「漁夫の利」の意味は?
「漁夫の利」という言葉、ご存知? 学校で習ったり、小説の中で見かけたり、時代劇のセリフで出てきたり…。でも「意味は?」って聞かれると即答できない、という人も多いのではないでしょうか。そんなモヤモヤを解消するべく、正しい意味や使い方を覚えて、日常の会話の中に取り入れていきましょう。
「漁夫の利」の意味は「両者が争っているのにつけ込んで、第三者が利益を横取りすることのたとえ」と言われています(デジタル大辞泉・小学館より)。
つまり、二者が争っているのに乗じて、第三者が利益を得ることです。
「漁夫の利」の由来は?
「漁夫の利」という言葉は、中国の戦国時代の史書『戦国策』燕策に出てくる故事に由来します。そこに出てくる詳しい話をご紹介しましょう。「学校で聞いたことがある!」と記憶がよみがえってくるはずですよ。
中国の戦国時代、趙(ちょう、BC403~BC228 戦国時代に存在した国。戦国七雄の一つ)が燕(えん、BC1100~BC222 周・春秋・戦国の時代に存在した国で現在の北京周辺の土地を支配していた)に攻め込もうとしていました。
それを聞きつけた燕の昭王は戦になっては困るので、趙の恵文王を思いとどまらせるため、遊説家の蘇代を趙に派遣しました。恵文王と対面した蘇代はこう語りかけました。
「今回こちらに来る途中、易水(河北省を流れる川、現在の中易水)を渡りました。ハマグリがぱっくりと殻を開けて、気持ちよさそうに日向ぼっこをしていたところ、シギが飛んできて、その身をついばみました。するとハマグリはシギの口ばしを挟みこんでそのままぴたりと口を閉じました。
シギは『今日も明日も雨が降らなければ、お前は干上がってしまうだろう』と言いました。一方のハマグリも負けずに『そちらもこのままなら何も食べることができずに、飢え死にしてしまうだろう』と言い返しました。両者は一歩も引かずに言い争っていると、そこをたまたま通りがかった漁師が、ハマグリとシギの両方をいとも簡単に捕まえていきました。
今、趙は燕を討とうとしています。しかし、趙と燕が争って民衆が疲弊すれば、このハマグリとシギのように強大な秦(しん、BC778~BC206 周・春秋・戦国の時代に存在した国。BC221に中国を統一)が“漁夫の利”を得るのではないでしょうか?」
この話を聞いた恵文王は、燕攻めを断念したということです。このエピソードが元になり、「漁夫の利」という故事成語が生まれました。
漁夫の利の正しい使い方は? 例文3選
それではこの「漁夫の利」という言葉を現代のビジネスシーンで使うには、どのように使ったらいいでしょうか?
「AさんとBさんが足の引っ張り合いをしている間に、Cさんが出世したのはまさしく“漁夫の利”だね」
国家間、企業間、そして個人の間でもお互いを牽制し合う争いは繰り広げられています。しかし、ライバル同士がデッドヒートを繰り広げている間に、いつの間にかダークホースが勝利や利益を手にしていることって、身近にもありませんか? こうした場合に「漁夫の利」を使います。
「A子とB子が憧れの先輩を巡って醜い争いをしているうちに、目立たなかったC子が漁夫の利を得て、先輩と付き合うことになった」
「漁夫の利」は第三者が利益を得るということから、「漁夫の利を得る」という言い回しをよく使います。他にも「冷静に状況をうかがっていれば、漁夫の利を得るチャンスはあるはずだ」などというように使えますね。
「後から何も知らずに現れたAさんが結局、漁夫の利を占めた」
2.よりもさらに利益を得たことを強調する際に、「漁夫の利を占める」と表現します。他にも「最終的に彼が漁夫の利を占めるなんて、予想もしていなかった」などというように使います。
漁夫の利の類義語は?
「濡れ手で粟(ぬれてであわ)」
濡れた手で粟をつかめば粟粒がたくさんついてくるように、苦労せずに多くの利益を得ることを意味します。労せず利益を得るところが「漁夫の利」と共通していますね。
「犬兎の争い(けんとのあらそい)」
第三者に利益を持っていかれることを意味します。「漁夫の利」と同じく『戦国策』に出てくる寓話が元になっています。犬が兎を追いかけて、お互いが力尽きて倒れたところを農夫が手に入れたという寓話に基づきます。
「棚からぼたもち」
思いがけない幸運を得ることを意味します。棚から落ちてきたぼたもちが、下で眠っている人の開いている口の中に入る様子を元にした言葉です。「棚ぼた」と略して使う方も多いのではないでしょうか。苦労せずに利益を得た「漁夫の利」と共通していますね。
漁夫の利の対義語は?
「二兎追うものは一兎をも得ず」
欲張って2つの物事を同時に得ようとすると、どちらも失敗したり、中途半端に終わるということを指します。二羽の兎を同時に捕まえようとするものは、結局どちらも捕まえられないというローマのことわざが由来です。
「虻蜂取らず(あぶはちとらず)」
二つのものを同時に取ろうとして、結局両方とも得られないことを指します。「二兎追うものは一兎をも得ず」と同じく、欲を出しすぎると失敗することのたとえです。
最後に
「漁夫の利」の正しい使い方や意味について、飲み込めたでしょうか? 由来を調べてみると、言葉に込められた奥深さに感嘆してしまいますね。欲は生きていく上での原動力でもあります。しかし、時には欲を一旦置いて、冷静に考えてみることで、後々の利益につながってくることもあるのかもしれません。
長く受け継がれてきた言葉には、そうした教えも含まれているんですね。
TOP画像/(c)Shutterstock.com