時間は誰にも等しく流れているはずなのに、不意にその早さに戸惑う瞬間があります。「歳月、人を待たず」という表現は、そんな気持ちにそっと触れる言葉かもしれません。この言葉が生まれた背景や使い方をたどることで、日々の時間に対する向き合い方が少しだけ変わるかもしれませんよ。
この記事では、「歳月、人を待たず」について深掘りしていきます。
「歳月、人を待たず」の意味とは?
日常の中で耳にすることがある「歳月、人を待たず」という言葉。その響きには、時間の流れを穏やかに諭すような雰囲気があります。まずは、その意味を確認していきましょう。
「歳月、人を待たず」の意味を確認
「歳月、人を待たず(さいげつひとをまたず)」の意味を辞書で確認しましょう。
歳月(さいげつ)人(ひと)を待(ま)たず
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《陶淵明「雑詩」其一から》年月は人の都合にかかわりなく、刻々と過ぎていき、少しもとどまらない。
「歳月、人を待たず」とは、「時間はどんな人の事情にもかかわらず流れていく」という意味です。だからといって急ぐべきということではなく、今という時間が決して静止しないものであることを伝えています。

「光陰矢の如し」との違いは?
「光陰矢の如し」は、時間があっという間に過ぎ去っていくさまを表す表現です。矢が放たれて戻らないように、日々もまた止まることなく過ぎていくという実感を伴います。
一方で、「歳月、人を待たず」は、時が誰かの都合を気にかけることなく流れていくという視点があります。
どちらも時間をテーマにしていますが、「矢のように早い」と「瞬時もとどまらない」という違った角度から、私たちの時間との向き合い方を示しているようです。
語源や背景を知って、言葉の重みを味わう
「歳月、人を待たず」は、もともと中国の古典に登場したものです。背景を知ると、言葉の響きに新たな深みを感じられますよ。
「歳月、人を待たず」の出典は?
「歳月、人を待たず」は、中国・晋代の詩人、陶淵明(陶潜)の詩「雑詩」に由来するとされています。詩の前半には、「盛年重ねて来たらず、一日再び晨なり難し」という一節があり、「若い時は二度と戻らず、今日という日はもう繰り返されない。だから時を無駄にしないように」という意味が込められています。
この詩は、一見すると勤勉や努力を促すようにも読めますが、詩全体の流れからは「今この時を楽しむ」という思想がにじみ出ています。つまり、「時間は戻らないのだから、今この瞬間を味わうべきだ」という解釈も可能です。
とはいえ、「歳月、人を待たず」ということわざとして使われる際には、単に「時の流れは早く、誰のためにも止まらない」といった意味合いで用いられることが多く、必ずしも「楽しむべき」という意味までは含まれないことが一般的です。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

「歳月、人を待たず」を使った例文でニュアンスをつかむ
意味を理解していても、実際に使うとなると難しさを感じる方もいるかもしれません。場面に応じた例文で、言葉の雰囲気をつかんでみましょう。
「今さらだけど、『歳月、人を待たず』だね」
昔の友人と再会したとき、ふと口をついて出るような言葉です。再会のうれしさと、過ぎた時間の長さが同時に浮かんでくるような表現だといえますね。
「人生って本当に、『歳月、人を待たず』なんだな」
ある出来事をきっかけに、時間の重みを改めて感じたとき。心の声をそのまま言葉にしたような、穏やかで少し感傷的な響きがあります。
英語ではどう表現する?
「歳月、人を待たず」という考え方は、日本語に限らず、英語にも古くから似た表現があります。同じ意味を持ちながらも、表現のされ方が異なることで、受け取る印象も少し変わってくるかもしれません。

“Time and tide wait for no man.”
この言い回しは、古くから使われている英語のことわざで、「時間と潮の流れは誰にも止められない。」という意味です。「tide」は潮の満ち引きを指しており、自然の力とともに、時の流れの止められなさを象徴的に表しています。
“Time and tide tarry for no man.”
こちらは、やや古風な言い回しで、“tarry” は「とどまる」や「ぐずぐずする」という意味を持ちます。現代ではあまり見かけない表現ですが、意味としては前のものと同様に、「時の流れは誰のことも待ってくれない」という意味で用いられます。言葉の響きに歴史的な重みを感じさせる点が特徴です。
最後に
「歳月、人を待たず」という表現は、あくせくと急かすような言葉ではありません。むしろ、今をどう過ごすかを、静かに問いかけてくれる言葉のようにも感じられます。
立ち止まってふとこの言葉を思い出すことで、時間との関係が少し変わることもあるかもしれません。慌ただしい日常のなかで、こうした言葉に触れる時間も大切にしてみたくなります。
TOP画像/(c) Adobe Stock