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この記事のサマリー
・静かな退職は、実際の退職ではなく、決められた仕事を淡々とこなす働き方です。
・単なる怠けと決めつけず、仕事の範囲を線引きし、無理を抱えすぎない働き方として捉える視点もあります。
・静かな退職に対して、業績やチーム内の士気低下などの影響を懸念する声もあります。
「静かな退職」という言葉を、メディアやSNSなどで見聞きしたことはありませんか? 働き方への考え方が変わる中で、静かな退職を前向きに捉える意見がある一方、職場への影響を懸念する声もあります。
この言葉には、職場との距離感や、無理なく働くための本音が映し出されています。自分の働き方や職場との向き合い方を考えるためにも、まずは「静かな退職」の意味と背景を整理していきましょう。
静かな退職とは何か?
「静かな退職」は、実際に会社を辞めることではありません。仕事を放棄するのでもなく、決められた業務をこなしながら、働き方の線引きを明確にする考え方です。まずは、言葉の意味を誤解なく押さえておきましょう。

静かな退職の定義とその意味
「静かな退職」とは、実際に仕事を辞めるのではなく、決められた業務を淡々とこなし、必要以上の残業や責任範囲を超えた仕事を抱え込まない働き方を指します。英語の “Quiet quitting”(静かな退職)に由来する表現ですが、完全に仕事を放棄する意味ではありません。あくまで、与えられた仕事はこなしながら、働き方の線引きを明確にする点に特徴があります。
かつては、長時間働くことや会社のために尽くす姿勢が高く評価される場面もありました。しかし近年は、仕事だけでなく生活や健康とのバランスを重視する人も増えています。静かな退職は、仕事を投げ出す行動ではなく、「自分はどこまで仕事を引き受けるのか?」を見直す働き方として捉えると理解しやすいでしょう。
参考:『日経キーワード 2026-2027』(日経HR)、『現代用語の基礎知識 2025』(自由国民社)
静かな退職が注目される理由
「静かな退職」が注目される背景には、働き方や仕事への価値観の変化があります。近年では、仕事だけを最優先にするのではなく、生活や健康とのバランスを取りながら働きたいという考え方も広がってきました。一方で、「静かな退職」は、職場の生産性や業績などに影響する可能性もあり、賛否のあるテーマとして語られることもあります。
パンデミック後の働き方の変化
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、在宅勤務や柔軟な勤務制度が広がり、自分にとって無理のない働き方を見直す機会になった人もいるでしょう。
職場に長くいることや、必要以上に仕事を引き受けることに対して、疑問を感じる声を耳にした人も多かったのではないでしょうか? 「雇用契約上求められる業務や、報酬に見合った責任範囲を果たしているにもかかわらず、際限なく範囲外の仕事を求められる状況に疑問がある」という声も耳にします。
こうした価値観の変化は、「静かな退職」が注目される背景の一つです。生活や健康とのバランスを大切にしながら、担当業務を淡々と最低限こなす働き方として、静かな退職に関心を持つ人もいるようです。
ただし、本人にとっては無理を避ける選択であっても、職場全体で見ると、周囲の負担増や連携不足につながる可能性もありますよ。担当業務を果たすことと、仕事を放棄することは別物として考えるのがポイントです。
燃え尽き症候群との関連
長時間労働や過度な負担、強いストレスなどによって、心身の健康を崩してしまう人もいます。いわゆるバーンアウト、燃え尽き症候群と呼ばれる状態や、休職、労災認定などの問題が、働き方を考えるうえで注目される場面もありますね。
もともとは仕事に意欲的に取り組んでいたものの、無理な働き方が続いた結果、心身の限界を感じる人もいるでしょう。そのような経験から、復職後や働き方を見直すタイミングで、必要以上の残業や責任範囲を超えた仕事を避けようと考えるケースもあります。
このような背景を踏まえると、静かな退職を単なる「怠け」と決めつけるのは慎重でありたいところです。心身の負担を抱えたまま以前と同じ働き方に戻ることで、再び体調を崩すのではないかと不安を感じる人もいます。担当業務を行いながら、無理をしすぎないために働き方の線引きをする人もいるでしょう。
静かな退職が企業に与える影響
静かな退職は、単に「やる気がない人が増えた」という話だけで捉えると、背景を見誤る可能性があります。もともとは、過度に仕事へ打ち込むハッスルカルチャーや、長時間労働によるバーンアウトへの反動として語られてきた面もありますね。
仕事に過剰な自己実現や成長を求めず、定められた業務を淡々と行いたいという価値観もあります。雇用契約上求められる範囲を果たしているのであれば、それ以上の働き方をどこまで求めるのかは、企業側と働く人の間で認識をすり合わせたいところです。
一方で、企業側から見ると、担当外の業務や自発的な協力が減ることで、チーム運営や生産性に影響が出る可能性もあります。個人の生活や健康を守る視点と、組織として成果を出す視点の両方から考えることが必要でしょう。

