職場の後輩やパートナーなど、いくら注意しても言うことを聞いてくれず、困った経験はありませんか? こちらが働きかけても、まったく手応えが感じられない時に、「糠に釘」を使います。本記事では、「糠に釘」の意味や使い方、類語となる「暖簾に腕押し」などのことわざを解説しましょう。
「糠に釘」とは?
「糠に釘」の読み方は「ぬかにくぎ」。意味を辞書でみていくと、
ぬかに釘を打つこと。なんの手ごたえもなく、効き目のないことのたとえ。暖簾(のれん)に腕押し。ぬかくぎ。「いくら注意しても―だ」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
となります。「糠」は、玄米などを精白する際に出る、果皮・胚芽などのこと。きゅうりなどの野菜を漬ける「糠床(ぬかどこ)」は、この糠に水を加えたもので、柔らかい手触りがしますよね。このような糠に釘を打ったところでなんの手応えもなく意味がないことから、「糠に釘」ということわざになったとされています。
使い方を例文でチェック!
「糠に釘」は、力を入れて意見や忠告をしても、まるで手応えが感じられない状況で使います。主なパターンを3つみていきましょう。
1:後輩のAさんには、いくら注意しても糠に釘だ。
相手にいくら働きかけても全く手応えが感じられない時に、「こんなことをしても糠に釘だ」と表現します。せっかく相手のためを思って忠告したり、アドバイスしても、全く相手の心に響いていないようだと、がっかりしてしまうかも…。
2:どんなに資金を投じて対策しても、結局糠に釘だった。
お金を費やしても、現状が回復することはなく結局徒労に終わったということですね。むやみに資金を投じても、解決する問題ばかりではありません。問題の原因がなんなのかしっかりと把握してから対策を立てないと、結局糠に釘で終わることもあるでしょう。
3:〇〇町の少子化対策は結局なんの効果も上がらず、糠に釘であった。
政策がまったく効果を発揮しなかった時などにも、「糠に釘」は使われます。お金や時間、労力だけが無駄にかかっただけで、問題は解決しなかったということですね。あまりにずさんな政策だと、市民から「結局糠に釘じゃないか」と非難されることもあるでしょう。
類語や言い換え表現は?
「糠に釘」のように柔らかいものに釘を打つという意味があるのは、「豆腐に鎹(かすがい)」ということわざ。他にも、全く手応えを感じないこととして「暖簾に腕押し」「焼け石に水」なども類語になります。
1:豆腐に鎹
「豆腐に鎹(かすがい)」はどんな意味でしょうか?
少しも手ごたえがなく、ききめがないたとえ。糠(ぬか)に釘(くぎ)。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「鎹」とは、2つの木材を繋ぎ止め、しっかり固定するために打ち込む、コの字型の大きい釘のこと。柔らかい豆腐に打ちつけたところで全く意味がないことから、力を入れても、手応えや効き目がないことをたとえとして用いられるようになりました。豆腐に一生懸命釘を打つさまは、想像するとなんとなくクスッと笑える光景ですよね。「糠に釘」と一緒に使われることもあるようです。
(例文)
・この子を叱っても豆腐に鎹だよ。
・たとえ彼女に丁寧に教えても、結局豆腐に鎹だと思うよ。
2:暖簾に腕押し
「暖簾(のれん)に腕押し」の意味は、以下の通りです。
少しも手ごたえや張り合いがないことのたとえ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
家の入り口などにかけられている暖簾に体当たりすると、すかっと奥に抜けてしまうことから、「力を入れても手応えがなく、張り合いがない」ことを意味します。こちらが気合を入れて取り組もうとしていたのに、相手から思ってもみない反応をされて拍子抜けしてしまった、というような状況で使われることが多いようです。
(例文)
・取引先に交渉したが、暖簾に腕押しに終わってしまった。
・これでは、暖簾に腕押しのようなものだよ。
3:焼け石に水
「焼け石に水(やけいしにみず)」の意味は、以下の通りです。
《焼け石に水を少しばかりかけてもすぐ蒸発してしまうことから》努力や援助が少なくて、何の役にも立たないことのたとえ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
火に焼かれて熱くなった石に水をかけても、すぐに蒸発してしまいますよね。このことから、深刻な事態に対し、援助や努力が小さすぎてあまり効果がないことを「焼け石に水」を使います。
(例文)
・数千万円の借金を返すのに、数十万円を用意しても焼け石に水だ。
・失恋したばかりの彼にいくら声をかけても、焼け石に水だよ。
対義語は?
「糠に釘」は、意見や忠告が無駄であることを表す言葉。そのため、対義語としては、「意見や対策がなんらかの効果があること」を意味する言葉がふさわしいと言えるでしょう。
たとえば、「打てば響く」は、「働きかけるとすぐに反応する」という意味があります。教えたことをすぐに実践する後輩などをみて、「あの子は打てば響く子だね」などと評します。相手からのアドバイスや忠告を素直に聞くさまは、注意しても全く反応しない「糠に釘」とは正反対な態度といえますね。
(例文)
・彼は打てば響く性格だから、すぐに成長するだろう。
・「打てば響く性格は、長所だよ」と監督から言われた。
最後に
「糠に釘」とは、「手応えがなく、効き目がないことのたとえ」。相手にいくら働きかけてもまるで糠に釘を打つように、手応えが感じられないことを指す言葉です。相手に忠告やアドバイスをしても全く意味がないということの遠回しな表現としても使われます。
ビジネスシーンでも耳にする機会があるかもしれないため、この機会に意味を覚えてみてはいかがでしょうか?
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