キャリアを重ねてから、後輩の仕事の相談に乗るようになったという経験はありませんか? 年齢や性格が異なる相手の話に耳を傾けることは、案外難しいなと感じることがあるかもしれませんよね。そんな時に、「傾聴(けいちょう)」や「積極的傾聴法」を身につけておくことで、スムーズに意思疎通ができるようになれるでしょう。
近年、ビジネスシーンでも必要なコミュニケーション能力として注目されているんですよ。本記事では、「傾聴」の意味やビジネスシーンでの活用の仕方について見ていきましょう。
「傾聴」の意味
まずは「傾聴(けいちょう)」の意味について、辞書で確認していきましょう。
[名](スル)耳を傾けて、熱心に聞くこと。「―に値する意見」「―すべきお話」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「傾聴」は、相手の話を真摯な姿勢で聞くことだとわかりましたね。
このような一般的な「傾聴」とは別に、近年では仕事相手との信頼関係を構築するためのテクニックとして、「積極的傾聴法(アクティブ・リスニング)」がビジネスシーンで活用されているんですよ。
「積極的傾聴法」とは、相手の気持ちや考えを、相手の立場に立って理解しようとする態度のこと。日本では、管理職研修で職場の人とのコミュニケーションの取り方を学んだり、部下への対応を改善する目的で活用されています。
アメリカの心理学者、カール・ロジャーズが提唱した技法ともいわれ、人の話を聞く際の心構えとして以下の3つを挙げました。
【共感的理解】
・相手の話を相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
【無条件の肯定的関心】
・相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。
【自己一致】
・聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
以上の3つのポイントを意識して人の話を聞くことで、より相手と深いコミュニケーションをとることができるとされています。
ビジネスシーンでの「積極的傾聴法」の活用の仕方
クライアントや上司、後輩などビジネスシーンではあらゆる立場の人の話を聞くものですよね。そんな時に、「積極的傾聴法」のスキルを身につけておくことで、より相手と円滑にコミュニケーションをとることができるでしょう。「積極的傾聴」が役立つ3つの場面を紹介します。
1:後輩の相談に乗るとき
キャリアを重ねて、同じ部署やチームに後輩が入ってきた時、何かと相談に乗る機会が増えますよね。後輩の立場から見れば、もし先輩が忙しくしていたり、イライラとしていたら、「分からないことを質問したいけれど、話しかけづらいな…」などと感じてしまうかもしれません。
「何かあったら気軽に声をかけてね」と事前に伝えたり、休憩時間などに後輩と話す時間を設けることも大切です。相手の意見を最後まで聞く、相手の意見を否定しないことを意識してみてくださいね。
2:上司の話を聞くとき
上司の話を聞く際にも、「傾聴力」や「聞く力」が役立つことがあります。働いていると、上司から注意されたり、厳しい意見を言われてムッとすることもあるでしょう。上司の話を聞きながら、頭ごなしに叱ったり、八つ当たりされているだけなのか、それとも自分のためを思って説教してくれているのかを冷静に判断する必要があります。
相手の真意や目的を的確に判断する際にも、相手の話や態度から本音を読み解く傾聴力が役に立つのです。
3:クライアントと交渉するとき
職場で毎日関わっている上司や同僚に比べて、社外のクライアントは付き合いが浅く、人となりが分からないこともあるでしょう。商談中に、相手の言っていることが「本心」なのか「建前」なのか見極める必要も出てきます。何度も取引先に足を運んだり、相手との話し合いを繰り返すことで、親密度がアップし、距離感が縮まります。
会話中も、「それはこういうことですか?」と質問したり、相手の話のペースに合わせてうなずいたり、リアクションをとることで心を開いてくれるきっかけにも。相手と親しくなり信頼関係を築くことで、商談がスムーズに進んだり新しいビジネスチャンスにつながることもあるでしょう。
傾聴力を高めるメリット
ビジネススキルというと、「プレゼン力」や「企画力」など自分の意見を主張する能力が注目されがちですが、相手の意見を受け入れる「傾聴力」を伸ばすメリットはどこにあるのでしょうか? ポイントを3つ紹介します。
1:相手とより深い信頼関係を築ける
自分にきちんと向き合ってくれる人には、心を開いて話をしてみたいと思う人も多いのではないでしょうか。相手の話にあわせてうなずいたり、リアクションをとることで、「この人は私の意見を受け入れてくれている」と安心感を持つでしょう。
特に、新入社員など職場環境にあまり慣れていない人からすれば、そういう先輩は心強い味方に感じるはずです。
2:話しやすい雰囲気が作れる
傾聴力を高めることは、個人間だけでなくチーム全体に良い影響を与えることもあります。「何か困ったことや分からないことがあったら話してね」と相談しやすい関係性を築くことで、従業員同士のコミュニケーションが深まり、話しやすい職場環境が作れるでしょう。
同じ企画を担当しているチームや、プロジェクトチームに所属している場合は、積極的に話しやすい環境を作っていきたいですね。
3:自己理解につながる
さまざまな人の話を深く聞くことで、「こういう考え方もあるんだな」といろんな角度でのものの見方や解釈の仕方を知ることができます。また、悩んでいる人の話を聞いて「こういう考えに陥ると失敗してしまうのかも…」などと、気づきを得ることもあるでしょう。
相手と自分との違いが見えてくることで、「私って案外前向きに物事を考えられる性格だったんだな」などと自己理解へとつながります。自分の性格や考え方の癖を知ることで、長所を生かし、短所を見直すきっかけになるでしょう。
「積極的傾聴法」のやり方
では、実際「積極的傾聴法」をする時に、意識したいポイントを見ていきましょう。
1:相手の表情や声色も意識する
相手の話の内容だけではなく、表情や声のトーン、仕草などの非言語コミュニケーションにも注目します。相手の話していることが本心なのか、仕草や目の動きなどを観察して総合的に判断してみてください。
2:「聴く」と「話す」のバランスを意識する
自分の主張を伝えるのではなく、相手の話に耳を傾けることが「傾聴」です。つい相手に注意をしてしまったり、説教をしてしまいがちな人は、「聴く」を7〜8割、「話す」を2〜3割程度にすることを意識してみてください。
もし、相手に黙って考えている様子が見られたら、話し出すまで待つ姿勢も取り入れてみてくださいね。
3:あいづちを打って相手への理解を示す
相手の話への理解を示す際には、「うなずく」「あいづち」「繰り返し」などを行ってみてください。会話の最中に、「そうなんですね」「うんうん」などのあいづちを打つことで、相手は「きちんと話を聞いてくれている」と感じやすいでしょう。
また、相手が話したことに対して、言葉を繰り返してあいづちを打つことも効果的。同じ言葉を繰り返すことで、自分の話に共感してもらえていると実感が湧きます。声のトーンや視線、仕草も相手に合わせるように意識したいですね。
最後に
誰でも、自分の話をしっかりと聞いてくれて、理解を示してくれる人には好意を抱きやすいものです。「積極的傾聴法」を身につけて、周囲の人と深い信頼関係を築けるようになれるといいですね。
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