「一衣帯水」という四字熟語を知っていますか? 字面からは意味が想像しづらい言葉かもしれませんが、政治やビジネスシーンなどで使われる言葉です。本記事では、語源やビジネスシーンなどでの使い方、言い換え表現などを紹介しましょう。
「一衣帯水」の意味
「一衣帯水(いちいたいすい)」の意味は、「ひとすじの帯のような、幅の狭い川や海。また、それを隔てて隣り合っていること」。「衣帯」とはきものの帯。1本の帯が「一衣帯」で、「水」が狭い川や海を表します。
転じて、2つのものの距離が非常に近いこと、密接な関係を表す言葉になりました。2つのものについては、地域や国、人と人、会社と会社などさまざまなシーンが想定されます。
「一衣帯水」の語源
「一衣帯水」の語源は、中国南北朝時代の南朝の歴史書『南史・陳後主紀(なんし・ちんごしゅき)』より。「我為百姓父母、豈可限一衣帯水、不拯之乎」(私は民衆の父母の立場にある、あのような細い川で隔てられているからといって、その民を救わずにいられようか)という一文です。
南朝の陳は第5代皇帝・後主の圧政により民衆が飢えと寒さで苦しんでいました。北朝の隋の文帝(ぶんてい)はこの様子を見て、民衆を救おうと陳に攻め入り、これはそのときの言葉だと伝えられています。
こうした背景もあってか、「一衣帯水」は外交問題などでよく使われます。
使い方を例文でチェック!
政治における外交などで使われることが多い「一衣帯水」。ビジネスなど日常生活でも、この言葉を使うのに適した場面があります。例文でみてみましょう。
1:「両国は一衣帯水の隣国です」
たとえば日本と中国も「一衣帯水」。海を隔てながらも、地理的に非常に距離の近い2つの国ですよね。
2:「日本とアメリカは一衣帯水の間柄です」
こちらは地理的に距離が近いというのではなく、利害や国家の目標が非常に近い、ということを表す「一衣帯水」です。
3:「京都と大阪は一衣帯水だけど、気風は大きく違っている」
地理的に隣り合っていても、それぞれの地域の人の気風が似ているとは必ずしも言えないよう。京都と大阪はその典型としてメディアなどでもよく取り上げられますよね。
4:「部長とは一衣帯水の関係にあるのだから仲良くするほうがいいよ」
「一衣帯水」は人と人にも使うことができます。たとえば直属の上司と部下も一衣帯水の関係性といえるでしょう。
5:「あの会社とうちとは、一衣帯水だよ」
利害が一致しているということです。いいにしても悪いにしても、両社は、互いに強く影響を与え合う関係であることがわかります。
6:「私たちは一衣帯水なのだから助け合いましょう」
「一衣帯水」は、人として利害や目標が一致していたり、とても親しい間柄の場合に用いられ、この例文は状況によりどちらの場面でも使えます。要は、「私たちはとても近しい関係なので、何かあれば助け合いましょうね」ということです。
類語や言い換え表現は?
「一衣帯水」は中国の歴史書にある一文が語源なだけあって、類語にも馴染みの薄い難しい言葉が並ぶのが特徴。それだけに、使い分けると物知りな人という評価をもらえそう。
1:一牛鳴地(いちぎゅうめいち)
「一頭の牛の鳴き声が聞こえるほど近い距離」のこと。「一牛吼地(いちぎゅうこうち)ともいいます。人間関係というよりは、牛の鳴き声が聞こえる範囲、そのようなのどかな土地、田園風景という意味で使われます。
たとえば、「一牛鳴地のこの土地を離れたくないな」「気分転換になるから一牛鳴地の場所に別荘を持ちたい」などと使います。
2:寸歩不離(すんぽふり)
「寸歩も離れず」ともいい、意味は、「すぐそばにいること」「関係が非常に密接であること」。寸歩は「ほんの少しの歩み」「一歩も離れない」ということを表します。使う対象は人。
たとえば、「父と母は寸歩不離の仲です」など仲睦まじい様子に対して用います。
この言葉によって、隔てるものがありつつも近い関係を表す「一衣帯水」よりももっと近しい、人と人との関係性が伝わりますね。
英語表現は?
「一衣帯水」は、地理的なことでいえば、意外にストレートに英語で表現することができます。それはずばり、「narrow channel」(せまい水路)
たとえば、「That area just over the narrow channel from here.」直訳すると、「ここから狭い水路を越えたあの地域」。つまり、「あの地域とこことは一衣帯水です」と訳せます。
また、より正確で、イメージとして「一衣帯水」に近い表現が、「being separated only by a narrow strip of water(狭い水路でのみ隔てられている)」。
たとえば、「The two countries are separated by only a narrow strip of water.」直訳では「両国は狭い水路でのみ隔てられている」。これは「両国は一衣帯水の距離にある」と訳すことができます。
「一衣帯水」の英語表現は、隣国ゆえの利害関係などはあるにせよ、あくまでも地理的に隣り合っている、きわめて近いことを表すものです。
最後に
「一衣帯水」は、地理的、あるいは利害の一致や親しい間柄など、少しの隔たりはありつつも「非常に近い関係」を表すとき、さまざまなシチュエーションで使うことができます。とはいえ、国でも人同士でも「一衣帯水」の関係だからこそギクシャクする、うまくいかないというケースは少なくないよう。近い者同士、上手につきあう術を身に付けたいものですね。
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