治外法権とは?
治外法権とは、国際法上、特定の外国人が現に滞在する国の法律、とくに裁判権に服さない権利のことです。
外国人であっても、本来は居住する国の法律に従わなくてはいけません。しかし、国を代表する元首や外交官については、特別な権利として治外法権が認められています。
なお、日本はかつて治外法権がありましたが、1894年に廃止されました。これにより、国を代表する一部の人を除き、日本に滞在する人には日本の法律が適用されるというルールが国際的にも認められるようになったのです。
ちがい‐ほうけん
引用:小学館 デジタル大辞泉
国際法上、特定の外国人(外国元首・外交官・外交使節など)が現に滞在する国の法律、特に裁判権に服さない権利。
治外法権と領事裁判権の違い
領事裁判権とは、対象者の国の領事が裁判をする権利のことです。たとえば、領事裁判権が認められている人は、滞在中の国で法に触れる行為をしても、滞在中の国の裁判官ではなく自国の領事が裁きます。
領事が無罪と判断するなら、たとえ滞在中の国では有罪行為であっても、罰せられることはありません。
一方、治外法権とは、もともとは滞在する国の法律に従わない権利であり、裁判権に限定された権利ではありません。しかし、裁判権に限定して使うことが一般的なため、「治外法権=領事裁判権」としている本やサイトもあります。
りょうじ‐さいばん
引用:小学館 デジタル大辞泉
領事が、本国法に基づいて、その駐在国にいる自国民の裁判を行う制度。19世紀にヨーロッパ諸国が、司法制度の確立していないアジア諸国などで行ったが、今日では廃止された。
不平等条約撤廃への道のり
江戸時代の末期、日本は多くの国々と不平等な条約を締結していました。その中でも日本人を悩ませたのが「治外法権」です。日本人は外国ではその国の法律で裁かれますが、日本に滞在している外国人は日本の法律で裁かれません。
明治時代になっても、不平等条約は続きました。不平等条約に対する国民の不満が一気に高まったのは、ノルマントン号事件がきっかけとされています。
嵐により和歌山県沖で沈没したイギリスのノルマントン号には、イギリス人だけでなく25人の日本人が乗船していました。しかし、イギリス人の乗組員は誰一人として日本人の乗客を救わず、25人全員が見捨てられて亡くなったのです。
本来であれば国籍にかかわらず救助の義務を果たすべきですが、当時イギリス人には治外法権があったため、イギリス人判事が裁判を担当し、乗組員のほとんどが「無罪」になります。
日本では不平等条約に対する不満が噴出し、多くの政治家が条約改正に挑むことになりました。
日本における治外法権(領事裁判権)の廃止
ノルマントン号事件から6年後に外務大臣になった陸奥宗光も、条約改正に挑んだ政治家の一人です。陸奥は「イギリスさえ説得できれば、ほかの国との不平等条約も交渉しやすくなる」と考えます。
当時、イギリスにとって最大の敵はロシアでした。ロシアに対抗するためにイギリスが日本に協力を求めてきたタイミングで、陸奥は治外法権の廃止を持ちかけます。
そして1894年、ようやくイギリスとの間で治外法権が廃止されます。その後、陸奥の目論みどおり、イギリス以外の国々も次々と治外法権の廃止に応じました。
関税自主権の回復
不平等条約は、治外法権だけではありません。輸入品に自由に税をかける「関税自主権」がないことも、日本を悩ませた不平等条約の一つといえます。
外務大臣の陸奥宗光に誘われる形で外交官となった小村寿太郎は、日露戦争に勝ち、国際的にも力を認められつつあった状況を追い風として、関税自主権の回復に挑みます。
1911年にアメリカなどの国々から関税自主権を回復し、幕末から約半世紀にわたって日本を苦しめた不平等条約からようやく解放されました。
治外法権について知っておきたいこと
治外法権とは、特定の場所や人においてその国の法律が適用されない権利です。日本においては1894年に撤廃されましたが、現在でも特定の場所・人においては治外法権が適用されます。
治外法権となる場所
大使館や総領事館などの在外公館は、原則として治外法権です。たとえば、日本にあるフランスの大使館では、日本の法律ではなくフランスの法律が適用されます。そのため、特別な事情がない限り、トラブルが起こっても日本の警察は立ち入れません。
治外法権となる人
一国の元首や外交官などのその国を代表する人は、原則として治外法権が適用されます。たとえば、日本でフランスの外交官が日本の法に触れる行為をした場合でも、日本の法律ではなくフランスの法律により裁かれます。
治外法権を日常会話で使うなら
治外法権は、法律が機能していない状態を指す言葉として使われることがあります。たとえば、次のように使われます。
・彼女は、自分は何をしても怒られないと思っているが、そんな治外法権が許されるわけはないだろう
・道にはゴミがそこかしこに捨てられ、まるで治外法権状態のようだった
なお、実際の治外法権は、法律が機能していないわけではありません。その国の法律では裁かれませんが、自国の法律では裁かれるため、無法状態とは異なります。
類似する表現1.聖域
日常会話で使われる「治外法権」と類似する表現としては、聖域(せいいき)が挙げられます。聖域とは神聖な地域のことですが、触れてはならないとされている問題や領域のことも指す言葉です。自国の法律で裁けないという点では、触れてはならない聖域ともいえるでしょう。
・彼女にとって音楽は聖域のため、他人がとやかく口を出してはいけない
・その扉から向こうは息子の聖域らしい
類似する表現2.タブー
タブーとは、禁止された事物や言動、あるいは特定の集団の中で言ったりしたりしてはならないことを指します。
・左手でご飯を食べるのはタブーとされています
・彼にその話はタブーだ
治外法権廃止までの流れを確認しておこう
幕末から明治にかけて、日本は不平等条約に悩まされてきました。どのような流れで治外法権が撤廃されたのか、また、関税自主権が回復したのか把握しておきたいところ。
治外法権は、日常会話でも使われることがあります。無法状態といったニュアンスで使われますが、実際の治外法権は無法状態ではない点も押さえておきましょう。
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