日常の会話やニュースなどで「否応なし」という言い回しを見聞きすることがあります。少し堅い印象を受けるこの言葉ですが、実は身近な感覚を表す場面でも用いられています。
本記事では、「否応」の意味や使い方を例文とともに紹介し、表現の幅を広げるヒントを探っていきます。
「否応」・「否応なし」の意味とは?
相手の意志や自分の気持ちに関係なく、ある出来事に巻き込まれることを表す「否応なし」。何気なく使われる言葉ですが、ここでは正確な意味を確認していきましょう。

「否応」の読み方と意味
「否応」は「いやおう」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
いや‐おう【▽否応】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
不承知と承知。諾と否。「―を言っていられない」
「否応」とは、「否定することと承知すること」を指します。
「否応なし」の意味は?
「否応なし」という言葉はよく使われますね。こちらの言葉の意味も確認しましょう。
否応(いやおう)無(な)し
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
承知も不承知もないようす。有無を言わせないようす。「―に連れ出す」
「否応なし」とは、「文句を言わせないさま」を指します。
「否応なし」の語源は?
古くは、否定を表す「いな」と肯定の「を(お)」を重ねた表現として、「いなもをも」や「いなをかも」といった言い回しが用いられていたとされます。
「いや」という語が現れるのは中世以降で、次第に「いな」と置き換わるようになりました。それにともなって、「いやがおうでも」「いやでもおうでも」といった成句が使われるようになったのも、中世ごろからと考えられています。
こうした変遷を経て、現在の「否応なし」につながる表現が形づくられてきたようです。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)
「否応なし」を使った具体的な例文を紹介
「否応なし」を使った例文を確認し、使い方を確認していきましょう。
否応なしに会議に参加させられた。
事前に意見を求められることもなく、強制的に出席する流れになった状況を表しています。本人の意思にかかわらず、外的要因によって参加せざるを得なかったニュアンスが伝わってきますね。
大雪の影響で、否応なしに予定を変更せざるを得なかった。
自然現象によって予定の変更が強いられたという文脈です。状況に対して抵抗できず、受け入れざるを得なかった気持ちが表れています。

否応なしに注目を集める存在になってしまった。
意図せず目立ってしまい、本人の望みとは無関係に周囲からの注目が集まった様子です。社会的な立場や環境が、強制的に目を向けさせてしまったという印象を与えます。
「否応なし」の類語や言い換え表現は?
ここでは、「否応なし」に似た意味を持ちながら、印象やニュアンスが異なる類語や言い換え表現を紹介します。
有無を言わせず(うむをいわせず)
相手が同意するかどうかにかかわらず、強い力や姿勢で物事を進めるときに使われます。「否応なし」と同様に強制的なニュアンスを持ちますが、より断固とした印象を与えることがあるでしょう。
無理矢理(むりやり)
望ましくない状況や手段であっても、強引に行動を進める様子を表します。日常的な場面で使いやすい言い換え表現だといえるでしょう。

やむを得ず
状況や事情によって選択肢がなく、仕方なく受け入れるような場面で使われます。ビジネスシーンでも使いやすいでしょう。
「否応なし」の英語表現は?
ここでは「否応なし」の英語表現を紹介していきましょう。
by force of
“by force of”は「〜の力で」「〜によって」という意味で、外的な要因によって何かが進む状況を表すときに使われます。
例文:She changed her career path by force of circumstances.
(彼女は状況の力によって、否応なしに進路を変えた。)
willy-nilly
“willy-nilly”は、本人の意思に関係なく物事が進むさまを表す表現です。「否応なしに」といった意味合いで使われ、少し古風ながらも印象に残る言葉です。
例文:He was dragged into the dispute willy-nilly.
(彼は否応なしにその争いに巻き込まれた。)
最後に
「否応なし」という言葉には、自らの意志を超えて状況に巻き込まれるような感覚が含まれています。少し強い響きをもつ表現だからこそ、使う場面や相手との関係に意識を向けることが大切かもしれませんね。
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