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「手繰る」という言葉を見たとき、すぐに読み方が思い浮かばない人もいるかもしれませんね。けれど、蕎麦を食べるときや、記憶を思い返すときなど、実は身近な場面でも使われています。
この記事では、「手繰る」の意味や使い方を分かりやすく紹介していきます。
「手繰る」の読み方と意味
「手繰る」は「たぐる」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
た‐ぐ・る【手繰る】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[動ラ五(四)]
1 両手で代わる代わる引いて手元へ引き寄せる。「ザイルを―・る」
2 物事をそれからそれへと引き出す。一つ一つもとへたどる。「記憶を―・る」
[可能]たぐれる
「手繰る」は、糸や縄などを、両手を使って少しずつ手元に引き寄せる動きを表す言葉です。このような物理的な動作だけでなく、「記憶を手繰る」というように、目に見えないものを順にたどるような場面でも使われます。

「蕎麦を手繰る」とは? 食文化に根ざした表現
「蕎麦を手繰る」という言い回しには、どこか粋な響きがあります。江戸っ子のような軽やかな所作を思わせる表現ですが、蕎麦が江戸の庶民に親しまれてきた食べ物であることを思えば、自然な言葉遣いなのかもしれません。
この言葉の由来は、大工の隠語にあるといわれています。江戸時代、大工たちは蕎麦のことを「下縄(さげなわ)」と呼んでいたそうです。これは、土蔵の壁に使う縄を指し、土に塗り込むことで壁の強度を高めるために用いられました。
「縄を手繰る」という動作が、蕎麦をすくって食べる動きに似ていたことから、「蕎麦を手繰る」という言い方が広まっていったようです。

「手繰る」の使い方を例文でチェック
「手繰る」の使い方を具体的な例文とともに確認していきましょう。
細い糸を手繰りながら、彼女は慎重に針を進めた。
手元に引き寄せる動作の描写です。ゆっくりと集中して作業を進める様子が伝わります。
彼は記憶を手繰るように、当時の出来事を語り始めた。
過去の記憶を少しずつたどるような様子を表しています。感情や出来事を丁寧に思い出そうとする場面で使われます。
「手繰る」の言い換え表現は?
「手繰る」に似た意味を持つ言葉を2つ紹介していきましょう。
辿る(たどる)
道筋や手がかりを追いながら進むときに使われる言葉です。「記憶を辿る」「足跡を辿る」など、過去や経緯を思い出したり探ったりする場面でよく使われます。

引き寄せる
自分の方へ近づける動きを表す言葉です。気持ちや物事との距離を縮めたいときに、使います。
「手繰る」の英語表現は?
「手繰る」という言葉を英語に置き換えるときは、物理的な動きか、記憶や経緯をたどるような意味かによって、適した表現が異なります。
pull in
何かを手元に引き寄せる動作を表す英語表現です。「釣り糸を手繰る」「ロープを手繰る」といった場面でよく使われます。
例文:He pulled in the rope slowly, hand over hand.
(彼は両手を交互に使って、ゆっくりとロープを手繰った。)
go back over
出来事や記憶を順にたどって振り返るときに使われます。「記憶を手繰る」と言いたい場合には、こちらが適しているでしょう。
例文:She went back over the details of that evening.
(彼女はあの晩の出来事を一つひとつ手繰るように思い出した。)
参考:『プログレッシブ和英中辞典』(小学館)
最後に
「手繰る」という言葉には、ただ引き寄せるだけでなく、何かを丁寧にたどるような静かな所作が感じられます。糸や記憶など、目には見えないものにそっと触れるようなとき、この言葉がそっと寄り添ってくれるかもしれません。
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