「蔵人」と書いて、なんと読むかわかりますか? 読み方によって、平安時代の官職を示す場合もあれば、現代では酒蔵で働く人のことを指します。
そこで、この記事では、「蔵人」の読み方と意味や由来、そして関連語について探っていきます。
「蔵人」とは?
「蔵人」は、読み方によって異なる意味を持つ言葉です。それぞれの読み方と意味を確認してみましょう。
「蔵人(くらびと)」の意味
「くらびと」と読む場合、「蔵人」は日本酒の製造に携わる職人を指します。杜氏(とうじ)のもとで、麹造りや発酵管理、酒の仕込みなど、酒造りの各工程に従事します。
伝統的な技術を受け継ぎながら、高品質な酒を生み出す重要な役割を担っています。
辞書では以下のように記載されています。
くら‐びと【蔵人】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
酒蔵で働く人。杜氏のもとで働く職人。

「蔵人(くろうど)」の意味
「くろうど」と読む場合、「蔵人」は平安時代に設置された「蔵人所(くろうどどころ)」の職員を指します。もともとは皇室の文書や道具類を管理する役職でしたが、蔵人所の設置以降は、朝廷の機密文書の保管や詔勅の伝達、宮中の行事・事務全般に関与するようになりました。
辞書では以下のように記載されています。
くろうど〔くらうど〕【▽蔵▽人】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《「くらひと」の音変化》
1 蔵人所(くろうどどころ)の職員。もと皇室の文書や道具類を管理する役であったが、蔵人所が設置されて以後は、朝廷の機密文書の保管や詔勅の伝達、宮中の行事・事務のすべてに関係するようになった。くらんど。
2 「女蔵人(にょくろうど)」の略。

「蔵人(くろうど)」が生まれた由来と背景
「蔵人」という職名は、平安時代初期の弘仁元年(810年)3月10日に、嵯峨天皇が巨勢野足(こせののたり)・藤原冬嗣(ふじわらのふゆつぐ)を蔵人頭に、清原夏野(きよはらのなつの)・朝野鹿取(あさののかとり)を蔵人に任命したことに始まります。
この任命は、薬子の変に際して、天皇側の機密が平城上皇側に漏れるのを防ぐため、信頼のおける人物を天皇の側近として配置し、機密文書の管理や諸訴の処理を担当させる目的があったとされています。
その後、蔵人は天皇に常に近侍し、宮中の様々な事務を掌るようになりました。上奏や下達も担当するようになり、少納言や侍従などの役職の任務も蔵人が担うようになりました。
宇多天皇の時代には、蔵人所の機構が整備され、別当・蔵人頭の下に、五位蔵人、六位蔵人(最古参を極臈、次を差次、第三を氏蔵人、第四を新蔵人と呼ぶ)、非蔵人(見習い)などの職員が配置されました。
また、蔵人は天皇の私的な秘書官や家司としての役割も果たしており、その起源は奈良時代の内豎・内侍・内舎人・勅旨などに関連していると考えられています。のちには、春宮・院・後宮・諸官司・摂関家にも蔵人が置かれ、女性の場合は女蔵人(にょくろうど)と呼ばれました。
このように、「蔵人」は平安時代の宮中において、天皇の側近として重要な役割を果たし、官界での昇進の登竜門ともなっていました。
参考:『国史大辞典』(吉川弘文館)
「蔵人(くろうど)」に関連する言葉を紹介
ここでは「蔵人(くろうど)」に関係する言葉「蔵人町(くろうどまち)」と「蔵人頭(くろうどのとう)」について紹介します。

「蔵人町」とは?
「蔵人町」は、蔵人が詰める屋舎、またはその一画を指します。大内裏図考証によれば、校書殿の西、後涼殿の南に位置していたとされています。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)
「蔵人頭」とは?
「蔵人頭」は、蔵人所の長官であり、天皇の秘書長官としての役割を担っていました。定員は2名で、一人は弁官から、もう一人は近衛府の官人から選ばれ、それぞれ「頭弁(とうのべん)」「頭中将(とうのちゅうじょう)」と称されました。
参考:『国史大辞典』(小学館)
最後に
「蔵人」には、2通りの読み方があることがわかりました。「蔵人(くろうど)」は、平安時代の宮廷において天皇の近くで機密文書の取り扱いや詔勅の伝達などを担った役職でした。その起源や役割を知ることで、当時の政治や社会の構造が垣間見えてきます。
現代では、歴史ドラマや文学作品を通じて「蔵人(くろうど)」という言葉に触れる機会もあるでしょう。その背景を理解することで、物語の深みや登場人物の行動の意味がより明確になるかもしれません。
歴史の一端を知ることで、日常の中で見過ごしがちな言葉や表現にも新たな視点が加わることがあります。「蔵人」という言葉が、そんなきっかけの一つとなれば幸いです。
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