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「彼方此方」という言葉を、見たことはあっても、すぐに読める人は少ないかもしれませんね。ひらがなではよく見聞きしますが、漢字になると戸惑うものです。
この記事では、「彼方此方」の読み方や意味、似た言い回しなどを紹介していきます。知っておくと、文章でも会話でも表現に広がりが出ますよ。
読み間違いに注意!「彼方此方」の二つの意味も確認
「彼方此方」は、ひらがなで見聞きすることが多い言葉です。まずは漢字表記について解説します。そして、その意味も確認しましょう。
「彼方此方」の読み方と意味
「彼方此方」は「あちこち」、「あちらこちら」、「あっちこっち」、「あなたこなた」、「かなたこなた」と複数の読み方があり、いずれも同じ意味を表します。「あちこち」の意味については、辞書で次のように説明されています。
あち‐こち【▽彼▽方×此▽方】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[代]指示代名詞。いろいろの場所や方向をさす。あちらこちら。あっちこっち。「―から寄付が集まる」「―歩き回る」
[形動][文][ナリ]物事の順序や位置が逆になっているさま。あべこべ。「話が―になる」「靴下を―にはく」
「彼方此方」は、「あちらこちら」「いろいろな場所や方向」を表す言葉です。
一方で、順序や位置が逆になっている場合にも、「彼方此方」と表現することがあります。このときは「あべこべ」という意味になります。
つまり、「あちこち」と「あべこべ」、二つの意味を持つ言葉なのです。

使い方と例文で「彼方此方」を知る
「あちこち」も「あべこべ」も、日常的に使う表現です。例文とあわせて見直すと、二つの意味に対して、使い方が理解できますよ。3つの例文を見ていきましょう。
「彼方此方から声が上がった」
この例文では、「いろいろな方向から」「あちらこちらから」といった意味で「彼方此方」を使っています。例えば会場や広場などのあちこちで、人々が同時に声を発している場面を想像させます。
話し合いや抗議、応援など、集団からの発声を伝えるときに使える表現ですね。
「話の流れが彼方此方になってきた」
この文では、「話の流れが順不同になり、まとまりを欠いている状態」を示しています。話があちこちに飛んでしまい、聞き手にとって理解しにくい印象を与える例といえるでしょう。
このように、「彼方此方」には、「いろいろな場所」だけでなく、「順序が逆になっている状態」という二つの意味があります。どちらの意味なのかを判断するには、その前後の内容や話の流れに注目することが大切ですね。
「靴下を彼方此方に履いていた」
もうひとつ、物事の順序や位置が逆になっている意味の例文を確認しましょう。「靴下を彼方此方に履いていた」という文は、「左右逆に履いていた」「あべこべに履いていた」という意味です。

「彼方此方」と、「彼方(あちら)」、「此方(こちら)」|関連語を知る
「彼方此方」と似た表現を知っておくことで、意味をより正確に理解できるようになります。使い方の違いがわかると、日常の会話や書き言葉での行き違いを防ぐ手助けになりますよ。
「彼方(あちら)」と「此方(こちら)」との違い
「彼方此方」は、複数の方向を含む表現です。一方、「彼方」は話し手や聞き手から離れた方向や場所を指します。「此方」は、話し手に近い方向を指します。
また、「左右」や「上下」は、特定の対になる方向を指しますが、「彼方此方」はそうした二項対立にとどまらず、もっと広がりのある空間や動きを示すことが多いでしょう。
「あべこべ」との関係
「彼方此方」は、物事の順序や関係が逆になっている状態も表します。こうした意味では、「あべこべ」という言葉が近い意味になります。
実際に「あべこべ」という語は、「あちこち」の音の響きから生まれたとする説もあり、昔の言い回し「あちらべ、こちらべ」が縮まったという見方もあるようです。
このように、「彼方此方」と「あべこべ」は、意味だけでなく、響きの面でもつながりがある言葉だといえます。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)
現代作品とのつながり
「彼方此方」という言葉が気になったきっかけが、音楽や漫画のタイトルだったという人もいるかもしれませんね。とくに、ボカロの楽曲や創作作品の影響で、知った人もいるのではないでしょうか? ここでは、「彼方此方」を使っている、代表的なタイトルを紹介します。

『彼方此方』が描く心の動き
鏡音リンをボーカルにしたボカロ曲『彼方此方(あっちこっち)』(作詞・作曲・編曲:DATEKEN)では、感情が「あっちこっち」へと揺れ動く様子が描かれています。心の不安定さや戸惑いを表す表現として「彼方此方」を用いている点が印象的です。
『彼方此方で逢いましょう』に込められた意味
異世界を舞台にしたBL漫画『彼方此方(あちらこちら)で逢いましょう』は、文字通り「あちらこちら」という言葉の意味を物語に深く織り込んでいます。
この作品では、主人公が鏡を通じて「あちらの世界」と「こちらの世界」という異なる場所(彼方此方)を行き来します。やがて異世界の青年に出会い、次第に惹かれ合っていく中で、互いの悩みを共有し、秘密の恋を育んでいきます。
異世界を訪れるだけでなく、「あちらこちら」で心を通わせる二人の関係性が、このファンタジックな物語の核心となっています。
最後に
「彼方此方」は、漢字で見ると難しそうですが、実はとても身近な言葉です。「あちこち」という響きの中に、場所や方向、あるいは逆転の感覚まで含んでいます。ふだん何気なく使っている言葉に、奥深さがひそんでいるようですね。
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