企業文化への影響
静かな退職が企業文化に与える影響は、すぐには表面化しにくい場合があります。担当業務は行われていても、周囲への協力や新しい提案、ちょっとした声かけが減ることで、職場の空気が少しずつ変わることもあるでしょう。
ただし、担当外の仕事を引き受けないことだけを問題視するのは慎重でありたいところです。そもそも業務量や役割分担に無理がある場合、従業員が距離を置きたくなるのは不自然なことではありませんよね。
リーダー層が確認したいのは、「なぜ従業員が最低限の業務にとどめたいと感じているのか」という背景です。評価に納得感があるか、業務量が偏っていないか、期待される役割が明確かどうかを見直すことで、職場の信頼関係を整えやすくなります。
生産性と業績への影響
静かな退職が広がると、担当業務以外の提案や協力が減り、新しい取り組みが進みにくくなる場合があります。すぐに業績へ直結するとは限りませんが、業務負担の偏りや職場への不信感が積み重なると、組織全体の活力に影響する可能性がありますよ。
企業は成長や成果を求める一方で、働く人の側には、無理をしすぎず、生活や健康を大切にしたいという思いがあります。この双方の関心がすれ違うと、静かな退職という形で職場との距離が広がることもあるでしょう。
そのため、従業員の意欲だけを問題にするのではなく、業務量、評価、役割分担、上司との対話に課題がないかを確認することが大切です。あわせて、担当業務の範囲や期待される役割を明確にしておくと、本人も職場も納得しやすくなります。
静かな退職を防ぐための対策
では、静かな退職を防ぎ、深刻化させないためには、どのような視点が必要なのでしょうか。働く人を一方的に責めるよりも、なぜ仕事との距離を置きたくなっているのかを確認することが出発点になります。ここからは、静かな退職を防ぐための対策としておさえておきたいポイントを見ていきましょう。

リーダーシップの役割
静かな退職を防ぐためには、リーダーシップのあり方が重要です。従業員が負担や不満を言い出しにくい環境では、仕事への距離感が少しずつ広がってしまう可能性があります。
リーダーは、定期的な対話を通じて、メンバーの業務量や悩み、担当範囲への納得感を確認することが大切です。単に成果を求めるだけでなく、何を期待しているのか、どこまでが本人の役割なのかを明確にすることで、従業員も安心して仕事に向き合いやすくなります。
従業員エンゲージメントの向上方法
従業員エンゲージメントを高めるには、業績や成果だけでなく、働く人が「この職場で働く意味がある」と感じられる環境づくりも大切です。企業の理念や価値観に共感できること、自分の役割や期待されていることが明確であることは、仕事への前向きな関わりにつながりやすいでしょう。
また、上司からの適切なフィードバックや承認、仕事を進めるうえでの一定の裁量も重要です。自分の意見や貢献が受け止められていると感じられる職場では、必要以上に距離を置かず、主体的に仕事へ関わりやすくなりますよ。
近年は、ポジティブ心理学やウェルビーイングの考え方を、組織づくりに取り入れる企業もあります。たとえば、PERMA理論では、ポジティブな感情、仕事への没頭、良好な人間関係、意味、達成感といった要素が重視されます。
こうした視点から見ると、エンゲージメント向上には、単に「もっと頑張ってもらう」ことではなく、働く人が納得感や意味を持って仕事に関われる環境を整えることが欠かせません。
ただし、エンゲージメント向上を理由に、際限なく仕事への熱意や貢献を求めると、かえって静かな退職を招く可能性もあります。業務量や役割分担、評価とのバランスを確認しながら、無理なく前向きに働ける状態を目指すことが大切ですね。
「静かな退職」に関するFAQ
ここでは、「静かな退職」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 静かな退職とは、実際に会社を辞めることですか?
A. 実際に退職することではありません。決められた業務をこなしながら、必要以上の残業や責任範囲を超えた仕事を避ける働き方を指します。
Q2. 静かな退職は、やる気がない人の働き方ですか?
A. 必ずしも、やる気がない状態を意味するわけではありません。仕事を放棄するのではなく、自分の担当範囲を明確にし、無理を抱えすぎないようにする考え方です。
Q3. 静かな退職は「当たり前」と考えてもいいですか?
A. 担当業務を果たした上で、過度な負担を避ける考え方自体は自然です。ただし、必要な連携や報告まで避けると、職場との認識にずれが生じることがあります。
最後に
静かな退職とは、決められた業務を淡々とこなし、それ以上の過度な負担を避ける働き方を指します。近年、この考え方は賛否両論あり、企業の生産性やチームへの影響が議論される一方で、持続可能な働き方を模索する動きとして注目されています。働く上で知っておくべきキーワードの一つとして、様々な視点から考え直すきっかけにするといいでしょう。
TOP・アイキャッチ画像/(c) Adobe Stock

塚原美彩(つかはらみさ)さん 開業社会保険労務士
2016年社会保険労務士資格を取得。趣味は日本酒酒蔵巡り。現在は独立開業し、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。
ライター所属:京都メディアライン



