「無手勝流」という言葉を耳にしたとき、どのようなイメージを持つでしょうか? ビジネスや日常会話でも時折見かける表現ですが、正しく理解している人は、案外少ないかもしれません。
そこで本記事では、「無手勝流」という四字熟語について、意味や由来、関連事項まで順番に紹介します。
「無手勝流」とは? 読み方と意味、由来を解説
「無手勝流」という四字熟語には、独特の歴史的背景と興味深い意味を持っています。まずは、「無手勝流」の読み方や意味を確認していきましょう。
無手勝流の読み方
「無手勝流」は「むてかつりゅう」と読みます。やや馴染みが薄い響きかもしれませんが、一度覚えてしまえば、意外と口にしやすい言葉です。

無手勝流の由来と意味
「無手勝流」の意味を辞書で確認しましょう。
むてかつ‐りゅう〔‐リウ〕【無手勝流】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《剣豪の塚原卜伝(つかはらぼくでん)が、渡し船の中で真剣勝負を挑まれた時、州(す)に相手を先に上がらせ、自分はそのまま竿を突いて船を出し、「戦わずして勝つ、これが無手勝流」と、その血気を戒めたという故事から》
1 卜伝流の異称。
2 戦わずに勝つこと。力によらず策によって勝つこと。
3 自分勝手なやり方。自己流。
「無手勝流」とは、状況に応じて力を使わずに勝つ工夫を表す言葉です。剣豪・塚原卜伝(つかはら・ぼくでん)が、渡し船で真剣勝負を挑まれた際、戦わずに相手をかわして勝利したという故事に由来すると伝えられています。
この故事では、血気にはやる相手に対して、卜伝が冷静に対応し、無用な戦いを避けた様子が印象的に描かれています。
一方で、自分本位なやり方を意味する場合もあります。
無手勝流とは違う?「無勝手流」とは?
「無勝手流」という表現を目にすることもありますが、一般的な辞書には記載が見当たりません。恐らく「無手勝流」と混同されたものだと考えられます。
正しくは、「無手勝流」だと覚えておきたいですね。

無手勝流の由来となった「塚原卜伝」とは?
「無手勝流」という四字熟語の背景には、戦国時代に活躍した伝説的な剣術家・塚原卜伝の存在があります。ここでは、塚原卜伝がどのような人物であったかに触れながら、「無手勝流」という考え方がどのように生まれたのかをたどっていきます。
塚原卜伝とはどんな人物?
塚原卜伝は、室町時代末期に活躍した剣術家です。父である卜部(うらべ)覚賢から家伝の鹿島中古流を、養父である塚原安幹(やすもと)から神道流を学びました。
その後、自らの経験と修練を重ねるなかで「一(ひとつ)の太刀」という極意に到達し、新当流を興したと伝えられています。
卜伝は生涯のなかで、将軍・足利義輝(よしてる)や北畠具教(とものり)の師となり、多くの門弟を育て、剣術界に大きな影響を与えました。
後世には、戦わずして勝利を収めるという「無手勝流」の逸話でも知られるようになります。
参考:『日本人名大辞典』(講談社)

焼酎「克 新 無手勝流」とは?
「克 新 無手勝流」は、鹿児島県の東酒造が製造する芋焼酎です。この名称は「無手勝流」という四字熟語に由来しています。
「克 新 無手勝流」は、マスカットのような爽やかな香りとライチを感じさせる甘い味わいが特徴とされています。そのため、芋焼酎初心者にも飲みやすいと評されていますよ。
最後に
「無手勝流」の背景にある哲学や柔軟な思考に触れることで、言葉に対する感受性が少しずつ豊かになっていくことを感じられるのではないでしょうか。日常のなかで無手勝流の意味を意識しながら、さりげなく知性をにじませるコミュニケーションを楽しんでみるのもよさそうですね。
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