日々の慌ただしさや変化の激しい働き方の中で、ふと「初心」を忘れてしまっていることはありませんか?
転職、副業、キャリアアップと、人生の節目で何度も選択を重ねる現代において、「初心」に立ち返ることは、自分の軸を見つめ直す大切なヒントになります。
この記事では、「初心」という言葉の意味や使い方はもちろん、働き方と初心の関係についても具体的に紹介していきます。
「初心」とは? 読み方と意味を確認
「初心」という言葉は、日常会話やビジネスシーンでもよく使われます。ですが、その意味を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。
あらためて言葉の意味を見つめることで、日々の選択や自分との向き合い方にもヒントが見えてくるはずです。
「初心」の基本的な意味
「初心」は、「うぶ」あるいは「しょしん」と読まれ、それぞれ異なる意味を持っています。以下で丁寧に見ていきましょう。
うぶ【▽初/初=心/産/▽生】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名・形動]
1 (初・初心)世間ずれがしていないこと。ういういしいこと。また、そのさま。「そのまま信じるほど―ではない」
2 (初・初心)まだ男女の情を解しないさま。「―な娘」
3 (産・生)
(ア)生まれたときのままであるさま。
「人間らしい崇高な生地を―の儘有(も)っているか解らないぜ」〈漱石・明暗〉
(イ)自然のままであること。また、つくられたままであること。
「品が―で、胡粉(ごふん)一つ剝げてないなんてものは」〈魯庵・社会百面相〉
(ウ)(名詞の上に付けて)生まれたときの。生まれたときのままの。「―声」「―毛」
「初心(うぶ)」とは、経験が少ないことに由来する純粋さや自然さが含まれています。
しょ‐しん【初心】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名・形動]
1 最初に思い立ったときの純真な気持ち。初志。「―を貫く」「―に返る」
2 物事の習い始めであること。また、そのさま。初学。
「はがきに二句か三句認めあるは…―なる人の必ずする事なり」〈子規・墨汁一滴〉
3 物事に慣れていないこと。世慣れていないこと。また、そのさま。うぶ。
「かれは自分の―なことを女に見破られまいとして」〈花袋・田舎教師〉
4 仏教で、初めて悟りを求める心を発すること。また、その人。
「初心(しょしん)」は、何かを始めたときの“気持ち”や“姿勢”を指します。特に「初心に返る」「初心を貫く」といった表現では、純粋でまっすぐな思いを保ち続けようとする姿勢が強調されます。
仏教的な文脈では、「悟りを求める最初の心」=出発点としての意味も込められていますよ。
この記事では「初心(しょしん)」に焦点を絞り、解説していきます。

「初心」と「初志」の違いは?
「初心」に似た言葉に「初志(しょし)」があります。「初志」の意味を辞書で確認しましょう。
しょ‐し【初志】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
初めに思い立った希望や考え。最初の志。「―を貫徹する」
「初志」は、最初に思い立ったこころざしを意味します。
辞書に記入された「初心」の1つ目の意味にもあるように、「初志」は「初心」の類語だといえます。
「初心忘るべからず」とは?
「初心」を使った言葉の中でも、特に耳にする機会が多いのが「初心忘るべからず」ではないでしょうか? この言葉を座右の銘にしている人もいらっしゃるかもしれませんね。ここでは、「初心忘るべからず」の意味と由来を丁寧にひもといていきます。
「初心忘るべからず」の意味と由来
「初心忘るべからず」の意味を辞書で確認しましょう。
初心(しょしん)忘(わす)るべからず
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《世阿弥の「花鏡」にある言葉》習い始めのころの謙虚で真剣な気持ちを忘れてはならない。
「初心忘るべからず」は、室町時代の能役者・世阿弥(ぜあみ)が、芸事を極める上での心得として記した言葉です。著書『花鏡(かきょう)』に記されており、「物を学ぶに際して重要なことは、習いたての頃の心を忘れないこと」だという教えが込められています。
もともとは芸事の世界で重視されていた教えでしたが、現在ではビジネス・スポーツ・教育など、あらゆる分野で使われるようになりました。何ごとにおいても、初心者だった頃の姿勢を思い出すことが、成長や継続の支えになる。そんな普遍的な真理が、この言葉には宿っています。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
「初心」の使い方を例文とともに確認
「初心」という言葉は、日常のさまざまな場面で使われます。ここでは、具体的な例文とともに、使い方を丁寧に見ていきましょう。
どんなに経験を重ねても、初心を忘れずに仕事に取り組む姿勢を大切にしたい。
社会人として成長しても、仕事を始めた頃の緊張感や謙虚な気持ちを大切にする姿勢を表した例です。この例文での「初心」は、努力の原点や、自分の軸を見失わないための心構えとして使われています。

料理教室に通い始めたけれど、包丁の握り方から習うなんてまさに初心者だなぁって実感した。
「初心者」とは、学芸や武芸などを習い始めたばかりの人のこと。この例文では、物事を始めたばかりの段階=初歩の状態を表しています。
舞台の幕が上がる瞬間、いつも初心に返る気持ちで立つようにしている。
芸事やスポーツなどにおいて、経験を積んでも初心を忘れずに臨む姿勢を表現しています。「初心に返る」という表現からは、真摯さが感じられますね。
現代の働き方と「初心」の関係
働き方が多様化する今、転職や副業、独立といった新たな挑戦に踏み出す人が増えています。こうした変化の多い時代だからこそ、「初心」をどのように捉え、保ち続けるかが、自分らしいキャリアを築く上で重要な鍵となるでしょう。
転職・独立の場面で「初心」が支えになる理由
転職や独立は、未知の環境に身を置き、これまでとは違う役割や視点に出会う機会でもあります。そんなときこそ、「なぜこの仕事を選んだのか」「何を実現したかったのか」といった、原点となる思い=初心を振り返ることが、大きな指針になります。
新しい職場や業界では、これまでの経験やスキルが評価される一方で、改めて学び直しが必要になる場面もあるものです。そうした中で初心を大切にする姿勢があれば、変化を前向きに受け止め、次のステップへの力に変えることができるでしょう。

パラレルキャリアや副業における「原点回帰」の大切さ
複数の仕事や活動を同時に進める「パラレルキャリア」や「副業」も、現代ならではの働き方です。けれども、多くの選択肢や業務を抱える中で、「何のためにこの仕事をしているのか…」と迷いが生じることもあるでしょう。
そんなときこそ、「自分がこの道を選んだ理由」に立ち返ることが、自分にとって意味のある働き方を見極める助けになります。初心を忘れないことで、忙しさの中にも、自分なりの価値観を持ち続けることができるのです。
自己投資を続ける日々に「初心」が灯す指針
学びやスキルアップに力を注ぎながら、よりよいキャリアを目指す人も増えています。ただ、努力を続けるなかで、「本当にこれでいいのか?」と迷ったり、目標を見失いそうになったりすることもあるかもしれません。
そんなとき、「なぜこの学びを始めたのか?」「どんな自分になりたかったのか?」といった初心に立ち返ることが、心を整えるきっかけになります。初心は、日々の行動に意味をもたらし、ブレない軸として自分を支えてくれる存在だといえるでしょう。
最後に
変化の多い時代を生きる私たちにとって、「初心」を忘れないことは、働き方や選択における安心感や納得感へとつながっていきます。日々のなかでふと立ち止まり、自分らしい「初心」を大切にしたいですね。
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