ビジネス上用いる多くの言葉は、正しい意味を理解することも大切ですし、どのような場面においてどのように使うのかもしっかりと理解しておく必要があります。中にはビジネスの活動方法や指針に関わる用語もあります。そうした言葉としてあるのが、今回紹介する「ランチェスター戦略」です。
「ランチェスター戦略」のことがわかれば、自社に対する理解が深まり、自分自身の業務効率にも役立つ可能性があります。「なんだか難しそう…」などと思わず、参考にしてみてください。
ランチェスター戦略とは?
「ランチェスター戦略」とは一体何なのでしょう? 解説します。
簡単に概要を説明
ランチェスター戦略とは、元々第一次世界大戦中に作られた戦いの法則です。戦場では、兵士個々人の戦闘能力と兵士の数が多い方が有利ですよね。しかし、銃や戦闘機を用いた戦いでは、1人が複数の敵を攻撃できることになります。その際、武器の性能と破壊力が勝敗を大きく左右します。さらに兵士の数が多ければ、一層有利になるでしょう。
こうした考え方をマーケティングに応用したものが「ランチェスター戦略」と呼ばれています。
そもそも「ランチェスター」とは?
ちなみに、ランチェスターというのは人名です。簡単にプロフィールを紹介しますね。フレデリック・ランチェスターは、イギリス最初の石油エンジン自動車を設計・製作した人です。
会社経営の中で得られた様々な統計数字を分析し、ランチェスターの法則を見出しました。それが、戦争で応用されたのです。経営のために編み出した手法が、まさか後年になって戦争で応用されるとは、思いもしなかったでしょう。
とはいえ、ランチェスターの死後80年が経ってもなお、名前が残っているのは戦争で使われたからともいえます。皮肉なことですね。
なぜ今、注目されているのか?
現在、政府の支援もあり、スタートアップ企業が増えていることは、皆さんもご存じですよね? そうした制度もあり、起業家も増加しています。経営者としての経験の浅い人たちが、経営戦略を立案するためのバイブルとして「ランチェスター戦略」を採用しているのです。
具体的には、筆者の知人も2020年に会社を立ち上げてから事業が軌道に乗るまでの間、「ランチェスター戦略」を拠りどころとしていたと聞きました。「ランチェスター戦略」をベースに、サービスの設計や販売戦略を練り、実践したそうです。2024年の今では、事業は軌道に乗り、一定のお客さんを獲得し、経営は安定期に入っているそうです。
知人のエピソードは、「ランチェスター戦略」がマーケットにおける弱者が取るべき戦略として、有効であるという証明にもなっていますね。
ランチェスター戦略の基本概念
続いて、ランチェスター戦略を本当に理解する意味で大切なポイントをおさえておきましょう。ランチェスター戦略の核となるのは、市場での占有率に応じた戦略を選ぶこと。「弱者の戦略」と「強者の戦略」に分けて特徴を説明します。
弱者の戦略の特徴
市場でシェアの低い企業は、シェアの高い企業と同じ方法で戦っても勝つことは非常に難しいでしょう。そこで、シェアの低い企業は特定の分野に特化し、なおかつ特定の地域でシェアを奪うための営業活動を行います。
そうした行動によって、特定のユーザーの支持を得られれば、市場での地位を確立する可能性が出てくるでしょう。
強者の戦略の特徴
市場において高いシェアを保有する企業が新たな分野に進出するとき、弱者が成功している分野に着目します。そうして弱者が保有しているマーケットを奪うべく、類似した商品を開発し、宣伝広告費や多くの販売員を投入。強大なパワーを使って、市場を奪い取るのです。
市場でのシェアの占有率に応じた適切な戦略を選ぶことが、競争の中で成功する鍵になるということですね。
ランチェスター戦略の長所
ランチェスター戦略の強みを挙げていきます。
1:選択と集中をする
仮にOggi読者の皆さんがこれから事業を起こすとしたら、小規模な事業にならざるを得ないですよね。だからこそ、特定の分野や地域に選択と集中をすることで、市場で一定のシェアを獲得できる可能性が高まります。限られた資源が無駄にならずに、最大限に生かすことができますね。
