どんな方でも、一度くらいは日常生活で「覚束ない足取り」や「手元が覚束ない」というように、「覚束ない」という言葉を用いた表現をした経験があるのではないでしょうか? 「覚束ない」という言葉に対して「何となく心配している状態を表す意味かな?」と思う程度で、詳しく意味を知っている方は少数派かもしれませんね。
そこで、本記事では「覚束ない」の意味や使い方などについて、解説します。
「覚束ない」の意味とは?
「覚束ない」はひらがなで「おぼつかない」と読みます。「覚束ない」の「おぼ」とは「不安定で、曖昧な状態であること」を表わす言葉です。したがって、「不明瞭で、つかみどころがないさま」という意味になります。なお、「覚束」は当て字です。
「覚束ない」には、他にも「気がかり、不安」や「疑わしい、不審」という意味もあります。
「覚束ない」の例文をチェック
次に「覚束ない」を使用した例文を紹介します。
1:「この赤ちゃんはまだ歩けるようになり、間もない。足元が覚束ないので、近くで支えてあげながら見守る必要があります」
「覚束ない足取り」とは、足に力が入っておらず、フラフラしている足取りのこと。不安定・落ち着かない様子を示すために、「覚束ない」は用いられます。
歩き始めたばかりの赤ちゃんや足元がふらつく酔っ払い、歩くのがままならない高齢者などに対して、「覚束ない」と表現されることが多いでしょう。
2:「幼い子どもが一人で食事をしているが、手元が覚束なく今にもスープがこぼれそうで心配だ」
「手元が覚束ない」とは、まだ物事に慣れておらず、不安定な手元の様子を表しています。経験が浅い人や、未経験の人が、何かに取り組む時にも、不慣れな様子を「覚束ない」と呼ぶことがあります。
3:「そちらの案件に関しましては、私の覚束ない記憶のため皆様に多大なるご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございません」
「覚束ない記憶」とは、曖昧な記憶でよく覚えていないことを意味します。過去の話や、自分の記憶に確証が持てない時に使用しますね。
仕事でミスを犯した場合、原因究明と周囲の人への謝罪は必須です。記憶が曖昧なために起こしてしまったミスは、心からお詫びし、次はないよう気を引き締めていきたいですね。
4:「彼の覚束ない知識では、まだプロジェクトを一人でこなすには不安が残る。誰かヘルプの社員を一人付ける必要があるだろう」
「覚束ない知識」とは、しっかりと身についているとは言えない、未熟な知識のことを指します。不確かさが残っているので、信用するにはまだまだ不安が残りそうです。
業務に不慣れな新入社員の場合、まだまだ仕事の知識は完璧とは言えません。新入社員の成長のためにも、ある程度の仕事は任せる必要はあるれども、見守り役の社員を付けておくと間違いがないでしょう。
「覚束ない」の類語を紹介
次に、「覚束ない」と同じニュアンスの言葉を、例文とともに紹介します。
1:「心もとない」
「心もとない」とは、「何かを待ちきれずにそわそわして待機している間」や「物足りなく不安な気持ちを抱えている状況」を指す言葉です。「何となく不安な気持ちを表している」ということで、「覚束ない」と共通のニュアンスを持つ言葉と言えるでしょう。
例文:「全国大会に向けて新しいコーチが就任し、トレーニング内容も一新された。しかし、個人的には正直このコーチから教わるのは心もとない」
2:「おぼろげ」
「おぼろげ」には2つの意味があります。1つ目は「物事がはっきりしない、いい加減でぼんやりしている様子」、2つ目は「夜に月が雲や霞などに遮られて、ぼんやりしている様子」です。漢字で書くと「朧気」となります。
例文:「彼と会ったのはもう何十年も前の出来事なので、大変失礼なことで申し訳ありませんが、彼の顔はおぼろげにしか記憶がありません」
3:「気遣わしい(きづかわしい)」
「気遣わしい」とは、物事の先行き・成り行きに対して不安を感じていて、常に心配しているような状態のことを意味します。
例文:「今は病院の面会が制限されていて、なかなか頻繁に病室へ立ち入ることができない。ガン治療で長期入院中の祖父の様子が気遣わしい」
「覚束ない」を英語で伝えるなら
「覚束ない」を英語で表現すると、一般的には以下の3つの表現があります。状況によりニュアンスが異なるので、使用するシーンによってそれぞれ使い分ける必要があると言えますね。
・「doubtful(疑わしい、あやふや)」
例文:「he was doubtful for the soccer game because of a headache on one side.(彼は偏頭痛があったため、サッカーの試合は覚束なかった)」
・「unsteady(不安定な、ふらふらした)」
例文:「walk with unsteady steps(覚束ない足取りで歩く)」
「He looked unsteady.(彼は覚束なく見えた)」
・「vague(頼りない、はっきりしない)」
例文:「A vague reply came from my brother.(兄から覚束ない返事がきた)」
「a vague promise(覚束ない約束)」
最後に
様々な意味を持つ「覚束ない」という言葉は、まるで日本人の奥ゆかしい性質を表わしているようです。幾通りもの解釈があることや、その曖昧さが古来から現代まで長く使われてきた理由なのかもしれませんね。本記事を一つの参考にして、うまく使いこなしてみてください。
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