「善管注意義務」を聞いたことは、ありますか? 日常生活やビジネスで、実はあなたも関係しているかもしれません。この重要な義務を知ることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して生活を送るためのヒントが見つかります。ぜひ一緒に学んでみましょう。
善管注意義務とは?
何となく自分には関係なさそうな難しい言葉は、意外と自分にとって重要な言葉だったりするものです。特に「義務」とか「責任」に関することは「知りませんでした」は通用しませんので、しっかり理解しておきたいものです。
善管注意義務って何?
なんだか厳(いかめ)しく、ややこしい感じのする「善管注意義務」。辞書で調べないことには、なにも解らない感じがします。さっそく調べてみると以下のような説明がされています。
《「善良な管理者の注意義務」の略》業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
すこし堅苦しい説明ですね。柔らかくいうと「善管注意義務」とは、何かしらの業務を任された人が、その職業や専門知識に基づいて、常識的に期待される注意を払うべき責任のことです。この責任を怠ると、仕事が遅れたり、完全に遂行できなかったりする場合があります。こうした場合、法律上過失とみなされ、損害賠償や契約の解除などが可能になるということです。
ということは、何かの仕事に携わっている全ての人に「善管注意義務」は課せられているということになります。しっかりと理解する必要がありそうですね。
どうして重要なの?
上記の説明からも「善管注意義務」が重要なことはご理解いただけたかと思います。日々の生活において、私たちは様々な製品やサービスを利用しています。それら製品やサービスが、信頼できないとなるとどうでしょうか? 安心して生活なんてできないですよね。
そこで、ビジネスや日常生活において、利用者が製品やサービスを安心して利用できる基盤となる環境を作るために「善管注意義務」が重要になるわけです。もし、「善管注意義務」を怠り、違反すれば法的な問題に発展することにもなります。
いつからあるの?
日本の民法に善管注意義務が明確に規定されたのは、1896年(明治29年)に制定された民法(旧民法)からです。現在の民法第644条(受任者の注意義務)や第400条(債務の本旨に従った履行の義務)は、1898年(明治31年)に施行された現行民法にも引き継がれています。このように、善管注意義務の概念は、日本の民法制定時から重要な役割を果たしてきました。
善管注意義務をわかりやすく
辞書の説明文を、丸々覚えることは難しいですよね。「善管注意義務」って分かってる? と質問されたときには、すぐに答えられるようにしておきたいですね。
簡単に説明すると?
即座に答えられるよう、コンパクトに説明します。善管注意義務とは、「他人の財産や権利を預かる際に、一般的に期待される注意や配慮を怠らない義務のこと」。これですと、どなたでも覚えられますよね。
日常生活での例
あなたが、善管注意義務について説明を求められた時、説明しやすい例を紹介しておきます。親しい友人からペットを預かったとします。そのペットの健康と安全を守ることが、あなたの善管注意義務となります。散歩に連れ出して、もしも居なくなったら善管注意義務を怠ったことになります。
善管注意義務のもっと具体例を知っておこう
それでは、続いて善管注意義務はどんな場面で必要なのか、実際の事例などをみていきましょう。
どんな場面で必要?
この「善管注意義務」は、あらゆる業務において発生するといってもよいでしょう。具体的な例では、貸借契約や業務委託契約、職務遂行の場面など、多岐にわたります。最も身近な例で説明する方が分かりやすいですよね。
典型的な例で説明します。あなたが住んでいる住居が賃貸物件の場合、その管理者は日々適切なメンテナンスを行う必要がありますね。つまり、管理者には善管注意義務があるわけです。
実際の事例を見てみよう
さらに身近で起こりそうな例で説明しておきましょう。仕事でもよく利用するエレベーターを例にしてみます。あなたの勤務するオフィスビルの管理会社が、エレベーターの点検を怠っていたために、故障や事故が発生したとします。この場合、ビルの管理会社が責任を問われることになります。
私たちの生活にどう影響する?
私たちの生活でも、思わぬことで善管注意義務を問われることになる場合があります。例えば、近所の子供さんの送り迎えを頼まれた場合、あなたが善管注意義務を果たさないと、トラブルに巻き込まれる可能性があります。親切のつもりが、思わぬトラブルに発展する場合もありますので、十分な注意が必要です。
善管注意義務違反とは?
あなたも、日々の仕事において起こしてしまうかもしれない善管注意義務違反。その時「どうしたらしたらいいの…」と戸惑う前に知っておきたいですよね。
違反するとどうなる?
「うっかり」とか「ぼんやり」していてミスを起こし大切な機材を壊したり、重大な事故につながることもあります。そうした場合も「善管注意義務」を問われ“違反”となります。違反となると、契約の解除や損害賠償など、法的な責任を追及されることになります。場合によっては、信頼関係が崩れ、ビジネスや人間関係に悪影響が出る可能性があります。
具体的な違反例
それでは、身近な具体的な違反例を見てみましょう。よくある例では、飲食店が衛生管理を怠り、食中毒事件を引き起こした場合。経営者が善管注意義務違反で、責任を問われることになります。あるいは、あなたが利用した美容院の使用しているシャンプーや溶剤によって、頭皮や顔に発疹ができてしまったなんてことになった場合も、美容院のオーナーには善管注意義務違反の可能性があります。
違反のリスクとその影響
善管注意義務に違反した場合、どうなるのでしょうか? 様々なケースが考えられますが、管理責任を問われる人には、多額の賠償金や訴訟費用が発生するリスクがあります。
また、企業にとっては信頼を失墜しブランド価値の低下につながり、経営にも重大な影響を及ぼすことにもなりかねません。
善管注意義務違反の対策
さて、善管注意義務が如何に重要であるかは、十分過ぎるほどお分かりになったと思います。あなたも仕事で「うっかり」や「ぼんやり」して失敗や事故を起こせば、善管注意義務違反に問われる可能性があることも…。ここからは、そうした違反に問われないための対策について触れておきます。
違反を防ぐには?
何といっても、日常的におこなっている点検や報告が大切です。マニュアルなどで、定められた規則や手順に従わなければなりません。そして、トレーニングや教育を通じて注意義務を徹底することが大切です。さらには、日々の業務におけるリスクを洗い出し、予防策を講じることも有効でしょう。
違反が起きた時の対処法
対策を講じていたとしても、違反は起こってしまう場合があります。その時は、予め決められた手順に従って、迅速に対応しなければなりません。そして、被害の拡大を防ぐための措置を講じる必要もあるでしょう。また、被害を受けた方が出てしまった場合には、謝罪と状況説明などを行うことも重要なことです。
法的な措置について
業務上の失敗や事故が起きた場合、その内容や規模、被害状況によって法的な対応が必要になることもあります。業務上の失敗や事故が発生した場合は、ただちに職場の管理責任者へ報告しなければなりません。
報告が遅れれば、重大な問題に発展しかねません。状況次第では、弁護士に相談し、適切な法的手続きを踏むことも必要になるでしょう。
最後に
善管注意義務は、私たちの日常生活や仕事において欠かせない重要な概念です。理解し、実践することで、より安心で信頼できる環境を築くことができます。皆さんも日常の中で、善管注意義務を意識して行動してみてください。それが、自分自身や周囲の人々を守る一歩となります。
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