規登録には別途費用が発生致します」
なぜこの文脈で「致します」が使えないか分かりますか? それは「致す」の意味を思い出すことができれば分かります。「致す」は自分から行動をする際の丁寧表現です。したがって、今回の場合に当てはまらないため、正しくは「別途費用が発生いたします」となります。すこし厄介ですが、文脈と照らし合わせて考えてみましょう。
3:「こちらの不手際で大変なご迷惑をお掛け致します」
「致します」は自分の行動に使う謙譲語です。したがって、今回の例文のように「迷惑をかける相手」には使いませんので注意しなければなりません。正しくは、「こちらの不手際で大変なご迷惑をお掛けいたします」です。
「致します」の正しい使い方
では、反対に正しい使い方の例文を紹介します。
1:「会議に必要な資料の制作や準備は、こちらが致します」
「致します」の主語がこちら側になっているため、漢字の「致します」を使うことができます。「致します」はこちら側の行動を表す際に使う言葉です。
2:「このプロジェクトの失敗は、私の不徳の致すところです」
「不徳の致すところ」という慣用表現があります。「不徳」とは、「徳が備わっていないことやそのさま」を意味する言葉です。つまり、「不徳の致すところ」は「何かに失敗した際に、その失敗は自分の不徳が引き起こしたことだ」という意味として使われます。
一つ目の例文と同様に、主語は自分自身ですので通常の動詞である「致します」を使うことが可能です。
3:「大変申し訳ございませんが、そのようには致しかねます」
相手の要求を断る場合は「致しかねます」と表現することができます。「自分が達成することができない・難しい」ということを表現したいため、「致す」という動詞を使って表しましょう。
「いたします」の正しい使い方

「いたします」の正しい使い方も紹介します。
1:「お心遣い、心より感謝いたします」
「感謝いたします」は、相手へお礼の気持ちを伝える際によく使われる表現です。目上の方や、取引先相手の方にも使うことができます。「いたします」の「いたす」が謙譲語なので、前や後ろに他の謙譲語をつけないように注意しましょう。
2:「替えの商品をすぐにご用意いたします」
「致す」は「到達する・至らせる」という意味を持つため、この文脈に当てはまりません。ですので「する」の謙譲語である「いたす」と丁寧語の「ます」を使います。
3:「恐縮ではございますが、メールにて失礼いたします」
対話では「致します」も「いたします」も同じように発音します。ところが、文面では使い分ける必要がありますよね。この例文でも「失礼いたします」という言葉の中に「到達する・至らせる」といった意味合いは含まれないので、この場合は「いたします」を使用しましょう。
「いたします」と「致します」の注意点

最後に「いたします」と「致します」を使う際の注意点についておさらいします。
くどくならないように気を付ける
「いたします」や「致します」がメールや文章の中で多用されると、くどい印象を与えます。ですので、使う頻度やバランスを考えて文章を組み立てるように日頃から意識するようにしましょう。
二重敬語
これは「いたします」に関する注意点になります。繰り返しになりますが、「いたします」は謙譲語「いたす」と丁寧語「ます」を組み合わせた補助動詞です。したがって、一つの文章の中で「いたす」以外に謙譲語を使うことはできません。二重敬語には気をつけましょう。
「いかがいたしますか」は間違い
「いたします」も「致します」も動作は自分です。自分の行動を相手に問う場合は「いかがいたしますか」で間違いありませんが、相手の行動への質問であれば、間違いです。正しくは、「いかがなさいますか」になりますので、間違えないようにしましょう。
最後に
「いたします」と「致します」の違いは分かりにくく、初めは戸惑うかもしれません。使い分けで悩んだ際は、一度自分で調べてみてから使う方が安心です。よく使う表現だからこそ、正しい知識で活用できるようになりましょう!
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