「言わぬが花」とは?
「言わぬが花」の正しい意味や、知識として知っておきたい由来を紹介します。
「言わぬが花」ってどういう意味?
「言わぬが花」とは、「口に出して言わないほうが奥ゆかしく、差し障りがなくてよい」という意味です。「言わぬが花」は、ここでは発言を控える、あるいは控えるほうがよい、ということになります。
言わないことで想像力を掻き立てられたり、情緒が増すこともあれば、全部話すことで興醒めしたり、相手の気持ちを害することもあるかもしれません。
また、余計なことを話すより、黙っているほうが得をすることもあるなど、「言わぬが花」は場面によって多少ニュアンスは違ってきます。「言わないほうがいいこともあるよ」、「言わないほうがかえって価値があるよ」という戒めになる言葉です。
出典は浄瑠璃
この言葉の由来は、一説には江戸中期の浄瑠璃『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』の一節にあるセリフ、「三々九度うは言はぬが花嫁」が由来だとされています。
「何度も何度も言うより言わないほうが(花嫁のように)きれいだ」というような意味。「言わぬが花嫁」が短くなって「言わぬが花」となったといわれています。今ではあまり聞きませんが、「言わぬが花の吉野山」という語呂合わせで言われることも。吉野山は言わずと知れた奈良県の桜の名所ですね。
使い方を例文でチェック!
なかなか奥深い意味のある「言わぬが花」。具体的にはどういう風に使えばいいのでしょうか。
1:「話題の映画を見てきて、結末にびっくり! でもそれは言わぬが花、だよね」
わかりやすい使い方ですね。相手が映画を見るかもしれないので、「今、ここで結末を言うのは控えるね」ということです。相手が興醒めしないように、という配慮です。
2:「どっちの彼が好きかって、それは言わぬが花、でしょ」
思わせぶりで、聞いた人の想像力を掻き立てる返答。言う側がちょっと楽しんでいる印象ですが、言わないことでかえって興味が増すということも大いにあるものです。
3:「彼女のあの癖が気になるけど、言わぬが花。いつまでも友だちでいたいしね」
無くて七癖。いちいち指摘していたらきりがありません。言わずに済むことは言わないほうが、よりよい人間関係を築けるという意味の例文です。
4:「嘘がばれていることは、本人には言わぬが花だよ」
許せる嘘なら、「ばれていることを言って傷つけるより、言わないでおこう」という意味。言わないことがやさしさということもあります。
5:「どれくらい努力したかは言わぬが花。結果で判断してもらおう」
余計なことを言わず、結果を待つ。言わないことが自信でありプライドである、ということもあるでしょう。
6:「上司と意見は異なるが、それは言わぬが花だろう」
この場合は組織の中で、「言わないほうが得をする」という判断のもとでの、「言わぬが花」です。
7:「同窓会でみんな老けたなって思ったけど、それは言わぬが花。お互いさまだし」
その場の雰囲気を楽しく、和やかにするための「言わぬが花」です。
似たことわざはある?
意外に多い、「言わぬが花」に似たことわざ。ただし、意味や使い方には違いもありますので、例文を参考に的確に使い分けるようにしましょう。
1:口は災いの元
「口は災いの元」とは、「不用意な発言は自分自身に災い招くこともあるので、言葉は慎むべきものである」という戒めです。
(例文)
「口は災いの元。あの一言で親友と仲違いしてしまった」
2:沈黙は金
「沈黙は雄弁よりも価値がある」「下手な弁明をするよりも沈黙を守るほうが賢明である」という意味の、西洋のことわざです。正しくは「沈黙は金なり」。「雄弁は銀、沈黙は金」と対比で使われることもあります。
(例文)
「言いたいこともあるだろうけど、沈黙は金。しばらく時間を置いたほうがいい」
「時に沈黙は金。相手の話をしっかり聞くことが大事だよ」
3:言わぬは言うに勝る
「黙っているほうが、かえって切実な思いをよく表す」という意味です。言わないほうが情緒がある、価値があるという点で「言わぬが花」と似ています。
(例文)
「言わぬは言うに勝るというように、しゃべり過ぎると逆に気持ちは伝わらないよ」
「秘すれば花」との違い
世阿弥が著した『風姿花伝』の中の有名な一説です。一見すると「言わぬが花」の類語のようにも思いますが、実はそうではありません。
正式には「秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず」。この言葉を「何でも表に出すより、控えめで慎ましやかなほうが美しい」と捉えている人も多いようです。
もしそれなら、「言わないほうが奥ゆかしくてよい」という「言わぬが花」に似た意味になりますが、実は、「隠しているものは大したことがなくても、隠しているからこそ最大の効果を発揮する」というのが正しい意味。現代風に言えばサプライズ効果でしょうか。本来は芸道に対して使われる言葉ですが、ビジネスや勝負の世界でも秘策となるものが、「秘すれば花」なのです。
「言わぬが花」と混同しないようにしたいですね。
英語表現は?
「言わぬが花」を英語で表現するとすれば、「Better leave it unsaid.」でしょう。「Better」は「~のほうがよい」「leave it」は「そのままにしておく」。「unsaid」は「話さない」。「話さないことをそのままにしておくほうがよい」、つまり「言わぬが花」です。
ほかにも、「Silence is golden.」「Speech is silver、silence is golden.」という言い方もできます。
最後に
「言わぬが花」とは、余計なことは言わない、あえて全部は言わない、ということに趣きがあったり価値があるという意味でした。沈黙は金、口は災いの元など同じような意味を持つ言葉がいくつかあることを考えても、言うべきこと、言わないほうがいいこと、をちゃんとわきまえてこそ大人といえそうです。
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