変化の激しい時代の中で、古くからの考え方や伝統を大切にする姿勢は、時に評価されることもあれば、頑なさとして捉えられることもあるかもしれません。「墨守（ぼくしゅ）」という言葉は、そのような状況を表す際に使われることがあります。日常ではあまり耳にしない言葉かもしれませんが、ビジネスや文化の場面で目にすることもあるでしょう。
この記事では、「墨守」の意味や語源、使い方を詳しく見ていきます。
「墨守」とは？ 意味・語源を解説
まずは、「墨守」の意味、語源について確認していきましょう。
「墨守」の読み方と意味
「墨守」は「ぼくしゅ」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
ぼく‐しゅ【墨守】
引用：『デジタル大辞泉』（小学館）
［名］(スル)《中国で、思想家の墨子が、宋の城を楚（そ）の攻撃から九度にわたって守ったという「墨子」公輸の故事から》自己の習慣や主張などを、かたく守って変えないこと。「旧説を―する」
「墨守」は、古い考え方や習慣を固く守り続けることを意味します。伝統を大切にするという肯定的な意味合いで使われることもありますが、一方で、柔軟性を欠き、新しい価値観を受け入れないという否定的なニュアンスを持つ場合もあるでしょう。
「墨守」の語源と由来
「墨守」の由来には、中国・周の思想家・墨子（ぼくし）の故事が関係しています。楚の公輸盤（こうしゅはん）が新兵器「雲梯（うんてい）」を開発し、宋を攻めようとした際、宋軍に加わっていた墨子がよく城を守り抜いたことが「墨守」の語源とされています。
「墨守」の使い方｜どんな場面で使われる？
「墨守」は、伝統や価値観を守る場面で使われる一方で、変化を拒む態度を表す際にも使われます。具体的な場面を例に見ていきましょう。
「彼は会社の古いルールを墨守し、新しい提案を受け入れなかった」
ビジネスの場面では、新しいアイデアが生まれることがありますが、すべてがすぐに受け入れられるとは限りません。これまでのやり方にこだわることで、変化を妨げる場面が出てくることもあるでしょう。
「伝統工芸の職人たちは、長年の技術を墨守し続けている」
ここでは「墨守」が肯定的な意味で使われています。文化や技術の分野では、受け継がれるものがあり、それを守ることが重要とされる場合があります。変わらないことが価値になる場面もあるでしょう。
「時代の変化に適応しながらも、会社の理念は墨守していくべきだ」
このような場面では、すべてを変えるのではなく、守るべきものと柔軟に対応するものを区別することが求められるかもしれません。伝統を大切にしながらも、新しい考えを取り入れることの大切さを表現する使い方といえます。
「墨守」の類語や言い換え表現
「墨守」と似た意味を持つ言葉はいくつかあります。それぞれ覚えておくと、状況に応じて適した言葉を選ぶことができるでしょう。
堅持（けんじ）
「堅持」は、自分の考えや方針をかたく守り、他に譲らないことを指します。特に、理念や信念を貫く場面で使われることが多い言葉です。
固執（こしゅう／こしつ）
「固執」は、自分の意見に強くこだわることを指します。「墨守」と似ていますが、より頑なな印象を与えることが多いでしょう。
踏襲（とうしゅう）
「踏襲」は、これまでの方針や手順をそのまま受け継ぐことを指します。「墨守」と同じく伝統を守る意味を持ちますが、必ずしも頑なな態度を意味するわけではありません。
「墨守」の英語表現｜どのように表現される？
「墨守」に近い英語表現には、いくつかの言い回しがあります。使う場面に応じて適切な表現を選んでくださいね。
stick to
“stick to”は「（決意や宣言、愛情などを）貫く」「忠実である」という意味があります。
例文：He sticks to the old rules.（彼は古いルールを墨守している。）
adhere to
“adhere to”は「計画や約束などに固守する」という意味があります。
例文：The company adheres to its traditional values.（その会社は伝統的な価値観を墨守している。）
cling to
“cling to”は、「何かにしがみつく」「執着する」という意味があり、変化を拒むようなニュアンスがあります。
例文：He clings to outdated traditions.（彼は時代遅れの伝統を墨守している。）
最後に
「墨守」という言葉には、「守ることの大切さ」と「変化を受け入れない頑なさ」という両方の意味を持つことがわかりました。伝統を重んじることが求められる場面もあれば、時代の変化に適応することが求められる場面もあります。言葉の背景や使い方を理解し、適切な場面で使うことが大切ですね。
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