「おざなり」と「なおざり」、どちらを使う?
「おざなり」も「なおざり」も皆さん一度は使ったことがあるのではないでしょうか? たとえば、待ち合わせの時間を破りがちな友人に小言を言いたいとき。どちらを使えば正しいのか、迷った方もいらっしゃるのでは?
「おざなりにしたら駄目だよ」なのか「なおざりにしたら駄目だよ」なのか、悶々としているうちに怒りの勢いも薄らいでいってしまう…。 それはそれで険悪な言い合いを避けられたといえるのかもしれませんが、なんだか釈然としませんね。
そこで、本記事では「おざなり」と「なおざり」について見ていきましょう。「おざなり」と「なおざり」の意味や使い方、類語の表現などを紹介します。
「おざなり」の意味
まずは、「おざなり」から。「おざなり」とは「いいかげんに物事を済ませてしまうこと」という意味を持っています。漢字では、「御座形」と書きますが、あまり見慣れませんね。
「御座(敷)なり」が語源という説もあるようです。
かつて宴会などでお座敷が使われていた時代、外見ばかりを取り繕ったやり取りを揶揄して使われていたとされています。
「なおざり」の意味
「なおざり」にも「いいかげんに物事を済ませてしまうこと」というニュアンスがあります。ただし、それだけではなく、「ほどほどであるさま」「あっさりしているようす」を表す際にも使われますよ。
ちなみに、漢字では「等閑」と書きます。ぱっと出てきたらなかなか読めないかもしれませんね。
1330年から1331年ごろに成立されたとされる、吉田兼好(兼好法師)の随筆『徒然草』に、「よき人は、ひとへに好けるさまにも見えず、興ずるさまもなおざり(なほざり)なり」という一節があり、鎌倉時代にはすでに「なおざり」が使われていたことが分かります。
「おざなり」と「なおざり」の違い
「おざなり」と「なおざり」の意味を見てきましたが、いまいち違いが分かりませんね。調べてみると、「おざなり」と「なおざり」の使い分けについての議論は、さまざまなところで繰り広げられているようです。
ここでは、一例として『日本国語大辞典』の編集者の「おざなり」と「なおざり」の使い分けに対する考えを紹介します。
この2語は「いいかげん」という点で共通しているのだが、何かを行うとき「おざなり」は、その場のがれであまり真剣には取り組まないという意味を表すのに対して、「なおざり」はその物事にあまり注意を払わないという意味が強いように思われる。
引用:ジャパンナレッジ 知識の泉 第221回「おざなり」と「なおざり」
要するに、微妙なニュアンスの違いなのだということはここから分かります。具体例を挙げてみますね。たとえば「練習する」をテーマに、「おざなり」と「なおざり」のニュアンスの違いについて深掘りしてみましょう。
「バレーの練習をおざなりにする」は、「真剣には取り組んでいないけれども、練習そのものはしている」というニュアンス。したがって、「おざなりの練習をする」ということもできます。
一方、「バレーの練習をなおざりにする」ではどうでしょうか? 先に引用した「知識の泉」によれば、「練習そのものに注力していない、ほったらかしにしている」というニュアンスになります。ほったらかしにしているということは、「なおざりの練習をする」という表現はおかしいですね。
ただしこれはあくまでもひとつの見方です。参考にしてみてください。
「おざなり」と「なおざり」の使い方を例文で紹介
ややこしい「おざなり」と「なおざり」について、整理はできているでしょうか? ここでは、「おざなり」や「なおざり」の使い方について例文を用いながら紹介します!
おざなり編:「おざなりな仕事ぶりに、上司も二の句を継げないようだ」
さて、先ほどの復習です。「おざなり」には、「真剣に取り組んでいないけれども、その行為自体はしている」というニュアンスが含まれています。
これを仕事に置き換えた場合です。いいかげんな仕事をすれば、そのツケはいずれ回ってくるでしょう。それは、上司や周囲の人を呆れさせてしまいます。「二の句が継げない」とは、「あきれて言葉でない」という意味の慣用句です。
なおざり編:「一時期爆発的に流行した家庭用フィットネスマシーンを当時私も購入したが、いまではすっかりなおざりだ」
この場合、フィットネスマシーンは「ほったらかし」になっていると捉えられますね。したがって「おざなり」より「なおざり」がよりしっくりきます。
「おざなり」と「なおざり」の類語表現とは?
段々と「おざなり」と「なおざり」への理解も深まってきたのではないでしょうか? しかし、実際使う場面になると焦って分からなくなってしまうことも考えられます。そんなときに役立つ、類語の表現についても紹介しますね!
1:ないがしろ
「軽んじること」「しまりがなく、だらしがないさま」を「ないがしろ」と表現します。漢字では「蔑ろ」です。「おざなり」や「なおざり」のように「いいかげんであることやさま」を表すこともできますよ。
「過去の惨事をないがしろにしてはいけない」「彼をないがしろにした」のように出来事や人、さまざまな対象に使うことが可能です。
2:通り一遍
「通り一遍」とは、「うわべを繕い、誠意がないようす」「深い馴染みではなく、通るついでに立ち寄っただけ」という意味があります。「一応やる」というニュアンスなので、どちらかといえば「おざなり」に近しい言葉です。
3:ゆるがせ
あまり馴染みのない言葉かもしれませんね。「ゆるがせ」にも「物事をいい加減にしておくさま」というニュアンスがあります。ただし、ネガティブなニュアンスだけでなく、「寛大でのんびりとしているさま」というニュアンスもあるので使う際は注意しましょう。
最後に
本記事では、「おざなり」と「なおざり」の意味やニュアンスの違い、使い方などを説明しました。それぞれの漢字「御座形」、「等閑」を当てはめてみると、違いが少しわかりやすくなるかもしれません。ぜひ、この言葉を使う際の参考にしてみてくださいね。
TOP画像/(c) Adobe Stock