ナラティブは「物語」を意味する言葉
ナラティブという単語を見聞きしたことはあるけれど、意味はよく知らないという人も多いのではないでしょうか? ナラティブは、最近ビジネスシーンでの活用が増え、特に商品やサービスの購入では、よく用いられています。私たちも知らず知らずのうちにナラティブを活用しているかもしれません。
ナラティブの意味について
文芸の分野で使われていた「ナラティブ」は、医療や介護、臨床心理の分野で注目されるようになり、今ではさまざまな分野で活用されています。
ナラティブには、「物語」や「朗読による物語文学」、「話術」、「語り口」のほか「叙述すること」という意味もあります。
なお、「ナレーション」・「ナレーター」は「narrative」から派生した言葉だと言われています。
ナラティブとストーリーの意味はどう違う?
「物語」というと、「ストーリー」を思い浮かべるかもしれませんが、この2つには明確な違いがあります。
ストーリーには決められた「脚本」があり、主人公や登場人物主体で物語が進みますよね。一方のナラティブは、語り手自身が主人公。用意された脚本はなく、語り手が現在進行形で自由に物語を紡いでいくことができます。
ナラティブが脚光を浴びている理由とは?
ナラティブが脚光を浴びる大きな要素には、個人が自分の価値観を基に、消費や働き方を選ぶ時代になったことが挙げられます。これまでの画一的なパターンに当てはまらないケースが増えたため、各個人の価値観を知る必要が出てきたのです。
物語の当事者視点から語るナラティブは、個人の価値観を知るのに非常に適していると考えられています。
ナラティブアプローチについて
ナラティブアプローチは、臨床心理領域から生まれた支援の方法です。ナラティブを用いて、相談者がどのように解釈しているのかを聞き手は理解し、本人にとっての最善を見い出せるよう支援します。
ナラティブアプローチの意味や背景
従来のカウンセリングは、専門知識を持つカウンセラーと相談者の間に、大きな力の差があると言われてきました。カウンセラーがその点を考慮せずにアドバイスをすると、相談者にとって大きな負荷となり、かえって相談者を追い詰めることがあると懸念されたのです。
そこで登場したのが、ナラティブアプローチです。一人ひとりに寄り添い、相談者の価値観を尊重しながら進むナラティブアプローチは、従来のカウンセリングの在り方を見直そうという動きから生まれたとされています。
ナラティブアプローチのポイントは5つ
ナラティブアプローチは、次の5つのポイントを重視しながら進めていきます。
▷傾聴はするが、アドバイスや提案はしない
ナラティブアプローチで最初にするのが、相手の話す物語を聴くことです。この物語は「ドミナントストーリー」と呼ばれ、相談者の思い込みや勘違いが含まれているかもしれません。しかし、聞き手はアドバイスや提案はせず、相手のありのままを聴くことに徹します。
▷問題を客観的に捉えられるようにする
ドミナントストーリーを聴き終えたら、悩みや問題の原因となっていることは何かを探求。悩みを抱えているとき、人は悩みの原因を自分の一部として捉えていることがほとんどで、それが自己否定や自己嫌悪につながっています。問題を物語から切り離して考えることで、問題を客観的に捉えることができるようになるのです。
▷質問で深堀しながら、物語の詳細を引き出す
問題が見つかったら、聞き手は相談者に質問することで、内容を深堀していきます。ここで大切なのは、さまざまな角度から相手の物語を詳細に引き出すことです。問題解決のための誘導は行わず、相談者自身が気づくことに重きを置きます。
▷例外的な結果を見つける
深堀質問をしていくと、例外的な結果を見つけることがあります。ドミナントストーリーでは否定的に捉えていたけれど、よく考えると、肯定的な意味が隠れていたり、得られたことがあったり。例外的な結果を見つけると、マイナスの思い込みから離れるための気づきを得ることができるのです。
▷新たなストーリーをつくる
例外的な結果を見つけたら、そこにスポットを当て、深堀の質問をしていきます。それを繰り返すことで、ドミナントストーリーとは異なる新たな物語が見えてくるでしょう。これをオルタナティブストーリーと言い、相談者に新しい意味づけを気づかせる効果があります。
ナラティブアプローチのビジネスシーン活用
ナラティブアプローチは、臨床心理以外に、さまざまな分野で実践的に活用されています。その一例を見ていきましょう。
・臨床医学
・社会学
・司法領域
・人材採用
・キャリア教育、キャリアコンサルティングほか
上記以外に、マーケティングの世界でも、ナラティブアプローチが浸透しつつあります。
ストーリーマーケティングからナラティブマーケティングへ
これまでは、「ストーリーマーケティング」が主体でした。ストーリーマーケティングは、企業が商品やサービスにまつわる物語を一方的に発信します。そのため、一方向のコミュニケーションが主体になり、顧客心理を掴みづらいという側面がありました。
ナラティブマーケティングは、消費者が物語を紡ぐことを中心に置き、商品やサービスを展開します。そのため、その商品やサービスを使用したらどのような変化があるか、どのような生活になるかがイメージしやすくなり、消費者の信頼を得やすくなるのです。
ナラティブマーケティングは消費者が主人公
ナラティブマーケティングでは、消費者自らが商品やサービスを選び体験する機会を作ります。例えば、商品体験型イベントの開催がそれに該当。このような機会を設けることでリピート率が向上するだけでなく、PRしても刺さらなかった層にもアピールすることができるようになります。
また、SNSにより、消費者からも情報発信ができるようになったことも、ナラティブマーケティングには適しています。消費者が考えた口コミがSNSで拡散されれば、商品やサービスの認知度は上げやすくなるからです。
実際にこのナラティブマーケティングを活用し、ヒット商品やサービスを生み出している企業は少なくありません。
個人の価値観が尊重される時代だからこそ、「人と同じではなく、自分がどう考えて何を選ぶか」「自分の意見をどう伝えるか」が重要になると考えていいでしょう。
最後に
物語の意味を持つ「ナラティブ」から生まれた「ナラティブアプローチ」や「ナラティブマーケティング」は、個人の持つ価値観や働き方、生き方を尊重する今の時代に適した方法と言えるでしょう。語り手視点で語られるナラティブは、今後ますます活用シーンが増えると考えられています。ナラティブアプローチは、他者との信頼関係構築にも活用することができますから、ポイントを知り、ぜひ取り入れてみてくださいね。
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益田瑛己子
ライター・キャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー。金融機関の営業職として長年勤務し、現在はライター(ブック・Web)と就職支援をメインに活動中。3人の子供が自立し、仕事と趣味を謳歌している。
ライター所属:京都メディアライン