今さら聞けない!「僭越ながら」ってどういう意味…
ビジネスシーンで「僭越ながら」って言い回しを、使ったことはありますか? 何とも堅苦しい感じの言葉ですが、意外と使う機会が多い、この言葉。その意味はご存知でしょうか? 意味は知らないけど、定型句だから使ったことがあるという人もいるかもしれません。
「僭越ながら」は、公の場、改まった場所で使う言葉です。「意味も知らずに使ってる…」とか「使い方、間違ってる…」などと、思われ恥ずかしい思いをする可能性だってあります。
普段の会話で、頻繁に使うような言葉ではありませんが、使い慣れない言葉だけに意味や使い方を理解し、身に付けておく方が良いですね。
まずは辞書上の「僭越ながら」の意味を確認
「僭」は、音読みで「セン」と読みます。漢字の意味は、「身分不相応なことをする」「目上の人を軽んじてふるまう」「誇張した表現をする」等の意味があります。
「越」は、音読みで「エツ」と読み、「物事の範囲・程度をこえる」「順序をふまないで進む」、「とびこえる」を意味します。
2つの漢字を組み合わせた「僭越」には、「自分の身分や地位を越えて、出過ぎた事をすること」または、「そういう失礼な態度や行動」を意味する言葉になります。
「僭越ながら」と表現すると、「身の程をわきまえず、失礼ながら」「身の程をわきまえず、失礼ではありますが…」「失礼を承知の上で、出過ぎたことをいたしますが…」という謙遜した意味になります。
「僭越ながら」を使った例文4選
「僭越ながら」という表現は、公の式典などの祝辞、パーティーの乾杯のスピーチなどでは、冒頭の決まり台詞のように使われます。では、どの様な場合に、どの様な使い方ができるのかを具体的にご紹介しましょう。
◆「誠に僭越ながら、ご進言申し上げます」
こうした表現は、主に年齢が上の方や、ポジションが上の人に意見を述べたり、是正をお願いしたりする際に用いる例です。
「私のような若輩者が出過ぎた真似をして申し訳ありませんが、意見を申し上げます」という意味になります。謙虚さを示しながら、意見を言いたい場合に利用する事ができます。
◆「僭越ながら、ご辞退させていただきたく存じます」
取引先のパーティーやレセプションなどへのインビテーション(招待)を受け取ったが、あいにく都合が悪く、参加できない場合にメールでお断りする時の使用例です。
「出席したいのは山々なれど、“どうしても出席ができない”」という事情や心情を伝えたい場合などに使う事ができます。
◆「今後、同じような事態が起こらないよう、僭越ながら是正をお願いする次第です」
取引先との間でトラブルが発生して、会社として是正を依頼する場合、手紙などで申し入れをします。しかしながら、取引先に「高圧的」とか「高飛車」などと受け取られ、今後の取引に影響が出ないようにする必要もあるでしょう。そうした場合には、謙虚な姿勢で是正や反省を促す必要があり、こうした表現を使います。
◆「僭越ながら、ご指名により乾杯の挨拶をさせていただきます」
出席したパーティーやレセプションなどで、急に乾杯の音頭を頼まれることもあるでしょう。上司に代わって乾杯の音頭をとることになるかもしれません。覚えておいて、損はないでしょう。
「僭越ながら、ご指名により乾杯の挨拶をさせていただきます」の後、簡単に祝辞を述べて「ご唱和をお願いいたします。乾杯」といたします。あるいは、「ご指名がございましたので、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます。ご唱和をお願いいたします。乾杯」と簡単に済ませることもできます。
こうした場合のスピーチの意図としては、「数多くの来賓や出席者がいるにも関わらず、出過ぎたことをいたします」「指名されたのでやむなく音頭をとらせていただきます」という意味合いが含まれた表現になります。
「僭越ながら」の誤った使い方は?
