曲学阿世とは?
曲学阿世は、「きょくがくあせい」と読みます。学問の真理にそむき、世間に気に入られるような説を唱えるという意味です。
ここでは、曲学阿世の意味や言葉の由来を解説します。
読み方と言葉の意味
曲学阿世は、世に受け入れられるため、真理を曲げて周りにへつらうという意味です。世間や時勢に迎合するような言動に対して使われます。
「曲学」には、真理を曲げた学問という意味があります。「阿世」の「阿」にはおもねる、へつらうという意味があり、「阿世」は世の中におもねるという意味です。この2つの言葉を組み合わせ、「曲学阿世」という四字熟語になっています。
「阿世曲学(あせいきょくがく)」という言葉もありますが、意味は同じです。
きょくがく‐あせい【曲学×阿世】
出典:小学館 デジタル大辞泉
《「史記」儒林伝から》学問上の真理をまげて、世間や権力者の気に入るような言動をすること。「—の徒」
出典は中国の歴史書
曲学阿世という言葉は、中国の歴史書である「史記」のなかの「儒林列伝(じゅりんれつでん)」が出典とされています。
学者の長老である轅固(えんこ)という人物が、若い学者の公孫弘(こうそんこう)を諭し、「正学に務めて以(もっ)て言い、学を曲げて以て世に阿る無(なか)れ」と伝えた言葉が由来です。
言葉を訳すと、「正しい学問に務め、学問を曲げて世におもねってはならない」という意味になります。
言葉が注目を浴びた出来事
曲学阿世はあまり馴染みのある言葉ではないかもしれませんが、1950年、当時の吉田首相が発した言葉により注目を浴びました。
出来事は、サンフランシスコ講和会議の直前に起きています。日本と連合国側との戦争状態を終結させるための講和会議に向けて、吉田政権はソ連や中国共産党の政府を除く国々との単独講和を進めていました。
これに対し、東京大学総長の南原繁氏がソ連や中国も含めた全面講和を主張したところ、吉田首相は「これは国際問題を知らぬ曲学阿世の徒、学者の空論に過ぎない」と批判。この発言を受け、南原総長は学問への権力的弾圧であると反論しました。
曲学阿世の例文
ここでは、曲学阿世の例文をいくつか紹介します。文脈を通して、言葉の意味を理解しましょう。
・曲学阿世といわれないよう、学問を正しく追求していきたい
・その学者はよくテレビにコメンテーターとして出演しているが、出演のたびに論調が変わるため、マスコミに迎合する「曲学阿世の徒」だといわれているようだ
・政府の顔色をうかがって思ったことも発言できないのでは、曲学阿世の徒といわれてしまうだろう
・曲学阿世が多い世の中になると、日本の学問や教育の未来が心配になる
・学問を続けていくからには、曲学阿世といわれないように真理を追求していきたい
・その教授は世間に迎合する発言ばかりしているため、周りから曲学阿世ではないかと噂されている
曲学阿世の類義語・言い換え表現
曲学阿世の類義語や言い換え表現を一緒に覚えると、言葉の理解がより深まります。
主な類義語は、次のとおりです。
・阿諛曲従
・媚を売る
・ゴマすり
それぞれの意味や使い方をみていきましょう。
阿諛追従
阿諛追従は、「あゆついしょう」と読みます。相手の機嫌をとり、気に入られるためにこびへつらうことです。「阿諛」とは相手の顔色を見て気に入るようにふるまうという意味で、「追従」はこびへつらうという意味があります。
なお、「ついじゅう」と読んだ場合は「人のあとにつき従う」という別の意味になります。
阿諛追従には曲学阿世のように「学問の真理を曲げる」という意味合いはありませんが、こびへつらうという点で共通するといえる言葉です。
〈例文〉
・彼は上司や先輩に阿諛追従することなく、堂々と自分の意見を述べ、実行に移している
・上の者に阿諛追従する社員ばかりでは、改革を行うのは難しいだろう
・権力者に阿諛追従する人間に限って、目下の人に対しては横柄に振る舞いやすい
媚を売る
媚を売る(こびをうる)とは、相手の機嫌をとるためにへつらったり、上の人に気に入られようとしたりすることです。
「媚」とは人の顔色をうかがって気に入るように振る舞うことで、「売る」には、売買の意味のほかに、自分から押しつけるという意味があります。
〈例文〉
・彼は嫌いな上司に媚を売ってまで会社に残りたいとは考えず、転職することを決意した
・彼女がいかにも媚を売るような態度で近寄ってきたため、彼は思わず警戒してしまった
・審査員に媚を売っても、自分が選ばれるとは限らない
ゴマすり
ゴマすりとは、人にへつらうこと、あるいはそのような振る舞いをする人のことです。相手を過剰に褒めたり、考え・行動に同調したりすることを指します。
言葉の由来には、諸説があります。すり鉢でゴマをするとすり鉢や棒に張りついたり、四方に飛んでくっついたりするため、それが誰にでもへつらう様子に似ているというのがそのひとつです。
そのほか、商人が客に対して手を擦り合わせながら商売をする様子が、すり鉢でゴマをする様子と似ていることが語源であるとする説もあります。
〈例文〉
・Aさんは上司へのゴマすりがうまく、課長に昇格するのも早かった
・たとえ出世できるとしても、ゴマすりをするために心にもないお世辞をいうことはできない
・彼はゴマすりができない性格で、思ったことをすぐに口に出すため、周りと衝突することも多い
曲学阿世の意味を正しく理解しよう
曲学阿世は、学問の真理を曲げ、世間に気に入られるためにへつらうことを表します。かつて、吉田首相による「曲学阿世の徒」という言葉で注目を集めました。
類義語には、阿諛曲従や媚を売る、ゴマすりといった言葉があります。学問の真理を曲げるという意味はありませんが、相手にへつらうという意味で、どれも似ているといえる言葉です。他者に対して使う際は注意が必要ですが、曲学阿世と一緒に覚え、シーンごとに使い分けるとよいでしょう。
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