「一を聞いて十を知る」とは
「一を聞いて十を知る」という言葉を、聞いたことがある人は多いでしょう。この言葉を聞いて「どういう意味だろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
「一を聞いて十を知る」とは、頭脳明晰であることや、理解力が早いことを意味します。ビジネスシーンなどで使うこともありますので、正しい意味や適切な使い方を見ておきたいですね。
意味は?
一(いち)を聞(き)いて十(じゅう)を知(し)る
読み方:いちをきいてじゅうをしる
《「論語」公冶長から》物事の一部を聞いただけで全部を理解できる。賢明で察しのいいことのたとえ。一を以て万(ばん)を知る。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
少しの情報で全体像を把握できたり、一つの説明で相手が伝えたいことをほぼ理解できたりすることを表す際に使います。驚くほど理解が早い人や、察しのよい人を表す際に用いられることもあるでしょう。
この言葉は「人」に対して使います。物や状況を表す際に用いることはありませんので、注意してください。
由来は?
「一を聞いて十を知る」は、中国の書物が由来とされています。思想家である孔子が『論語』の中で披露したエピソードの中にこの言葉が登場するのです。
ある日孔子は、弟子である子貢(しこう)に尋ねました。「おまえさんと顔回(非常に頭のよいとされた人物)では、どちらがすぐれていると思うか?」。この問いに対し、子貢は「それは顔回です」と答え、その理由として「顔回は一を聞いて十を知る。でも私は、一つ聞いて二つを理解する程度です」と述べました。
このことから、「一を聞いて十を知る」が広く知られるようになったとされています。
「一を聞いて十を知る」の使い方
ここからは、「一を聞いて十を知る」の使い方を見ていきましょう。使い方の特徴や例文、会話の例などを紹介します。参考にしてみてくださいね。
使い方の特徴
「一を聞いて十を知る」を使うのは、人をほめる場合が多いでしょう。その人の理解力があることや、察しが早いことなどをこの言葉にたとえて用います。また、自分に言い聞かせたり、相手にアドバイスしたりする際に使うということも。この言葉を目標のたとえとして掲げるケースもあるでしょう。
例文を紹介
「一を聞いて十を知る」の例文を見ていきましょう。
《例文》
・新人ながら、彼女の察する力の高さは驚くよ。まさに「一を聞いて十を知る」人だね
・私の目標は「一を聞いて十を知る」ことができる人になることです
・あなたが話しやすいのは、「一を聞いて十を知る」ことができるからだね
・実力をつけたいのなら、「一を聞いて十を知る」くらいの覚悟が必要だよ
・私の母はまさに「一を聞いて十を知る」。少しの説明で、すべてを理解してしまいます。
会話の例もチェック
「一を聞いて十を知る」を会話でどのように使うのかも見ていきましょう。
A:「キャリア採用でうちの部署に来てくれたCさん、すごく聡明だよ」
B:「そうなんだ。もともと優秀な人だっていう噂はあったよね」
A:「少し説明しただけで、すぐに全体像がわかるみたい。仕事の引き継ぎをしていると、理解の早さに驚くよ」
B:「さすが、部長が絶賛した人だけある。まさに一を聞いて十を知るタイプだね」
「一を聞いて十を知る」は、会話でもほめ言葉として用いることが多いでしょう。誰かをほめる際はもちろん、その本人にほめ言葉として伝える際に用いることもあります。
「一を聞いて十を知る」の類語はある?
「一を聞いて十を知る」の類語を見ていきましょう。違う言葉に言い換える際に使える表現を紹介します。
「目から鼻へ抜ける」
「目から鼻へ抜ける」とは、非常に頭のよいさまを表す言葉。物事の理解が早くて賢いことを意味します。「一を聞いて十を知る」の言い換え表現として適しているでしょう。
また、抜け目なくすばしっこいさまを表す際に使うこともあります。
《例文》彼は頭のいい青年だと思っていたが、特に理解力は飛び抜けて高い。「目から鼻へ抜ける」という言葉がピッタリの人だよ
「物分かりがよい」「物分かりが早い」
「物分かり」とは、物事を理解することを意味する言葉。スピーディーに物事を理解できることを表す場合に、「物分かりがよい」「物分かりが早い」のように使います。「一を聞いて十を知る」と非常に近い意味を持つ言葉と言えるでしょう。
《例文》新人研修を任されたが、新入社員の物分かりの早さに驚いてばかりだった
「飲み込みが早い」
「飲み込みが早い」とは、物事を理解したり納得したりすることが早いことを表します。この言葉も「一を聞いて十を知る」の言い換え表現になるでしょう。「物分かりがよい」「物分かりが早い」と同じような使い方をします。
《例文》憧れの先輩から「あなたは飲み込みが早いね」とほめられたので、舞い上がってしまった
「察しがよい」「察しが早い」
「察しがよい」の「察し」とは、物事の事情や他人の気持ちをおしはかることを表します。「察しがよい」「察しが早い」は、物事や人のことを察するのが早いという意味。「一を聞いて十を知る」に近い言葉と言えるでしょう。
《例文》クレームが発生したと伝えただけなのに、すぐに課長が対応を代わってくれた。課長の察しのよさに毎回助けられている。
「一を聞いて十を知る」のは難しい
「一を聞いて十を知る」は、簡単にできることではありません。特にビジネスシーンは多くの情報が飛び交うため、慎重に相手の話を聞くことも大切です。「一を聞いて十を知る」ことを意識するあまり、早とちりになるのは避けたいですね。
すべてを瞬時に理解することはなかなかできないかもしれませんが、そのことについて積極的に知ろうとする姿勢は持っていたいもの。知ろうとする熱意や、学ぼうとする意欲を常に持つことは、どの世界においても大切です。
最後に
「一を聞いて十を知る」について、言葉の意味や由来、使い方などをまとめました。ビジネスシーンに限らず、理解が早い人や、察しのよい人は重宝されますよね。なかなかできないことだからこそ、大きな強みになるでしょう。
「一を聞いて十を知る」ことは、容易ではありません。しかしそれを意識して経験を積み重ねれば、近づくことができるでしょう。「一を聞いて十を知る」を意識しながら、キャリアを積んでいきたいですね。
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