生殺与奪とは?
生殺与奪とは、「せいさつよだつ」と読みます。「相殺(そうさい)」のように、「殺」をさいと読んで「せいさいよだつ」とするのは誤りです。
生殺与奪は、漫画の「鬼滅の刃」のセリフで使われ、一気に注目度が高まったといえるでしょう。
ここでは、生殺与奪の意味や言葉の由来を解説します。
言葉の意味
生殺与奪とは、他人を思うままにするという意味です。「生殺」と「与奪」はどちらも、「生かすと殺す」「与えると奪う」という相反した意味があります。
これらを組み合わせ、他人を生かすも殺すも、与えるも奪うも自由にできるような絶対的な権力を握っていることを表す言葉です。「生殺与奪の権を握る」という使い方をします。
絶対的な権力による支配がある場合に使われることが多いでしょう。
せいさつ‐よだつ
出典:小学館 デジタル大辞泉
生かしたり殺したり、与えたり奪ったりすること。他人をどのようにも思いのままにすること。「生殺与奪の権を握る」
言葉の由来
生殺与奪は、古代中国の思想家である荀子(じゅんし)が記した「王制」という書物が語源とされています。
古代中国では国の支配者が国民の命を握る圧倒的権力を握っていたため、荀子がそれを書物に著し、日本に伝わってきました。
もともとは「殺生與奪」という言葉でしたが、日本に伝わったときは「生殺」となり、「與」は同じ「与える」という意味の「与」に変わっています。
生殺与奪が注目された理由
生殺与奪という言葉は、インターネットやニュースなどで取り上げられ、話題を呼びました。そのひとつが、漫画の『鬼滅の刃(集英社)』です。第一話に「生殺与奪の権を他人に握らせるな!! 」というセリフがあります。主人公の炭治郎が鬼に変貌した妹の禰豆子を殺そうとする冨岡に対して命乞いをしたとき、冨岡が放ったセリフです。
また、生殺与奪は、不祥事で報道された企業のニュースでも話題になりました。企業の経営計画書に「経営方針の執行権限がある会社幹部には部下に対する生殺与奪権が与えられている」といった内容の記載があったためです。
これは、会社の方針に従わないと幹部が判断した場合、いつでも解雇できることを意味します。経営計画書の内容が報道されると批判が集まり、その後、企業は計画書を撤回したということです。
生殺与奪の例文
生殺与奪の使い方について、例文をみながら確認していきましょう。
・その会社の社長はワンマンで、社員の生殺与奪の権力を握っているといわれている
・A社の売上の多くはB社からの受注に頼っているため、生殺与奪の権利を握られているといっても過言ではない
・古い歴史では、日本でも権力者が民衆の生殺与奪権を握っている時代があった
・1人の人間を崇拝してその意のままになることは、自ら生殺与奪の権利を差し出すようなものだ
・一国の権力者が国民の生殺与奪権を握るようなことがあってはならない
生殺与奪の類義語・言い換え表現
生殺与奪には、次のような類義語・言い換え表現があります。
・行方を左右する
・死命を制する
文脈に応じて使い分けるとよいでしょう。
死命を制する
死命を制する(しめいをせいする)とは、相手の生死を決定づけるような急所を押さえ、その運命を手中におさめることです。「死命」とは、死ぬか生きるかという意味で、生殺与奪の「生殺」や「与奪」と似たニュアンスがあります。
〈例文〉
・業界の死命を制するには、これまでにない新たなサービスを開発することが必要だ
・国の死命を制するのは自給力であり、農業への支援を継続しなければならない
・部隊は敵の死命を制するため、これまでになく慎重に戦略を練っていた
古代中国の書物「史記(しき)」が由来とされている言葉です。主君が中途半端な作戦を採用しようとしたとき、参謀が「その作戦で敵対者の死命を制することができるか」と問いかけ、作戦をあらためさせました。
行方を左右する
行方を左右する(ゆくえをさゆうする)とは、方向性を決定づける、重大な影響を与えるという意味です。物事を動かす鍵を握っているという意味で、生殺与奪と似た言葉といえます。
〈例文〉
・委員会で決定された事項はどれも重大であり、今後の会社の行方を左右するものだった
・このプロジェクトが成功するかどうかで、部署が存続するかの行方が左右される
・彼がその候補者の応援演説をすることによって、選挙の行方を大きく左右するものになるだろう
生殺与奪の使い方に注意しよう
生殺与奪とは、思うままにできる、絶対的権力を持っているということを例えた言葉です。漫画のセリフで注目されましたが、日常会話ではほとんど使われないため、意味を知らなかったという方も多いかもしれません。この機会に、類義語とともに覚えておくとよいでしょう。
ただし、他人を意のままに支配するというネガティブな意味合いであることから、使う場面には十分注意してください。
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