「正常性バイアス」とは?
「正常性バイアス」と聞いて、何のことかわかる人は少ないかもしれません。正常性バイアスは、誰もが持つ心の動きのこと。正常性バイアスにはメリットもありますが、マイナスに作用すると、大変なことになります。
今回は「正常性バイアス」について調べてみました。意味や、正常性バイアスがどのように影響するか、対処法などを一緒に見ていきましょう。まずは、辞書で調べた意味を紹介します。
「正常性バイアス」の意味
正常性バイアスを辞書で調べたところ、「正常化の偏見」と同義であることがわかりました。「正常化の偏見」とはどのような意味を持つのでしょうか?
【正常化の偏見】
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
読み方:せいじょうかのへんけん
《normalcy bias》異常な事態に直面していながら、「大したことにはならないに違いない」「自分は大丈夫だろう」と思い込み、危険や脅威を軽視してしまうこと。災害発生時に、避難や初動対応などの遅れの原因となる場合がある。正常性バイアス。
「正常化」とは、普通の状態に戻すことや、戻ることを意味します。「偏見」は、見方や考え方が偏ってしまうことの意。迫っている危機や異常事態があるのに、「これは正常の範囲内」と捉えて軽視し、心が疲弊するのを防ごうとすることを指します。
正常性バイアスは、人間が生きるために必要な心の動きであるといわれます。精神的安定を保つために備わっているメカニズムといえるでしょう。
正常性バイアスがかかると、どうなる?
正常性バイアスがかかると、さまざまなことに影響が生じます。ここからは、正当性バイアスがマイナスに作用するケースを見ていきましょう。
非常事態時は危険
私たちの日常には、さまざまな危機が潜んでいます。その代表といえるのが、自然災害でしょう。日本は「地震大国」と呼ばれるほど、地震が頻発する国。地震災害によって、甚大な被害を受けた地域は多くあります。
加えて、ゲリラ豪雨や線状降水帯、台風などが発生し、大規模災害につながることも少なくありません。
過去の災害事例では、警報が発令されていたのに逃げ遅れた人が多かったことがわかっています。これは、「これまで大きな被害は起こっていないから、今回も大丈夫」「この地域に限って、水害は発生しないだろう」といった正常性バイアスが働いたことが影響したといえるでしょう。
非常事態に正常性バイアスがかかると、最悪の場合は命を落としてしまうということです。
危機回避が遅れる
危険が迫っているとわかっているのに、正常性バイアスがかかって「まだ大丈夫だろう」「先送りしても問題ないだろう」のように考えてしまうと、危機回避が遅れてしまいます。
その代表といえるのが、災害に対する備えでしょう。災害は予告なしに発生するものです。いつ起こっても大丈夫なように、飲料水や簡易トイレ、トイレットペーパーなどの防災グッズを備える必要があることは、誰もが知っているはずです。
しかし、それを後回しにしたり、避難経路やハザードマップの確認を先送りにしているケースは意外と多いのではないでしょうか?
ビジネスシーンにも影響する
正常性バイアスがマイナスに作用するケースは、ビジネスシーンでもよく見られます。たとえば、コンプライアンス違反。「これまで問題にならなかったし、大丈夫だろう」と考えてしまい、個人情報や機密情報を持ち出してしまう、PCを不正利用するといった事例の報告は後を断ちません。
また、パワハラやセクハラが横行し続けているのは、組織自体に正常性バイアスがかかっていることが多いという見方ができます。組織の中で違反行為が常態化し、誰も疑問に思わなくなっている可能性が考えられます。
正常性バイアスがかかることにより、損害が生じるケースは少なくありません。「自分は大丈夫」「ちょっとくらいなら問題ない」と考えること自体に、大きなリスクがあることを意識したいですね。
正常性バイアスの対処法(個人)
ここからは、正常性バイアスがマイナスに作用することを防ぐ方法を見ていきましょう。まずは、個人レベルでできることを紹介します。
まずは、正常性バイアスについて理解を
正常性バイアスは、誰もが持つ心の機能です。正常性バイアスについて知らないと、自覚することすらできません。正常性バイアスに気づくには、その存在を知り、正しく理解する必要があります。
正常性バイアスに関する情報は、書籍やインターネットなどで集めることができます。まずは正常性バイアスについて知り、理解を進めたいですね。また、正常性バイアス以外のバイアスについても、把握するといいでしょう。
日頃から疑問を持つようにする
起こった出来事に対して、「自分は大丈夫」「これが普通」と思うことに疑問を持つことも大切です。バイアスや思い込みなどが働くと、根拠を考えずに決めてしまいがち。選ぶ前に一度立ち止まり、「本当にそれでいいのか」「自分は大丈夫と思う根拠は何か」と自問自答するといいですね。
最初は、些細と思える出来事に対して、意識的に疑問を持つようにします。特に、直感が働いたと感じたら一度立ち止まり、自分に問いかけましょう。これを繰り返すことが思考のトレーニングになります。
正常性バイアスの対処法(組織)
組織として正常性バイアスに対処する場合、次の3つは必要になるでしょう。
・社内研修の実施
バイアスに関する社内研修を実施し、従業員の理解促進を行います。従業員一人一人が正常性バイアスの知識を深めることができれば、自己理解や相互理解が進むでしょう。
・対処方法のマニュアル化
自然災害を含む想定外の事象が起こった時の対処法を、マニュアル化するのも一つです。マニュアルがあることで、偏りのない判断や対応が可能になるでしょう。対処法を統一することで、誰もが着実に対応できるようになるのも、メリットです。
・定期的に訓練する
マニュアル化した内容をきちんと理解しているか、その通りに行動できるかを確認するためにも、定期的に訓練を実施します。特に、避難訓練は必ず実施を。消防局などの専門機関に依頼し、セミナーや訓練を実施するのもおすすめです。
最後に
「正常性バイアス」について、意味や対処法などをまとめました。正常性バイアスは、誰もが持つため、自覚しにくいのが難点です。「自分は大丈夫」「大きなことにはならないだろう」と思うその考え自体に正常性バイアスがかかっていることを意識したいですね。
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