「ピボット」とは
「ピボット(pivot)」とは、もともと「回転軸」を表す英語です。しかし、最近では経営判断やキャリアの分野で盛んに「ピボット」が用いられているのをご存じですか?
新たに立ち上げた企業の行末や、キャリア形成において鍵を握るといわれる「ピボット」について、意味などを見ていきましょう。後半では「ピボット」を活用した転職活動について紹介します。
意味
「ピボット」を辞書で調べてみました。
ピボット【pivot】
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1 先端が円錐形になっている回転軸。計測器や時計に用いられる。
2 ゴルフで、クラブを振る際に背骨を軸にして肩や腰を回転させること。
3 バスケットボールなどの球技で、ボールを持った選手が片足を軸にし、もう一方の足を動かしてからだの向きを変えたりすること。
4 事業などの方針を変更すること。「ビジネスモデルを―する」
ピボットは上記4つの意味を持ちますが、もとは「回転軸」を表す言葉です。ピボットはスポーツシーンでもよく用いられていて、クレー射撃の射撃姿勢やボートで使う皮製の環を表すこともあります。
ビジネスシーンで多いのは「4」の意味。回転軸ではなく「方向転換」を表します。今回は、ビジネスシーンにおけるピボットについて紹介しましょう。
ビジネスシーンでの使われ方
ビジネスシーンでは、スタートアップ企業やベンチャー企業が事業の方向転換や路線変更をすることを「ピボット」と表現することが多いです。具体的には、事業における戦略の軌道修正や、これまでとは違う企画やアイデアに取り組むことがピボットに該当します。また、これらの経営判断を行うこと自体をピボットと呼ぶこともあるようです。
最近では、個人のキャリア形成にもピボットが用いられるようになりました。キャリアにおけるピボットは後半で触れますので、ぜひチェックしてください。
企業のピボット
ここからは企業のピボットについて見ていきましょう。企業がピボットを行うのはどうしてでしょうか?
事業の成功の鍵を握るピボット
スタートアップ企業やベンチャー企業はアイデアや技術はあるものの、資金面などのリソースが不足していることがほとんどです。また、ニーズをつかんで市場を開拓しながら事業を進めるため、当初の想定通りに進むのは稀。ビジネスを上手く軌道に乗せられず、ビジネスプランが暗礁に乗り上げてしまうケースが少なくありません。
リソースの少ない企業の場合、事業が行き詰まるということは致命傷になります。その危機的状況を回避するために行われるのが、ピボットです。暗礁に乗り上げそうな事業を分析して見直し、ピボットを行いながら、新たなマーケット開拓や事業展開を図ります。ピボットは、事業成功の鍵を握るといえるでしょう。
ピボットは、企業のビジョンなどに影響しない
ピボットを実行すると、目的達成のための手段や方法を変えることになります。しかし、それぞれの企業が持つ根本的な目的や価値観は変わりません。ピボットが、企業の経営理念やビジョン、ミッションに影響することはほとんどないといえるでしょう。
戦略で行われることも
戦略的にピボットを行うスタートアップ企業やベンチャー企業は、多いといわれます。自分たちの商品やサービスのニーズがどれほどあるかは、世に出してはじめてわかります。また、それらを必要とする市場を見つけるには実際に動かなければなりません。言い換えれば、ピボットを行うことはニーズの把握や市場開拓につながります。
それを踏まえ、企業はピボットを重要な事業戦略と位置付け、状況によってはためらうことなくピボットを実施します。ピボットは、事業成功に近づくための有意義なプロセスであると考えられているのです。
ピボットで注意すべきことは
ピボットを戦略に活用する企業もありますが、実際にピボットを行うのは容易ではないとされています。
まず、タイミングを見誤ると、同じ過ちをくりかえす可能性があります。また、目の前の障壁から逃げたい一心で安易にピボットを行うと、問題の解決にならず、より深刻な事態を招いてしまうでしょう。ビジネスパートナーやメンバーがピボットに納得しているかどうかも重要です。周りが納得していないピボットは、信頼関係を崩壊させてしまいます。
ピボットは最終手段として実施すべきものであると捉えることが大切です。ピボットの実施には、徹底的な事前検証が必要になるでしょう。
キャリアのピボットとは
個人のキャリアにおけるピボットについて見ていきましょう。
キャリアのピボット
自分が思い描いた通りにキャリアを積み重ねている人は、稀でしょう。キャリアの形成は、環境や状況に大きく左右されます。企業のビジネスプランと同じで、想定外のことが起きるのが当たり前なのです。
何かがきっかけとなり、転職して、それまでに経験のない領域でキャリアを展開させていくことがありますが、これをキャリアのピボットといいます。必要に迫られてビボットを行うこともあれば、自ら望んでピボットを選ぶこともあります。
キャリアのピボットにもリスクはありますが、マイナスだけではありません。ピボットによって可能性が広がり、予想もしなかった幸運に恵まれ、大きく飛躍する可能性もあります。
できることを「求められること」に転換させる
キャリアのピボットで重要になるのが「軸」です。社会人が転職する場合、軸になるのはそれまでの経歴や実績、つまりその人が「できること」です。企業もその点を重視しますから、軸をはっきりとさせ、明確に説明できるようにしなければなりません。
キャリアでのピボットで望ましいのは「できること」を軸にして、自分のやりたいことや、企業から求められることに転換することです。具体的な事例を挙げましょう。
・人事職の経験を生かしてより上位の職務に転職
・販路拡大や事業企画の実績を生かして、成長企業の責任者ポストに転職
・エリア統括マネジメントの実績を生かし、異なる業界のマネジメント職に転職
上記以外にもさまざまなパターンがありますが、大切なのは軸をぶらさないことです。現状に満足できない人は、キャリアのピボットを行い、新しい人生を開拓するのもいいかもしれません。
最後に
「ピボット」について、意味などを紹介しました。ビジネスシーンやキャリアの分野で注目される「ピボット」は、変化の激しい時代に対応するための手段の一つといえますね。
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