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「働かざる者食うべからず」の正しい意味
「働かざる者食うべからず」という言葉、自分に対して言われるのも、また、誰かが言われているのを聞くのも、あまりいい気分がしませんよね。
そこで本記事では、正確な意味から、例文、類語、対義語、英語表現までを確認していきましょう。まずは、意味から見ていきます。
正しい意味とは?
「働かざる者食うべからず」とは、「怠けて働こうとしない人は、食べてはならない」という意味があり、徒食(働かないで遊びほうけること)を、いましめる言葉です。
働いていない人を非難するような、言葉にも取れますよね。ここでの「働かざる者」は、病気や事情により「働きたくても、働けない人」を対象とはしていません。
由来は?
この言葉の由来は、『聖書』にあります。
イエス・キリストの弟子、パウロがテッサロニキ(ギリシア北部のエーゲ海に臨む港湾都市)の信徒に宛てた書簡に、「働こうとしない者は、食べることもしてはならない」と記し、「日常の労働を大切に励みなさい。まじめに働きなさい」と、働くことを奨励する言葉として、伝えました(本当にパウロ本人が言ったのかについては諸説あり)。
この言葉を初期の憲法にも採用したのが、かつてのソビエト連邦です。そこでは、人間による人間の搾取、社会的諸階級および私的土地所有の廃止、さらに「働かざる者食うべからず」の原則を打ち出していました。
「働かざる」の定義は時代によって異なるもの
太古の時代には、働くことは狩猟採取などのように食べることに直結していました。ところが、農業の開始などによって分業化が進むと、働くことの定義は多様化していきます。猟師として働く人もいれば、農家として働く人もいますし、役人として働く人もいますよね。
近年では、eスポーツのようにゲームの大会で賞金を稼いで生活する人もいます。面白い、興味深い動画を投稿することで生活費を稼ぐYouTuberのような仕事も最近は出てきました。昔だったら仕事とは認識されていなかったことが仕事として成立するなど、時代によって「働かざる」の具体的範囲は変わってくるのです。
ましてや、今の時代は非常に変化が速いです。今日は仕事とはみなされていなかったことが、明日は仕事と見なされるかもしれません。その逆もありえるでしょう。
「働かざる者食うべからず」の例文は?
それでは、実際に使うとしたら、どのような場面で使えるでしょうか? 具体的な例文とともに、確認していきましょう。
1:小学生の頃、スマホのゲームに熱中していたら、あっという間に時間が経ってしまい「働かざる者食うべからず。少しはお手伝いをしなさい」と、叱られたなぁ。
「教育的なしつけ」の意味でのケース。「きちんとできない子は、立派な大人になれない」というバイアスでもあるかもしれません。ついつい、語気が強まった言い方をしていませんか…?
2:もし、宝くじが当たったら、仕事を辞めて、旅行三昧をしたいと話をしたら、「働かざる者食うべからず。宝くじが当たることを当てにしないで、汗水流して働いて、お金を貯めて旅行しなさい」と、忠告された。
「お金は苦労して、稼せいだほうが、価値がある」という言葉や話が世の中にはたくさんあります。そのため、「宝くじが当たったら…」という話にも、ついついお小言になってしまうケースですね。
3:イソップ寓話の『アリとキリギリス』を読んで、「働かざる者食うべからず」という言葉を思い出した。
「夏にバイオリンを弾き、歌を歌って過ごしていたキリギリス。一方、アリは、夏が過ぎて訪れる冬のために、食料を一生懸命運んでいます。冬になると、キリギリスは食べ物に困り果ててしまい…」という、あまりにも有名な『アリとキリギリス』。実は、この話には結末が3つあるそうです。
その結末の一つの、アリから食料を分けてもらえず、キリギリスが凍死してしまうケースは、「後先を考えずに過ごすと、後で後悔しますよ」という戒めの意味。結末の中では一番厳しいケースですね。
「働かざる者食うべからず」の類語は?
「働かざる者食うべからず」は、いわゆる、他者への戒めの言葉として使われるケースが多くあります。そのため、使い方次第では、誤解を生じたり、ハラスメント行為にもなりかねません。ここでは、言い換え表現を2つ紹介いたします。
1:無為徒食(むいとしょく)
「無為徒食」とは、何もしないで、ただ無駄に毎日を過ごすこと。意味もなく時間を費やすことを意味します。現代社会で私たちは、毎日何かしらのストレスにさらされています。時折、「ぼーっとしたい…」という気持ちにもなりますよね。ですが、時間は誰にも等しく一日24時間。あまりにも長く、意味もなく「ぼーっ」と時間を費やすことは、なるべく避けたいですね。
2:己が徳行の全欠を忖って供に応ず(おのれがとくぎょうのぜんけつをはかってくにおうず)
これは、「五観の偈(ごかんのげ)」という禅宗において食事の前に唱えられている言葉です。中国から伝わり、日本では、曹洞宗の祖・道元禅師が紹介、徐々に広まったとか。
この言葉の意味は、自分の行いが良いか悪いか、完全か欠点があるかを自己反省して、今日の、その食事をいただくことができるのか、自分でよく考えよ、ということです。
「働かざる者食うべからず」の英語表現は?
「働かざる者食うべからず」に近い表現は英語でも存在します。早速、見ていきましょう。「If man will not work, he shall not eat」や「No work, no dinner」と表現できます。
最後に
新型コロナウイルスという感染症の影響で、私たちの働き方も大きく変わってきました。A Iやロボットの進化によって、現在は第四次産業革命の時代とも言われています。産業構造が変化していく中で、「働かざる者食うべからず」の「働かざる」の具体的範囲も変化することでしょう。「働くということ」を自分なりに見直すいい機会かもしれませんね。
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