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2024.02.03

「春眠、暁を覚えず」とは? 現代語訳や使い方、類語について解説

「春眠、暁を覚えず」とは、「春の眠りはまことに心地がいいので、夜が明けたことも気づかず、つい寝過ごしてしまう」という意味。誰もが共感する心地ですよね。本記事では、実感のこもるこのことわざの由来や使い方、類語について解説します。

春眠、暁を覚えずとは?

「春眠、暁を覚えず」。「しゅんみん、あかつきをおぼえず」と読みます。春になるとよく聞くフレーズですね。その意味は読んで連想できるように、「春は寝心地がいいので、夜が明けたことも気づかず、つい寝過ごしてしまう」ということ。

特に日本のように四季があり、ベッドに入っても体が冷える経験をすると、この春の布団の心地よさは誰もが実感するのではないでしょうか?

ベッドの上の時計
(c)Adobe Stock

春眠、暁を覚えずの作者は? 全文は?

「春眠、暁を覚えず」は、漢詩の中の一部。実は中国由来のことわざです。作者は唐の時代に活躍した詩人・孟浩然(もうこうねん)。「春眠、暁を覚えず」は『春暁(しゅんぎょう)』というタイトルの詩の冒頭の一文で、続きがあります。

全文
春眠不覚暁
(しゅんみんあかつきをおぼえず)
処処聞啼鳥
(しょしょていちょうをきく)
夜來風雨聲
(やらいふううのこえ)
花落知多少
(はなおつることしるたしょうぞ)

現代語訳
春の眠りは心地よく、夜が明けたことも気づかなかった
あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる
昨夜は激しい風雨の音が聞こえていたが
花はどれほど落ちてしまったことだろう

孟浩然は科挙(かきょ)に受からず官職に就けずに、各地を放浪。自然への親しみを詩にしました。この詩も、うつらうつらと目覚めて鳥の声を聞き、夕べの風雨のことを思い出し、花に思いを移しています。徐々に目覚める様子がよく伝わりますね。

詩の後半には物寂しさもありますが、「春眠、暁を覚えず」の一文は、うららかな春の寝心地のよさを表現しています。

使い方を例文でチェック! 使用のポイントも

よく聞くフレーズながら、普段の会話でなかなか取り入れることのない言葉、「春眠、暁を覚えず」。どんな風に使えばいいのでしょうか? 例文で紹介します。気を付けたいのは、春以外は使わない言葉であること。朝の目覚めを詩にしているので、昼寝やうたた寝にも使わないことです。

時計をおす女性
(c)Adobe Stock

1:「春眠、暁を覚えずで、なかなか布団から出られません」

目覚めたけれど、布団の中が心地よくてなかなか出られない、という状況。春の朝のまどろみの気持ちよさが感じられますね。

2:「春眠、暁を覚えずで、昼前までぐっすりだったよ」

熟睡していて昼頃にようやく目覚めたという状況は、朝になったのも気づかない、まさに「春眠、暁を覚えず」の心地です。

3:「夫がなかなか起きてくれなくて。まさに春眠、暁を覚えずです」

「春眠、暁を覚えず」は、起こす側にはちょっと困った状態。遅刻を心配する朝の光景です。「いくら春眠、暁を覚えずでも、遅刻はだめですよ」と言えば、共感しつつも注意を促す表現に。

4:「春眠、暁を覚えずというけれど、この季節は昼間でもウトウトしてしまう」

この言葉は朝しか使わないということをわかっていて、「そうは言っても昼間も眠たいよね」と表現することは間違いではありません。眠りを誘う春のやわらかな陽気が伝わるようですね。

5:「春眠、暁を覚えずというけれど、彼は毎日早起きです」

これも、「そうは言っても彼は変わらず早起きです」ということです。

類語や言い換え表現は?

春の朝は布団の中が心地よくてなかなか起きられない、という長い訳が必要な「春眠、暁を覚えず」。それだけにぴったりくる類語はなかなかないのですが、言い換えの表現としてくつか紹介しましょう。

1:「朝寝」

「朝寝」とは「朝遅くまで寝ていること」。朝遅くまで寝ている理由はさまざまですが、実は俳句では「朝寝」は春の季語です。俳句と唐代の詩がつながっているのは感慨深いですね。

「春って気持ちよく眠れるから、ついつい朝寝してしまう」というように言い換えれば、早朝か遅い朝かはともかく、寝過ごしてしまう状態が「春眠、暁を覚えず」と似た表現になります。

朝日
(c)Adobe Stock

2:「寝過ごす」

意味は、「起きる予定の時間を過ぎても寝ていること」。

寝過ごす理由も夜更かしや疲れなどいろいろありますが、「布団の中が気持ちよくてぐっすり。つい寝過ごしてしまいました」というように、心地よさから寝過ぎてしまうこともあるでしょう。

3:「ぬくぬく」

「気持ちよく温かい様子」を表す「ぬくぬく」。春の寝床そのものです。「春はぬくぬくの布団からなかなか出られません」相手にこんな風に言われると、朝寝や寝坊も納得してしまいそうですね。

春はあけぼのって類語?

漢詩が「春眠、暁を覚えず」なら、日本の古典では? そう、清少納言も随筆『枕草子』の中で、春の趣きを称えています。有名なその一説を見てみましょう。

原文
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

現代語訳

春は夜が明けようとする頃がよい。日が高くなってだんだんに白んでいく山の稜線に近い空が少し明るくなり、紫色の雲が横に細くかかっている様子が趣き深い

春の朝のよさを表している点では、「春眠、暁を覚えず」と類語です。但し、清少納言は「春のあけぼのの美しさ」を感嘆しているのであって、寝過ごすというような意味はそこには一切ありません。

また、日常会話で「春はあけぼの」を使う場面もほぼないですよね。その時間に目覚め、窓を開け、しみじみとその情景に感じ入る。寝過ごすというより、早起きの楽しみを表現しているのが「春はあけぼの」です。

最後に

春の朝は気持ち良すぎてなかなか布団から出られない、という共感しかない一文が、「春眠、暁を覚えず」。寒い冬のあとだと春の朝の温もりを本当に心地よく感じます。そんな現代の私たちと同じ気持ちを遠く唐代の詩人も感じていたこと、1000年以上も前に清少納言も春の朝の素晴らしさを称えていたことなどを知れば、古典もぐっと身近に感じられるでしょう。

寝坊の言い訳ではなく、時代を超えた季節を楽しむ言葉として、「春眠、暁を覚えず」を使いたいものですね。

TOP画像/(c) Adobe Stock

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