「来賓や参加者のだれよりも先に、スピーチをする」こと、あるいは「順序を越えて挨拶をする」ことを「僭越」と解釈していると、誤った使い方をすることになります。
具体的な例として「僭越ながら、お先に失礼します」とか「僭越ですが、お先に戴きます」「僭越ですが、お先に使わせていただきます」などのような表現は誤りです。
また、祝賀会などの場において主賓的立場である人、列席者の中でも上位的立場の人が、スピーチにおいて「僭越ながら」を使うのも、誤った使い方になります。
「僭越ながら」という表現は、あくまでご自身の立場・身分に照らし合わせて使用する表現ですから、社会的な地位のある方、組織の中にあって上位的立場の方が使うと、妙にへりくだった言い回しになってしまいます。かえって嫌味にならないように気を付けましょう。
「僭越ながら」の類義語は
あなたの年齢や立場、あるいは状況によっては「僭越ながら」を使わない方がいい場合もあります。そうした場合に、「僭越ながら」に置き換えて使うことのできる言葉を紹介します。
◆及ばずながら
「及(およ)ばずながら、お力添えいたします」といった使い方をいたします。時代劇では、仇討ちのシーンなどで「及ばずながら、拙者が助太刀いたそう」などという台詞に登場します。
「及ぶ」には、匹敵する、達する、普及するという意味があり、「及ばずながら」と表現すると、「力不足ではありますが…」とか「期待には応えられないかもしれませんが…」という意味になります。謙遜の意を含め、援助を申し出るときの表現としても使えます。
◆微力ながら
「微力ながら、ご支援申し上げます」などの使い方をいたします。「微力(びりょく)」とは、自分の能力についてへりくだって表現する言葉です。「力が弱いこと」「能力が低いこと」を表す言葉になります。
「微力ながら」と表現する場合、自分の能力・力量についての謙譲語として使い、「僅かばかりの力ですが」「十分なお力にはなりませんが…」といった謙虚な気持ちを伝えたい時に便利な表現です。
この「微力ながら」は、定型句としてビジネスにおいても頻繁に用いられます。若い方にとっては、「僭越ながら」よりも年齢にふさわしく、使いやすい言葉かもしれませんね。
◆憚りながら(はばかりながら)
「憚りながら、私もメンバーの1人です。自分に出来る事をやります」などの使い方をいたします。読み方が、少し難しいですが「はばかりながら」と読みます。この表現も時代劇では、お馴染みの台詞で「憚る」には「遠慮する」「気を遣って控える」「敬遠する」といった意味があります。
「憚りながら」は、「出過ぎたことですが・生意気な言い分かもしれませんが」という意味で、目上の相手に対して意見を述べる時などの表現として使えます。
◆出過ぎた真似を/出過ぎたことを
「出過ぎた真似をいたしました。お許しください」「出過ぎたことを申しますが、どうかお聞きください」などの使い方をします。
「出過ぎた」とは、自分の立場をわきまえない言動。つまり、「でしゃばり」「差し出がましい行い」といった意味があります。謙虚な言い方ではありますが、へりくだったニュアンスもありつつも、「お節介かもしれませんが…」という感じの言い回しの表現に。
また、使う場面によっては、少々嫌味な表現にもなりますので、十分に注意しましょう。
◆失礼を承知の上で
「失礼を承知の上で申しますが、その態度は改めるべきです」などの使い方をします。「失礼を承知の上で」は「失礼を承知の上で、出過ぎたことをいたしますが」「身の程をわきまえず、申し訳ありませんが」という意味になります。
この「失礼を承知の上で」に続いて述べる内容が、「相手にとって失礼に当たるだろうが、それでもなお言わなくてはいけない」といった感じの意味合いで使用する表現です。
目上の人に対して、注意をしたり、換言したり、是正を願いでる場合には、「失礼を承知の上で申しますが…」と、先ずは述べるのが、相手への気遣いとしてのマナーになります。
最後に
言葉には、それぞれTPO(ティーピーオー:time(時)、place(場所)、occasion(場合))があり、その事を意識し、きちんと考え、配慮しながら使い分ける必要があります。
また、ある程度の年齢になれば、年齢にふさわしい言葉づかいも求められます。ポジション(立場)によっても、使う言葉を十分に考え、選んで使わなければならない事もあるでしょう。
今回、取り上げた「僭越ながら」という言い回しも、TPOをわきまえ、自分の年齢やポジションを考慮して使わなければならない表現の1つです。あなたの「言葉のマナー」向上の一助にしていただけましたら幸いです。
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