2:差別化による競争力強化
独自の商品やサービスをニッチな分野で提供することで、他社との差別化を図り、新たな市場を生み出すことができます。例えば、今から10年ほど前に顔のたるみやむくみを改善するようなローラーが発売されて話題になりましたよね。使うことで、小顔になるのではないかと期待させるものでした。今では、100円ショップでも類似商品が販売され、一般的なものとなっています。ニッチな商品が一つの市場を生み出したことを証明する出来事でした。
3:柔軟な戦略展開
中小企業が弱者の戦略を取る強みは、組織の規模が小さいからこそ、迅速かつ柔軟な意思決定を行い、適宜状況に合わせて対応ができること。
強者の戦略では市場の状況を見ながら、人・物・金を投入することができます。
4:リスクの回避と軽減に貢献
ランチェスター戦略をとったとしても、リスクが“ゼロ”になるわけではありません。では、どんなリスクがあるのかを少し考えてみましょう。特定の市場に新たに進出することを想定すると、市場占有率における弱者が市場において大きな力を持っている強者と同じ商品やサービスを提供したとしても、勝ち目はありませんよね。だからこそ、自分の強みを理解し、一点に集中して商品やサービスを開発し、マーケットに参入するべきです。経営資源を有効に使えますし、たとえ失敗したとしても経営に与える影響を最小限に抑えられるでしょう。
では、大企業が新たな市場に参入する場合には、どんなリスクがあるのでしょうか? 大企業がまだ小さな市場に参入するとなれば、莫大なコストがかかることになります。もし、失敗して撤退となった時には投資した資源(人・物・金)は回収できない上に、企業イメージを傷つけたり、本業にも大きなダメージを受けかねません。だから、資本力のある大企業は、すでに市場を持っている企業を買収するんです。ニュースや新聞で取り上げられる企業買収の背景には、ランチェスター戦略が生かされているのでしょうね。
ランチェスター戦略の短所
ランチェスター戦略には、ウィークポイントもあります。
1:集中のリスク(「弱者の戦略」の場合の弱み)
特定の分野に集中する弱者の戦略は、大きなリスクとなる場合もあります。理由としては、限られた経営資源を特定の分野に集中しているわけですから、仮に失敗をすれば、致命的な痛手を負うことになります。
皆さんの身近で記憶に新しいところでは、「液晶テレビ」が挙げられるでしょう。2010年頃までは世界の市場を席巻していた会社が、「有機EL」という新しい技術の登場によって、市場から追いやられてようとしています。
2:過度な偏りを生む可能性(「弱者の戦略」の場合の弱み)
弱者が特定の分野に選択と集中をした場合、過度な偏りを生む可能性があります。短期間に市場が飽和状態になったり、規制や技術の変化があると、方向転換もできず、経営が傾いてしまう可能性が高まります。
3:柔軟性の欠如(「強者の戦略」の場合の弱み)
強者の戦略の場合、市場の成長性や技術の進歩、コンペティターの動きの予測を見誤れば、市場の変化に対応できず、大きなダメージとなるでしょう。
4:コスト増加(「強者の戦略」の場合の弱み)
強者が市場の可能性や成長性を見誤ると、多大な投資をしても、利益は出ず回収すらできなくなることもあります。
これらのウィークポイントを考慮しながら、バランスを取った戦略を立てることが重要です。
最後に
自社の製品がヒットしているか、していないかは気になるものですが、自分の会社がマーケットの中でどのようなポジションにいて、どのような戦略を採用しているかはあまり気にしませんよね。「ランチェスター戦略」の視点から、ご自身の会社を分析してみるのも面白いかもしれませんよ。
「ランチェスター戦略」に関しては、さまざまな解説書が出版されています。「もっと詳しく知りたい」、「日々のビジネス活動に生かしたい」と思われる方は、書籍を読んで知識を深めてみるのもいいですね。
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