多様性のある社会が注目されている昨今、少数派の価値観や考え方を持っている人を受け入れようとする動きが高まっていますね。そんな中、障害を持っている人と障害を持っていない人が共に暮らす社会を目指すのが、「ノーマライゼーション」という理念です。
「ノーマライゼーション」は、これからの時代を生きる上で、知っておきたい考え方の一つといえますね。本記事では、「ノーマライゼーション」の意味や福祉施設での「ノーマライゼーション」の事例、混同しがちな「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」について解説します。
「ノーマライゼーション」の意味
「ノーマライゼーション」は、英語で「normalization」といい、「標準化」「正常化」という意味です。そこから派生して、現在では社会福祉全般の理念として定着しています。辞書でも意味を確認しておきましょう。
《正常化の意》高齢者や障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方。また、それに基づく社会福祉政策。ノーマリゼーション。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「ノーマライゼーション」は、高齢者も障害者も健常者も同じ空間で、分け隔てなく共に暮らせる社会を目指す取り組みであることがわかりますね。1950年代に、デンマークで知的障害者の運動に関わっていた、バンク・ミケルセンが提唱したといわれています。
その後、1969年にスウェーデン人のベンクト・ニィリエが『ノーマライゼーションの原理』を発表したことがきっかけで世界中に広まり、国連の「障害者権利宣言」(1975)の土台ともなったとされています。
日本では主に社会福祉や教育関連の現場で用いられる傾向がありますが、一般的にはまだまだ広く認知されていないのが現状だといえるかもしれません。
「ノーマライゼーション」の事例
「ノーマライゼーション」は単なる理念ではなく、日常生活のあらゆる場面に活用されています。ここでは、教育や介護現場における「ノーマライゼーション」を見ていきましょう。
1:図書館の障害者サービス
日本の図書館では、誰もが同じように利用できる図書サービスを行なっています。具体的には、視覚障害を持つ人に点字資料や録音資料を貸し出したり、聴覚障害を持つ人に手話付きのビデオテープを提供するなど、それぞれの障害に合わせた図書資料を用意しています。
2:学校での特別支援教育
2007年に施行された改正学校教育法により、盲(もう)学校、聾(ろう)学校、養護学校は特別支援学校に一本化され、小中学校の特殊学級は、特別支援学級と改称されました。特別支援教育は、知的障害に加えて、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)などの発達障害まで支援の対象が広がりました。
また、今まで障害児教育では学校で義務教育を行なうことがメインでしたが、現在では幼児期の早期発見と支援から社会人として自立できるようになるまでサポートするなど、支援の幅が拡大してきているようです。
3:介護施設の多様化
「ノーマライゼーション」では、可能なかぎり障害者個人の特徴に合った環境を整えることが重要とされています。これまで老人ホームなどの介護施設では、利用者を相部屋で集団ケアすることが一般的でしたが、近年では個人のプライバシーや生活スタイルを尊重し、一般住宅のような環境に近づけたグループホームなどの介護施設が増えているようです。
介護現場にも「ノーマライゼーション」の考え方が浸透することで、高齢者や障害者が自分らしく暮らせることができるようになることはいいことですね。
混同されやすい「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」
「ノーマライゼーション」は、社会福祉全般の理念として定着しており、バリアフリー、ユニバーサルデザインなどの考え方に具体化されています。ここでは、バリアフリーとユニバーサルデザインの意味や具体例を見ていきましょう。
バリアフリー
「バリアフリー」は、「あらゆる障壁(バリア)を取り除く(フリー)こと」から、「バリアフリー」と呼ばれています。辞書には、具体的に以下のように記載されています。
障害者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こうという考え方。道や床の段差をなくしたり、階段のかわりにゆるやかな坂道を作ったり、電卓や電話のボタンなどに触ればわかる印をつけたりするのがその例。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「バリアフリー」は障害を持つ人だけではなく、子供や妊婦、高齢者などが安全で便利に生活できるように環境を整備することと言えますね。1974年、国連の障害者生活環境専門家会議が、『バリアフリーデザイン』という報告書をまとめたことで、「バリアフリー」という概念が世界的に知られるようになったようです。
学校の入試試験や会社の待遇面などで、男女間の格差が生まれないよう法律を改正したり、外国人観光客への宿泊施設の多言語対応なども、広い意味でのバリアフリーに含まれるとされています。
ユニバーサルデザイン
「ユニバーサルデザイン(universal design)」は、「普遍的な、全員の」などを意味する「universal」と「図柄、設計図、構造」などを意味する「design」を組み合わせた言葉です。意味を辞書で確認してみると、
高齢であることや障害の有無などにかかわらず、すべての人が快適に利用できるように製品や建造物、生活空間などをデザインすること。アメリカのロナルド=メイスが提唱した。その7原則は、(1)だれにでも公平に利用できること。(2)使う上で自由度が高いこと。(3)使い方が簡単ですぐわかること。(4)必要な情報がすぐに理解できること。(5)うっかりミスが危険につながらないデザインであること。(6)無理な姿勢を取ることなく、少ない力でも楽に使用できること。(7)近づいたり利用したりするための空間と大きさを確保すること。UD。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
とあります。例えば、床を低くして高齢者でも乗りやすくしたノンステップバスや、どの国の人でもわかるように、シンプルなイラストを採用した案内板などが挙げられます。
「バリアフリー」が障壁を取り除くという意味であるのに対し、「ユニバーサルデザイン」は、すべての人が使いやすいようにあらかじめ設計するという概念を持っていることが違いといえるでしょう。
最後に
「ノーマライゼーション」が世間に浸透し理解が深まれば、障害者を地域で受け入れる制度が充実し、障害者が抱える悩みや雇用問題などが解決していくのではないでしょうか? 障害を持つ人も障害を持たない人も自分らしく活躍できる社会に近づけるように、私たちも「ノーマライゼーション」の考え方を学んでいきたいですね。
TOP画像/(c) Adobe Stock